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国際税務は経済戦争?!(14)

前回のコラムでは、中国の国際税務に対するこれまでのスタンスと、BEPS及びグローバル・ミニマム課税という新たな国際税務の動向に対してどのようにスタンスを微調整していっているかについて述べた。今回は米国の話題に戻り、米国がなぜグローバル・ミニマム・タックスに対して強い拒絶反応を示すのかという点について深堀りしていきたいと思う。

世界一ハイレベルな米国税法

米国の税法は、非常にタフな米国議会において複雑なプロセスによって十分すぎるほどのディベートが行われた結果を法律として体系化されているのみならず、コモンローの概念から緻密に積み重ねられた判例の集積がそれをバックアップすることにより、極めて高度化された複雑なものとなっている。いわばダントツで世界一複雑かつハイレベルな税制を有していると断言できる。日本の税制もかなり複雑で、すべてを完全に学ぶには、忙しい日常生活を送りながらであれば人の一生をかけても足りないくらいと凡人である筆者などは感じるが、それでも日本の税法は米国の足元にも及ばないと言っていいであろう。

EUがリードするBEPSに対する不快感

このため、EUが実質的に国際税務の立法権を握るかのようなBEPSの動きに対して、米国がこれまでも一定の拒絶反応を示していたのは当然のことである。それは、単に世界一の超大国として自分が国際税務の主導権を握れないということへの不満だけでなく、自らが世界最高レベルの税制を有しているにもかかわらず、それに対してEUが横から変てこな制度をグローバルレベルで押し付けてくることは、自国の税法に対する冒とくだと感じていることも関係していると思われる。すなわち、自らの国力と税法の完成度の両面からプライドが許さないのである。

グローバル・ミニマム・タックスのターゲット

このため、米国がそもそもBEPSの議論をベースにしたグローバル・ミニマム・タックスに素直に従うとは考えにくい。また以前にも指摘したが、グローバル・ミニマム・タックスの最大のターゲットは、高度なタックスプランニングを駆使する米国企業である。このため、BEPSのコンセプトが気に入らないだけでなく、グローバル・ミニマム・タックスはそのメインの被害者が米国企業だから、米国にとって面白かろうはずがない。

グローバル・ミニマム・タックスの落とし穴①

上記の概念的な問題点に加えて、グローバル・ミニマム・タックスには米国にとって落とし穴ともいえる罠が仕組まれている。例えばUTPR(Undertaxed Profits Rule)を例に挙げてみよう。米国法人を対象とした場合の典型的なグローバル・ミニマム・タックスの適用局面は、米国親会社、欧州中間持株会社、タックスヘイブン孫会社のストラクチャーである。ここで米国親会社をU社、欧州中間持株会社をE社、タックスヘイブン孫会社をT社とする。

米国がグローバル・ミニマム・タックスを導入していない場合のUTPR適用ストラクチャー図

グローバル・ミニマム・タックスは、シンプルに言うとT社の税率が15%未満である場合に15%との差額に追加課税を行うものであるが、課税を行う順序は①QDMTT→②IIR→③UTPRとなる。ここで、低税率国Lに①QDMTTが導入されていなかったとすると、通常は究極の親会社U社の所在国である米国がIIRに基づいて差額に課税を行うことができる。ところが、もし米国がグローバル・ミニマム・タックスを導入していなかったらどうであろうか。米国にIIRがないことから②IIRの課税も見送られ、結果的に③UTPRが適用されてE社所在のヨーロッパの国が米国の多国籍企業に課税できるのである。これは見方を変えれば、米国がグローバル・ミニマム・タックスを導入しないのであれば、米国企業グループのヨーロッパとは関係のない利益もヨーロッパで課税しますよという脅しと取れなくもない。

グローバル・ミニマム・タックスの落とし穴②

少数株主がいる場合にIIRの課税主体が欧州へ移転するストラクチャー図

上記の例で別の米国法人V社がE社株式を20%超保有していて一定の条件を満たした場合、IIRの適用はU社レベルではなくE社レベルになる。その理由は、U社で課税されるとV社の税負担がなくなるため、少数株主を不当に利するからだと説明される。一見もっともらしい説明だが、結果的にIIRの課税主体が米国から欧州に移動することになる。単純に考えれば、U社とV社の2社をIIRの課税主体とすればいいだけではないかと思うがそのようなやり方は採用されていない。このケースは米国がグローバル・ミニマム・タックスを採用するかどうかに関係なく課税権が欧州に移転するのである。このように米国にとってグローバル・ミニマム・タックスは、単に概念的なマイナス面だけでなく、米国が実質的に損する規定がちりばめられている。それゆえトランプ政権が強い拒絶反応を示しているのである。

次回はアメリカの怒りの対抗策であるSection 899の中身について具体的に説明していく。