グローバル
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グローバル・国際税務は経済戦争?!(13)
前回のコラムでは、BEPS及びグローバル・ミニマム課税というトピカルな国際税務の潮流に対して、もう一つの大国中国がどのようなスタンスを取り、今後のビジョンをどのように描いているかについて考察した。前回も述べたが、中国は国際税務の世界では明確に後発部隊である。そのため、これまでの中国の国際税務における基本的なポジションは、欧米主要国が事実上決めている国際税務のルールに対して、巧みなロジックを駆使していかに実利を得ていくかということに注力していたといえる。例えば、特にわりと最近まで中国は国としての経済力は先進国レベルであるものの、国民一人当たりのGDPが大きくないこと等を理由にして、タックス・スペアリング・クレジットなどのような発展途上国としての特権的な取り扱いを極力維持してきたという側面がある。
タックス・スペアリング・クレジット
タックス・スペアリング・クレジットとは、各国の投資優遇税制や租税条約によって認められた軽減税率の適用が、投資元の国の外国税額控除の減少につながらないように、投資元の国であたかも軽減税率の適用が無かったかのようにみなして外国税額控除の適用が行えるというものである。これはコンセプトとしては、投資元の国が先進国で投資先の国が発展途上国であることが想定されている。
タックス・スペアリング・クレジットの適用例
少しわかりにくいと思うので例を挙げて説明する。
日本法人J社の100%子会社の中国法人C社が、ライセンス使用料100をJ社に支払ったとする。これに対する中国側の課税が源泉徴収10%のみであるとする。この場合C社は100から中国の源泉税の10(100×10%)を控除した90をJ社に支払う。
これに対してJ社は、日本の法人税申告時に外国税額控除を適用することにより、中国で控除された源泉税を取り戻そうとする。なぜなら、本件ライセンス使用料について中国で源泉税10を課されているのみならず、日本でも法人税を課され二重課税の状態になっているからである。仮に日本の法人税率を30%とすると、本件ライセンス使用料には日本の法人税が30(100×30%)課されることになる。
ここでJ社が法人税に外国税額控除を適用した場合にはどうなるであろうか。通常の外国税額控除の場合は、本件ライセンス使用料に係る法人税は20(30-10)になる。実際は、控除限度額の計算その他もろもろの複雑なルールがあって、単純に中国の外国税10が控除できるという結論にはなるとは限らないのであるが、ここではシンプルに10が控除できると仮定する。
それではさらに、J社が日中租税条約で規定されているタックス・スペアリング・クレジットを適用するとどうなるであろうか。簡単に結論から言うと、本件ライセンス使用料に対する中国の源泉税率10%を20%とみなして、法人税から20の控除が認められることになるのである。この結果本件ライセンス使用料に関する法人税は10(30-20)になる。つまりJ社から見ると、払ってもいない源泉税10を法人税から控除できる極めて有利な制度といえる。
タックス・スペアリング・クレジットのトレンド
このタックス・スペアリング・クレジットの全体像は、発展途上国への投資活動を阻害しないように、国際的な途上国支援政策の一環として、日本の税金を犠牲にして投資企業と途上国である投資先国を保護する仕組みであるといえる。
ただし、このタックス・スペアリング・クレジットは時代の変化や様々な理由により、世界的に大幅な縮小傾向にある。しかしながら、驚くべきことにこの日中租税条約の使用料に関するタックス・スペアリング・クレジットは、このご時世で未だに有効である。これは中国の国際税務における途上国扱いポジションキープの努力の賜物だと言えるであろう。
またそもそも、もう一つの大国かつ国際税務の主役のアメリカが、課税の公平性という理由によりタックス・スペアリング・クレジットの適用を最初から一切認めていないのも興味深い点である。この制度はヨーロッパが1950年代から60年代にかけて積極的に導入したもので、うがった見方をすれば植民地保護の匂いがするというのも理由の一つかもしれない。
中国の立ち位置の変化
中国の巧みな途上国アピールの話からタックス・スペアリング・クレジットの話が長くなってしまったが、さすがに中国も明示的ではないものの段階的に自国の適用するタックス・スペアリング・クレジットの事実上の縮小を認めている。例えば2008年の外資優遇税制の廃止により、タックス・スペアリング・クレジットが認められる範囲も結果的に縮小していくことになったが、その点に関する新たな要求は行われていない。また、2025年には、WTOの関税や補助金を含む貿易ルールに関する途上国扱いを要求しないことを自ら表明している。これらの動きは、中国が実利をキープするための途上国扱いメリットの維持よりも、国際税務において大国としてのポジショニングを行うことによる、将来的な影響力を行使する方向へとかじ取りを変更したものと考えることができるであろう。
次回は元の話題に戻って、Pillar2に対するアメリカの対抗策Section 899と、これに対するEUの妥協案についてふれていくことにする。