フィリピン 進出

フィリピン・第6回【進出編】法人設立の実務ロードマップ — SEC・BIR・LGU・SSS等の順序と「3〜6ヶ月」の現実

「ベトナムでは1ヶ月で設立できたから、フィリピンも同じだろう」——この想定が、日本本社の進出スケジュールを最も狂わせます。フィリピンの法人設立は、順調でも3ヶ月、銀行口座開設の遅延を含めると6ヶ月 が標準です。本記事では工程と詰まりポイントを実務目線で解説します。

全体工程図(標準ケース)

フィリピン・法人設立全体工程図

①SEC(証券取引委員会)登録

  • 名称予約:SECオンラインシステムで実施。類似名称は却下されるため、3〜5候補を準備。
  • 定款・付則:英語で作成。事業目的(Primary/Secondary Purpose)の記載漏れは後から大きな手戻りを生む。
  • 払込資本:銀行発行の払込証明書(Bank Certificate of Deposit)が必要。外資の場合は本国からの送金記録(Inward Remittance)も併せて整える。
  • 役員構成:取締役は最低2名、2019年改正会社法により、取締役の過半数がフィリピン居住者である必要はなくなりました。社内コーポレートセクレタリーはフィリピン人である必要あり。

②BIR(内国歳入庁)登録

  • TIN(納税者番号)取得 ※法人TIN
  • 帳簿登録(Books of Accounts):紙またはコンピュータ化帳簿
  • 領収書印刷許可(Authority to Print, ATP):認定印刷業者で印刷
  • BIRフォーム1903(雇用主登録)

詰まりポイント:ATP取得に時間がかかると、合法的に売上計上ができない期間が発生します。事業開始予定日の2ヶ月前にはBIR手続きを始めるのが安全。

③LGU(地方自治体)Business Permit

  • バランガイ・クリアランス
  • 市町村の事業許可(Mayor’s Permit)
  • 消防検査、衛生検査
  • LGUごとに様式・要求書類が異なる

詰まりポイント:マカティ、BGC(タギッグ)、セブシティなど主要LGUは比較的整備されていますが、地方都市では担当者の不在・休暇等で予期せぬ遅延が発生します。

④SSS・PhilHealth・Pag-IBIG・DOLE届出

雇用主としての各社会保険・労務当局への登録。並行して進められる工程ですが、雇用開始前に完了している必要があります。

⑤銀行口座開設 — 最大のボトルネック

近年のAML(マネーロンダリング対策)強化により、外資100%の現地法人の口座開設は審査が厳格化しています。

  • 必要書類:SEC登録証、定款、取締役決議、株主のKYC(パスポート、住所証明)、本社の登記簿謄本(英訳・公証付)等
  • 期間:1〜4ヶ月(銀行による)
  • 詰まりポイント:本社のUltimate Beneficial Owner(UBO)情報の提出、複数株主の場合の構成証明、日本側のApostille認証

外資進出に経験豊富な銀行(BDO、BPI、Metrobank、UnionBank、シティバンク、HSBC、MUFG、SMBC等)を選定することが、開設スピードに直結します。

最近は「デジタル銀行」の活用や、日本に支店がある銀行(MUFG, SMBC等)を経由した「ジャパンデスク」の活用が有効な対策として挙げられます。

⑥PEZA/BOI登録(該当する場合)

事業開始前の登録が原則。CREATE MORE法のもとでは20営業日以内の裁定が義務化されましたが、書類不備による「書類完備日」のカウント開始が遅れるケースが頻発します。

典型的な詰まりポイント

  1. 本社書類のApostille認証漏れ:日本側で公証を取り直すと2週間ロス
  2. 払込資本の入金タイミング:SEC登録前の入金は受理されない銀行も
  3. コーポレートセクレタリーの選定:信頼できるフィリピン人公認会計士または弁護士を確保しておく必要
  4. 事業目的の記載漏れ:定款の事業目的に書いていない活動は後から行えない
  5. PEZA/BOIへの並行申請の遅れ:免税効果のスタートが遅れる

まとめ

「設立3〜6ヶ月+優遇登録1〜3ヶ月」が現実的なスケジュール。本社稟議で「半年後の事業開始」を約束する場合、稟議承認の翌日から動き出す必要があります。