ベトナム

[ベトナム会計税務入門] 会計法の概要

ベトナムでは、2003年に施行された会計法(2015年に改定)によって会計制度の大枠が定められています。それに基づき、財務省がベトナム会計基準および会計システムを作成しました。全ての外資企業は、原則としてこのベトナム会計基準と会計システムに基づいて財務諸表を作成することが義務付けられています。
ベトナムに法人を設立後、どのような会計制度対応をしてゆかねばならないか。また、関係当局に申請しなければならない手続きについても事前に認識しておく必要があります。本稿では外資企業に必須となるこうした会計制度対応について解説します。

1. 採用会計基準、決算期の登録

ベトナムでは、法人設立ライセンスの取得後、会計年度、会計に使用する通貨、採用する会計方針などを税務局に申請登録しなければなりません。
また、原則として1月1日から12月31日を会計年度としています。しかし本社の方針などを考慮して、3月末、6月末、9月末を会計年度末として、採用することも可能です。

採用する会計方針については、棚卸資産の記録方法や固定資産の減価償却  方法、製品の原価計算方法などを申請登録します。
会計記帳に使用する通貨は原則ベトナムドンですが、殆どの取引を外貨で行う などの条件を満たしていれば、外貨による記帳も認められています。但し、外貨で記帳を行ったとしても、ベトナムでの使用を目的とした財務諸表を作成するときは、財務省が規定した外貨為替レートを用いて、ベトナムドンに換算した財務諸表を作成しなければなりません。

棚卸資産の記録方法は、先入先出法、個別法、加重平均法の中から選択し申請します。また、小売業の場合、売価還元法も認められています。
ベトナムでの固定資産の計上基準は、取得原価が3,000万ベトナムドン以上かつ1年以上使用するものが対象となります。減価償却の方法には、定額法と定率法がありますが、定率法を採用するには新品の資産でなければならず、実験に用いられる資産であるなどの条件があるため、殆どの固定資産が定額法で償却されます。償却期間は税務上、固定資産の種類ごとに最短期間から最長期間が定められていますので、会計上も通常その範囲で選択し償却を行います。

2. 会計記録

ベトナムの会計原則では、勘定科目および勘定科目番号が決まっており、それに合わせて記帳をします。ベトナムでは、貸借対照表、損益計算表、キャッシュフロー計算書および財務諸表の注記事項の4種類が、財務諸表の一式となります。その様式は法令上決まっているので、規定の様式に沿った作成が求められます。

会計帳簿への記帳には、勘定科目、摘要などをベトナム語で記載します。英語や日本語などの併記も認められますが、ベトナム語の記載は必須です。
収益、費用、資産、負債は、レッドインボイスなどの証憑(しょうひょう)類に基づき記帳を行います。インボイスに不備がある場合は、会計記録の証憑として認められませんので注意が必要です。

ベトナムドン以外の通貨での取引については、取引日における実際の銀行為替レートを用いてベトナムドンに換算します。外貨の貨幣性資産・負債が期末に計上されている場合、通常、取引をしている銀行の貸借対象日の為替レートを用いて再換算し、発生した実現・未実現為替差損益は損益計算書で認識されます。記帳に使った証憑類および会計帳簿は、最低10年間保存しなければなりません。

3. チーフアカウンタント制度

企業は、法人設立後1年以内に、経理責任者としてチーフアカウンタントの資格を持ったスタッフを任命し、税務局に届け出なければなりません。

チーフアカウンタントの要件は、一定期間の実務経験を経て、大学、短大、会計士協会などが設ける認定コースを受講し、試験に合格した資格証明書を有する者となります。当然ながら、経理責任者として、適切な職業倫理観を持ち、誠実であることが企業からは求められます。
チーフアカウンタントの責任は、会計・税務関連法令を順守し、企業の経理部門を管理することです。決算書類の作成に際してチーフアカウンタントとしての署名が求められ、財務諸表の作成に関して、経営者と共に責任を負うこととなります。

現実問題として、チーフアカウンタント認定コースに登録後、実際にコースを受講しなくとも受験が可能であり、その合格率はほぼ100%と言われています。企業がチーフアカウンタントの資格を持ったスタッフを雇っても、経理および会計知識が乏しく、資格を持っていても実力が伴っていないという話もよく聞きます。各企業のチーフアカウンタントは、会社の財務会計に関する正確な数値算出と情報開示の責任を負う重要なポジションですので、実力・経験豊富な人材が求められます。

4. 法定監査制度

外資企業には、作成した期末財務諸表への法定監査が義務付けられています。財務諸表がベトナムの会計基準に準拠して適正に作成されているか、虚偽記載および重大な誤りがないかなど、監査法人は監査を実施して、その結果に関する評価や意見を表明した監査報告書を作成します。この監査報告書はベトナム語、および日本語を含めた他言語で作成され、財務諸表と共に期末日から90日以内に関連する行政機関に提出します。提出先は、税務局、統計局、および計画投資局ですが、工業団地に入居している企業などは工業団地管理委員会に提出する場合もあります。

なお、ベトナムに法人を設立した日(ライセンス日付)から90日以内に決算期を 迎える場合は、その年の決算を省き、次年度にまとめて決算および監査を実施 することが認められています。
また、法定監査は原則、期末に年1度ですが、本社の方針などにより中間および四半期決算監査を行うことも可能です。