グローバル
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グローバル・国際税務は経済戦争?!(12)
もう一つの大国中国
前回のコラムでは、アメリカがグローバル・ミニマム課税に対してどのように反応し、それに対してどのような対抗策を講じてきたかという点について説明した。トランプ政権はGlobal Tax Deal大統領令やSection 899などにより、EU諸国が先導してきたグローバル・ミニマム課税に対して露骨にNoという激しいリアクションを突き付けたのである。
これに対してもう一つの大国中国の対応はどうかという点は注目に値する。中国の外交はアメリカのように華々しい大立ち回りを演じて存在感を示すというよりは、国際的に共有されている一般的な価値観やルールに反することを露骨に主張して波風を立てることは避けるものの、水面下でグレーゾーンを巧みに突いて実利をしっかりとるという印象がある。そして国としての主権を損なうことやメンツをつぶされることに対しては、非常に強い拒絶反応を示して徹底的に対抗するという側面も忘れてはならない。
中国のこれまでのBEPS対応の流れ
少し意外な感じがするが、実は中国は当初からBEPSプロジェクトに深く関与し、国内法への取り込み及び執行強化に積極的に対処していたのである。これは、これまでの中国の経済発展の歴史と関係している。中国はアメリカとは異なり、第二次世界大戦後の経済発展と産業の高度化の流れの中では明白に後発組である。いうまでもなく、経済発展のドライバーは、欧米や日本などの先進国を自国に投資させ、経済発展を図るとともに先進的技術を学び自国企業に取り込むというスタイルである。
中国独自の移転価格税制の考え方
中国が初期のBEPSで重視したのは移転価格税制の情報インフラ整備と厳格化である。マスターファイル、ローカルファイルや国別報告書も日本とほぼ同時期にいち早くかつ厳格な形で導入した。その目的は単に税務情報の取得にとどまらず、各外資系企業の製品ラインや物流の情報取得なども意図されていた可能性がある。また、中国は、移転価格税制にLSAという独自の考え方を持ち出して課税額の増加を図っている。LSAとは、Location Specific Advantagesの略でわかりやすくいうと中国という他に類を見ない独自の国でビジネスを行うことにより外国企業は多大なる利益を得ているというロジックである。
このLSAはMarket PremiumとLocation Savingの2つに分けられる。Market Premiumとは、中国の巨大な人口と成長する経済により他国のマーケットと比べて多額の利益が得られる構造になっているというものであり、また、Location Savingとは、中国の低賃金と効率的なサプライチェーンにより他国と比べて効率的な製造が行えているというものである。移転価格税制は本来異なる国に所在する関連企業の活動の貢献度により利益を配分するというコンセプトであるが、中国企業の本来的な付加価値に対する貢献度は低いため、中国企業への配分利益が低く算定されがちな標準的な移転価格税制の考え方を再解釈して、中国という特殊な国で活動しているということそのものの有利性を企業価値に反映すべきという独特なロジックで課税を行ってきている。これを強化する材料としてBEPSを用いているのである。これは、まさに原理原則には反対せず、すれすれのグレーゾーンを突いて実利を得る中国のこれまでのやり方に通じるものがある。
中国のグローバル・ミニマム課税への対応
それでは、中国はグローバル・ミニマム課税にはどのように対応しているのか。結論から言うとまだ法制化していない。したがって、本コラムが執筆されている2026年6月現在において、中国ではグローバル・ミニマム課税の適用はなされてない。この背景は察するに複雑である。中国はアメリカのようにグローバル・ミニマム課税に真っ向から反対の立場というわけではない。ただ、アメリカとは状況がかなり異なる。アメリカ大企業の多くは高度に国際化しており、世界のあらゆる地点に拠点を有している。タックスプランニングも盛んに行われており、グローバル・ミニマム課税の影響は極めて大きい。これに対して、中国は一部の大企業は国際化しているがアメリカほどではない。身近に香港やシンガポールという伝統的な低税率地域があり、無理をしてタックスプランニングする必要性に乏しい。本国の税率も25%と標準的である。
中国はハイテク産業が国家をさらに発展させるうえで最も重要と位置付けている節があり、15%のハイテク減税を導入している。グローバル・ミニマム課税の導入は、この流れに水を差しかねない。さらにアメリカがグローバル・ミニマム課税に背を向けたことで、すぐ導入しなくても非難されにくい状況になった。そして、アメリカもそうであるが気に入らない点は、主要EU諸国があたかも税務の立法権を全世界に広げているかのようなルールに素直に追従したくないということも主要な動機としてあると推測している。今後の展開は読めないが、移転価格税制のLSAのような形で落としどころを探る可能性があるのではないかと推察している。つまり、グローバル・ミニマム課税は導入するが、LSAのような中国に一方的に有利なルールを追加して実利を取り、似て非なるものにして同時に一定のメンツを保つというシナリオである。いずれにしても、今後の動きは要注目といえよう。
次回はアメリカの対抗策Section 899と、これに対するEUの妥協案についてふれていくことにする。