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国際税務は経済戦争?!(16)

Section 899の特徴

前回のコラムでは、米国がグローバル・ミニマム・タックスに対する対抗策として導入を目指したSection 899についてその概要と想定される影響について考察した。このSection 899に関する重要な特徴は、そのターゲットが米国が差別的課税ないし域外課税とみなす税制を採用する国・地域に対して課税していくという、国際税務のこれまでの常識的なフレームワークの中では考えにくい異例の構成をとっている点である。

税務とはそもそも企業間の取引等の一定の経済活動に対して、その構成要素を分解しその取引に関する損益構造を明らかにしたうえで、どのように課税していくのかということを決めるという普遍的な性質を有している。これは国際税務となったところで、その取引のテリトリーが国境をまたぐということと、複数の課税権を有する国家が課税を模索し、その結果に対して一定の調整が行われる場合があるということぐらいで、取引の構成内容を分析して課税していくという基本原則は変わらない。

Section 899の無言の圧力

これに対してSection 899は、課税ターゲットに関して特定の取引を対象として考案されたものではなく、まさにグローバル・ミニマム・タックス的な課税体系をサポートする国家ないし地域全体をターゲットにして導入が意図されたものである。これまで低税率国に対抗する税制などは存在するが、このようなテリトリアルな法的意思決定を露骨に課税ターゲットにした法令というのはあまり前例がなく、このためその対象となるテリトリーのどのような主体やどのような対象が課税になるのかというものが見えにくい。たとえば、その国で設立された法人だけが対象になるのか、中間持株会社も対象になるのか、個人はどうか、またアメリカとの関係性がどのようになった場合に課税されるのかなどが、法案の最終的な形を見るまでは判断できないという問題があった。

もちろん、法案が通って課税範囲などが条文レベルである程度明確化し、実務的な注釈などが出てくればこの辺は少しずつ明らかになってくるのであるが、その前段階の最終的な姿が不明確な時点では、ありとあらゆる可能性が考えられるため、実はとんでもない課税になるのではないかという恐怖心に掻き立てられたとしても不思議ではない。また、「差別的課税」や「域外課税」なるものが最終的に明確になるレベルにまで具体的に定義されない可能性もあり、要はアメリカの主観的判断によって重大な課税が決められることになってしまうという恐れもぬぐい去れないのである。

主要EU諸国の立場

グローバル・ミニマム・タックスの旗振り役であるOECD、それの構成国である主要EU諸国としては、このアメリカの想像以上の反撃にどのように対処すべきかを慎重に判断する必要があった。もちろん、自国民ないし自国企業に課されるSection 899の課税も耐え難いが、もっと重要なのは、これまで非常に多くの時間と労力をかけて作り上げてきたグローバル・ミニマム・タックス及びそれに付随するBEPSのさまざまなフレームワークに対する影響である。もし、Section 899にびびってグローバル・ミニマム・タックスを引っ込めたり、引っ込めるまではしなくてもルールを緩和したりすれば、いままでOECDがリードしてきた議論の信頼性が損なわれて、今後のBEPSをはじめとしたOECDがイニシアティブをとってきた国際税務の新たな枠組み作りに支障をきたすことになりかねない。

ただ、そうだからといってSection 899に対して何もせず、やれるものならどうぞというような対応をした場合には、OECD加盟国全体に甚大な被害が及びかねない。その結果として、実際にこうむる被害のみならず、BEPSから一定の距離を置くOECD諸国も出てくることが予想され、その結束力にひびが入ってしまうという懸念がある。つまり、EU側はメンツを保ちつつ実害が出ないようにするという難題をつきつけられたのである。

Side by Side Agreement

このような背景を経てひねり出されてきたのがSide by Sideという考え方である。これは、OECDは国際的な低税率競争の問題に関してグローバル・ミニマム・タックスを指向してきたが、アメリカは別のやり方を指向してきた、これを相互に別々のものとして認めるという考え方に基づくものである。つまりOECDスタイルと米国スタイルを一つにするのではなく、並行的に共存させようという試みである。

具体的には、一定の要件を満たした場合には、IIRやUTPRの課税を免除するという形で議論が進み、アメリカもそれに同意することで、2026年1月にSide by Side Agreement/Packageという形で決着することになった。この結果アメリカは、結果的にSection 899をちらつかせただけで、当初の目的であるIIR及びUTPRの自国適用の排除を成し遂げたことになる。EU側はアメリカをグローバル・ミニマム・タックスに巻き込む、そして国際税務全体のイニシアティブを握るという目的は達成できなかったが、グローバル・ミニマム・タックスを中心とするBEPSのフレームワークを辛うじて維持できたという結末になった。この間のさまざまな駆け引きの顛末は、実質的にアメリカの勝利といってよいであろう。

次回はSide by Side Agreement/Packageの中身及びその後の国際税務の世界の動きについて触れていくことにする。