グローバル
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国際税務は経済戦争?!(15)
グローバル・ミニマム・タックスに対する米国の対抗策Section 899
前回のコラムでは、米国がグローバル・ミニマム・タックスに対してなぜ強い拒絶反応を示すのかということを若干の憶測を交えて深堀した。今回は、このグローバル・ミニマム・タックスへの米国の対抗策について触れていくこととする。
Section 899のトリガー要件
Section 899は、グローバル・ミニマム・タックスに対する報復法案とでもいうべきもので、2025年の米国における包括的な予算及び税制に関する法案である「One Big Beautiful Bill Act(OBBBA)」に盛り込まれていた。このSection 899の重要な特徴としてあげられるのは、そのトリガーの要件として米国との直接的な関係性いかんにかかわらず、単に「差別的」または「域外(Extraterritorial)」課税を行使する税法を可決し発効させたという点をもって発動できるという点である。この「差別的」かどうかは主観的判断に影響されるし、何をもって「域外」課税とするのかも、特に不公平とは認知されていない外国法人に対する課税が各国であまた行われている現状においては不明確な部分が残ることになりかねない。いずれにせよ、米国に不利益を及ぼす税制は幅広くそのターゲットとなりかねないプレッシャーを与えることに主眼を置いているといえる。香港などいくつかの国や地域が、米国が「差別的」と想定している税制の一つUTPRの導入に慎重だったことを思い出してほしい。
付加税率
次にSection 899の具体的な内容についてふれていこう。Section 899の中核を構成するのがこの付加税率である。これは源泉所得税を含む所得税と法人税を対象としている。この付加税率は、初年度は5%で次年度以降5%ずつ上乗せされ、最高で20%まで加算される(のちに最高15%に修正)。この上乗せ課税のメカニズムは、しばしば相手に正しい対応を促すために導入されるが、今回もまさに「差別的」な税制を改めるように諸外国に促す効果を狙っているものと思われる。ただ、それ以前の問題として、そもそも5%の上乗せ税率でも厳しいのに、それ以上の甚大なる被害を及ぼす取り決めが存在した。
租税条約の不適用の脅し
それは法案となる前段階の原案で明記されていた租税条約の不適用である。多くの場合源泉税は、配当や利子などの投資所得に課される場合が多い。米国が締結する租税条約においては、ほとんどのケースで0%、5%ないし10%のいずれかの軽減税率が適用される。しかしながら、もし租税条約が適用されない場合、米国における原則的な源泉税率はなんと30%である。この30%に付加税率である5%〜20%が追加されるとしたなら、そもそも論としてその影響は痛い追加支出というレベルではなく、ビジネスとして成り立つかどうかという検証が必要なレベルとなってくる場合がほとんどであるといえよう。その後の法案の審議の過程でこのあたりはよりマイルドな形での修正が加えられたが、その後の審議の動向いかんでは最終的にどのような形になるかは予断を許さない状況であった。なぜこのような過激とも思える課税について議会で審議していたかというと、このようなプロセスを見せつけることにより、米国に対するグローバル・ミニマム・タックスの課税をあきらめさせることがその目的であったからである。
適用対象者(Applicable Person)
Section 899は、その課税要件が「差別的」ないし「域外」課税を行使する税法を可決し発効させたという事実ということになるが、そのような税法を可決した国や地域のどのような主体が課税対象になるかによって、実際の課税の姿は大きく変わってくることになる。
まず個人はどのように取り扱われるのであろうか。例えば日本が問題国となった場合に、日本国籍の人全員が対象となるのであろうか。法案では個人の課税対象は、問題国の税務上の居住者で米国市民や米国居住者でない者であるとされ、国籍ではなく税務上の居住者概念が採用されていた。さきほどの日本が問題国となった場合の例では、日本人でも例えば香港に住んでいる日本の非居住者である場合は対象とならないことになる。ただ、逆に日本は問題国でなく逆に香港が問題地域とされた場合には、香港に住んでいる日本人は対象になることになる。
法人の場合は、問題国の居住者である法人で米国所有外国法人でないものということになる。また、問題国の居住法人でなくても、Applicable Personに50%超所有されている法人も上場企業を除いて原則として適用対象となる。このあたりの適用関係は実際に複雑な資本構成の会社の場合判定がややこしくなりそうだ。これに付随して生じるのが源泉徴収の問題である。基本源泉徴収は、相手がApplicable Personかどうかで適用対象かどうかを判定するのであるが、これが難しいとなると、源泉税を控除する支払い側が十分な情報が得られないまま保守的な対応(つまり適用対象かどうか不明な場合に、適用対象とみなして高率で源泉徴収すること)をする可能性があり、混乱は避けられそうにない。
ご覧いただいたように、その内容を詳細に見ていくと、Section 899は、トランプ関税と同様に、事実上ほぼ脅迫に近い内容のものとなっている。これを米国がOBBBA(「1つの大きく美しい法案」)に含める形で、法案可決に向けて、じりじりと圧力をかけるかのように着々と審議を進める中で、EU側(正確には米国以外のその他のG7諸国だが、議論の主導権を握っているのはEU主要国だと思われるのであえてこの表現を使っている)がこれに対応した動きを見せることになる。次回はSection 899に呼応する形でEU側が提示してきた妥協案についてふれることにしたい。