シンガポール 移住・赴任関連

シンガポール生活スターターキット -住まい・銀行・医療・学校・車の実務-

シンガポールへの赴任・移住が決まってから、実際に生活が回り始めるまでには、想像以上に多くの手続きがあります。しかもその多くは順番が決まっており、一つ前が終わらないと次に進めません。

本稿は、渡星前の準備から入居・開設・入学までを、実務の順序に沿って整理したものです。金額は2026年8月時点の情報に基づく目安であり、制度も相場も変動しますので、実行前には必ず最新情報をご確認ください。

目次

1. 渡星までのタイムライン

手続きには依存関係があります。特に「EPカード(MOMを予約し来所して写真撮影や指紋押捺後、数日でSG住所またはビザエージェント宛に配達される) → SingPass(アプリでの認証) → 銀行口座開設」の連鎖と、「賃貸契約 → 住所証明 → 銀行口座」の連鎖は避けられません。

時期 やること 場所
3〜6か月前 ペットを連れて行く場合の準備開始(狂犬病抗体検査は時間がかかります) 日本
3〜4か月前 学校の出願(インター校は特に早め) 日本
2〜3か月前 船便の発送手配 日本
2か月前 EP申請(会社経由)、DP/STPの申請 会社・MOM
1〜2か月前 携帯回線の契約・SIM受取(可) 日本
IPA取得後 物件の内見・賃貸契約(日本からの契約も可能) 日本/SG
渡星前 Grabアプリの登録、クレジットカード紐付け 日本
渡星前 引越荷物のGST免除申請(輸入前に必須 Singapore Customs
渡航直後 EPカード発行手続き(MOM) SG
渡航直後 SingPass登録 SG
入居後 公共料金・ネット回線の契約 SG
住所確定後 銀行口座開設 SG
到着後3か月以内 在留届(在シンガポール日本国大使館・ORRnet) オンライン
到着後1年以内 運転免許の切替(車を使う場合) Traffic Police

日本にいるうちにできることが意外に多い点がポイントです。物件契約、携帯契約、Grab登録、学校出願、日本人会入会、船便発送は、いずれも渡星前に進められます。船便は、2〜3か月かかることがありますので、早めに、運送業者にご確認ください。

2. 住まいを決める:物件の種類・探し方・契約の流れと初期費用

2-1. 物件の種類

種類 特徴 想定家賃(月額)
コンドミニアム 日系企業駐在員の主流。ジム、プール、24時間警備、シャトルバス等の共用設備が充実 1〜2BR:S$4,000〜7,000/3BR:S$6,000〜10,000超
地域や物件グレードにより異なります。
HDB(公営住宅) 賃料を抑えられる。外国人も一定の条件下で賃借可。共用設備はない コンドの5〜7割程度
戸建(テラスハウス・セミD) 広さがあるが数が少なく、賃料も高い 物件により大きく変動

(注)BR:ベッドルーム数

コンドミニアムは、冷蔵庫・エアコン・洗濯機・電子レンジ・ベッド・ソファ・食卓などの家具家電付き(Fully Furnished)が一般的です。ただし炊飯器、電気ケトル、鍋、食器類は自分で揃える必要があります。

2-2. 物件の探し方

  • 不動産仲介業者:日系・ローカル系ともにあり、日本語対応が可能な業者も存在し、日本人担当者がつくケースもあります。
  • 物件検索サイト:PropertyGuru、99.co が二大サイトです。

PropertyGuru
99.co

  • リモート内見:日本語がわかるシンガポール人スタッフがZoomで代理内覧するサービスもあります。日本にいながら、物件の概要を見ることが可能。シンガポールでは入居中の物件でも、オーナーの了解のもと内覧できるのが通常です。
  • 日本からの契約:ビザ(IPA、EPカード発行前でも)が下り次第、日本にいる間に賃貸契約を締結できる物件があります。この場合、後述するスタンプデューティ(印紙税)の納付期限が30日になる点にご注意ください(3-4参照)。

2-3. 契約の流れ

  1. 物件選定
  2. LOI(Letter of Intent)提出+予約金支払い
  3. TA(Tenancy Agreement)のドラフト確認・交渉
  4. TA署名 → 保証金・前家賃の支払い
  5. スタンプデューティの納付(署名から14日以内)
  6. 鍵の引渡し・入居時点検(Handover / Inventory Check)

LOI(Letter of Intent)は借主から出す申込書で、家賃、契約期間、入居希望日、Diplomatic Clause(外交条項)などの希望条件を記載します。同時に予約金(Good Faith Deposit)として1か月分を支払い、これは契約成立後に保証金の一部へ充当されます。借主都合で契約に至らなかった場合は返還されないのが通常です。

2-4. 交渉すべき主要条項

シンガポールには家賃規制も、賃貸借条件を定める法律もほとんどありません。契約書がすべてです。以下は必ず確認してください。

条項 内容 交渉のポイント
Diplomatic Clause 転勤・本帰国等の際に途中解約できる条項 通常「12か月経過後、2か月前通知」。駐在員には必須。2年契約なら必ず入れる
Reimbursement Clause Diplomatic Clause行使時に、オーナーが支払った仲介手数料の残期間分を精算する条項 負担割合を確認
Minor Repair Clause 少額修繕の借主負担上限 1件あたりS$150〜300程度が一般的。上限額を明記させる
エアコン点検 3か月ごとの点検義務(4-2参照) 借主負担が通常。頻度と証明書の保管義務を確認
原状回復 退去時の基準 Fair wear and tear(通常損耗)の扱い、専門清掃の要否

2-5. 初期費用の全体像

例)3BRコンドミニアム、月額S$7,000、2年契約

項目 金額 備考
予約金(Good Faith Deposit) S$7,000 契約成立後、保証金に充当
保証金(Security Deposit) S$14,000(2か月分) 1年契約なら1か月分。退去時に返還
前家賃 S$7,000(1か月分)
スタンプデューティ S$672 計算は3参照
仲介手数料 S$0〜7,000 2-6参照
初期支出合計 約S$21,700〜28,700 うちS$14,000は退去時返還

日本のような礼金・更新料はありませんが、保証金2か月分+前家賃1か月分を一度に用意する必要があり、キャッシュフローの負担は小さくありません。会社が負担する範囲を事前に確認しておいてください。

2-6. 仲介手数料は「決まった料率」ではありません

シンガポールの賃貸仲介手数料には法定料率がなく、市場慣行と交渉によって決まります。しかも現在、慣行そのものが移行途上にあります。

従来の慣行

  • 2年契約:家賃1か月分、1年契約:0.5か月分をオーナーが負担
  • 借主側にもエージェントがついている場合、両者で分け合う

近年の傾向

  • 各当事者が自分のエージェントに支払う方式が広がっている
  • 家賃が低い帯(月S$3,500〜4,000未満)では、借主側が自分のエージェントに支払うケースが増えている

駐在員が借りる価格帯(月S$4,000〜5,000超)の2年契約では、オーナーが負担し借主の持ち出しがゼロとなるケースが多いのが実務です。ただし保証されたものではありません。

内見を依頼する前に、「誰が誰に、いくら払うのか」を書面で確認してください。これを曖昧にしたまま進め、契約段階で1か月分を請求されるトラブルが起きています。

コンドミニアムの共用プール
 
HDB(公営住宅)の街並み

3. 賃貸契約のスタンプデューティ(印紙税)

賃貸借契約(Tenancy Agreement)には印紙税(Stamp Duty)が課され、納付は原則として借主の義務です。金額そのものは大きくありませんが、未納の契約書は裁判で証拠として使えません。保証金の返還や中途解約をめぐって争いになったとき、決定的に不利になります。

3-1. 計算方法

契約期間 税額
4年以下 賃貸期間全体の賃料総額 × 0.4%
4年超または期間の定めなし 年平均賃料(AAR)× 4 × 0.4%

年平均賃料(AAR) = 契約期間中の賃料総額 ÷ 契約年数

住宅賃貸の大半は1年または2年契約ですので、実際には「賃料総額の0.4%」と覚えて差し支えありません。

3-2. 計算例

例1|月額S$3,000、1年契約
賃料総額 = 3,000 × 12 = S$36,000
税額 = 36,000 × 0.4% = S$144

例2|月額S$3,000、2年契約
賃料総額 = 3,000 × 24 = S$72,000
税額 = 72,000 × 0.4% = S$288

例3|月額S$7,000、2年契約(駐在員の標準的なケース)
賃料総額 = 7,000 × 24 = S$168,000
税額 = 168,000 × 0.4% = S$672

例4|月額S$5,000、5年契約(4年超のケース)
AAR = (5,000 × 60) ÷ 5 = S$60,000
税額 = 60,000 × 4 × 0.4% = S$960

同じ月額でも3年契約なら 5,000×36×0.4% = S$720 ですので、4年を超えると税額が跳ね上がる構造です。長期契約を検討する際は考慮に入れてください。

3-3. インターネット上に出回っている誤った計算式にご注意ください

検索すると、次のような式が今なお多数見つかります。いずれも誤りです。

よく見る誤り 実際
「1年目0.4%+2年目0.2%」 制度改正前の旧計算式。現在は使いません
「0.4% × 年平均賃料(AAR)のみ」 4年以下の契約では賃料総額に0.4%を乗じます。2年契約で税額が半分になってしまいます

例3で言えば、誤った式では S$336 となり、実際の S$672 の半額です。IRASのe-Stampingポータルは正しい金額を自動計算しますので、手計算した金額とポータルの表示が食い違ったら、ポータルが正しいとお考えください。

3-4. 納付期限と手続き

  • シンガポール国内で署名した場合:署名日から14日以内
  • 国外(日本など)で署名した場合:署名日から30日以内

日本にいるうちに契約を締結するケースでは30日ルールが適用されますが、渡航準備の慌ただしさの中で失念しがちです。署名した日をカレンダーに入れてください。

納付はIRASのe-Stampingポータル(myTax Portal内)からオンラインで行います。SingPassまたは外国人向けのログイン方法で入り、賃料と契約期間を入力すれば税額が自動計算されます。支払いはeNETS、PayNow、FAST、GIROなど。

納付後に発行されるStamp Certificate(印紙証明書)は必ず保管してください。貸主・借主の双方が保持するのが望ましく、後日の紛争時に必要になります。

3-5. 遅延した場合のペナルティ

遅延期間 加算額
3か月以内 S$10 または税額のいずれか高い方
3か月超 税額の最大4倍

税額自体が数百SGDですので、遅延しても破滅的な金額にはなりません。しかし、未納のまま紛争が起きた場合、契約書を証拠として使えないというリスクの方がはるかに重大です。

3-6. その他の論点

  • 免税:AARがS$1,000以下の場合は課税されません。実務上、住宅賃貸で該当することはまずありません。
  • 賃料の変動条項がある場合:契約上の賃料総額を契約年数で割ってAARを算定します。現時点の月額ではありません。
  • 更新オプションがある場合:更新時に改めて印紙税が発生します。当初の契約時には、当初期間分のみ納付します。
  • サービス料等が含まれる場合:メンテナンス費や共益費を借主が負担する契約では、それらも課税標準に含まれることがあります。GSTは含みません。

4. 入居時と入居後の実務

4-1. 引渡し時の点検(Handover / Inventory Check)

不動産仲介業者の立会いのもと、オーナー側の管理会社担当者と一緒に点検を行い、終了後に書類へ署名します。確認するのは、設備・備品の有無と個数、汚損・破損の有無などです。

この点検記録が、退去時の保証金返還の基準になります。気になる箇所は遠慮なく指摘し、必ず書面と写真に残してください。

多くの物件では、引渡しから1か月以内であればオーナー負担で修理に応じてもらえます(Defects Liability Period)。典型的なのは、シャワーの水勢が弱い、お湯が途中で出なくなる、電球が切れている、電源プラグが壊れている、といった不具合です。ハンディマン(修理業者)と日程を調整して対応してもらいます。この1か月を逃すと自己負担になりますので、入居直後に全設備を一通り動かして確認してください。

4-2. エアコンの定期点検は法的義務です

シンガポールでは、約3か月に1回のエアコン定期点検が義務づけられており、通常は入居者がエアコン業者に依頼します

点検後に発行される証明書は必ず保管してください。賃貸借契約によっては、退去時にオーナーへ点検実施を疎明することが求められる場合があります。実施していないと、エアコンの不具合の修理費を借主負担とされるおそれがあります。

費用は1回あたり数十SGD程度で、年間4回分を見込んでおけば十分です。

4-3. 虫と衛生

シンガポールにはヤモリ、アリ、ゴキブリが生息しており、住宅への侵入は日常的に起こります。

  • 生ごみ、特に甘いものはこまめに捨てる
  • 床や食卓にこぼした場合はすぐに拭き取る
  • 食品は密閉容器で保管する

これだけで発生頻度はかなり下がります。ペストコントロール業者による定期駆除を利用する家庭もあります。

4-4. 中途解約と違約金

契約期間中の途中退去は、契約によっては違約金を請求されます。典型的には、残期間の家賃や、オーナーが支払った仲介手数料の残期間相当分です。

これを避けるのが2-4で触れたDiplomatic Clause(外交条項)で、本帰国や他国への異動といったやむを得ない事情の場合に、一定の条件下(通常は12か月経過後、2か月前通知)で解約できるようにするものです。駐在の場合は必ず契約に入れてください。

5. 個人銀行口座の開設

5-1. 順序

シンガポールでは非居住者の口座開設は極めて困難です。長期滞在が可能な地位(ビザ)と、シンガポールにおける居住実態を示す住所証明が揃ってから手続きします。

  1. EPカードの発行(MOM)
    MOMのEPカード発行センターに日時を予約して来局。カードはビザ代行業者宛に送付されるため、それを受け取る。
  2. SingPassの登録
    スマートフォンアプリ(SingPass)をダウンロードして使用登録。以後、行政手続きの大半でSingPassが必要になります。
  3. 住所証明書類の取得
    賃貸借契約書、光熱費の請求書など。
  4. 口座開設手続き(オンラインまたは店頭)
  5. Debitカードの受取、クレジットカードの発行申請

5-2. 必要書類

書類 補足
パスポート 有効期限を確認
EPカード(またはIPAレター)
シンガポールEmployment Passカードの見本
銀行により、IPA段階で受け付ける場合があります
住所証明 賃貸借契約書(印紙済のもの)、公共料金の請求書、銀行の郵便物など。発行から3か月以内を求められることが多い
雇用証明 雇用契約書、オファーレター、在職証明など
初回入金 銀行・口座種別により異なる

EP取得の前後で異なる点

  • IPAレター段階:銀行によっては口座開設を受け付けます。ただし取扱いは各行の運用次第で、支店によっても対応が分かれます。EPカードの発行後に本人確認情報の更新を求められる場合があります。
  • EPカード発行後:手続きは大幅にスムーズになります。SingPassによる本人確認(Myinfo連携)が使えるようになり、オンラインでの口座開設が可能な銀行が増えます。

住所証明が最大のボトルネックになりがちです。渡星直後はサービスアパートメント等の仮住まいで、正式な住所証明がないという状態が起こります。賃貸契約が固まり、印紙を納付した契約書が手元に来てから動くのが確実です。

5-3. 銀行の選び方

主要行はDBS/POSB、OCBC、UOBの3行です。加えてスタンダードチャータード、HSBC、シティバンクなどの外資系、Trust Bank等のデジタルバンクがあります。

DBS
OCBC
UOB

検討の観点は次のとおりです。

  • 給与振込口座として会社が指定する銀行があるか

6. 携帯電話・インターネット・公共料金

6-2. WhatsAppが標準です

シンガポールではWhatsAppが事実上の標準連絡手段です。チャットと通話ができ、業者との連絡、学校からの連絡、友人とのやり取りまで、ほぼすべてがWhatsApp上で行われます。渡星前にダウンロードして設定しておいてください。

LINEは日本人同士でしか使われていないローカルアプリです。WhatsAppであれば、他国への出張中もシンガポール国内と連絡が容易です。

WhatsApp

6-3. インターネット回線

ネット回線の開通工事は、シンガポールに引越した後にスケジュール調整します(担当者が自宅に来て作業します)。入居日が決まったら早めに予約を入れてください。繁忙期は数週間待つことがあります。

6-4. 公共料金(電気・水道・ガス)

電気・水道はSP Group(SP Services)で一括して契約します。SingPassで申し込めます。

ガスについては物件により事情が異なります。

  • コンドミニアム:IHが標準で、そもそもガスが供給されていない物件が多く、個別のガス契約は不要です
  • HDBや一部の古い物件:都市ガス(Piped Town Gas)が来ています

日本から持ち込むガス機器は使えない可能性が高いので、事前に物件の設備を確認してください。

7. 医療制度と民間医療保険

7-1. シンガポールの医療制度の全体像

シンガポールには、日本のような国民皆保険制度はありません。

公的制度として、シンガポール人・永住権者(PR)向けにCPF(中央積立基金)とその一部であるMediSave、そして全国民・PRを対象とする基礎的な医療保険MediShield Lifeがあります。しかし、EP等で就労する外国人はこれらの対象外です。

つまり、外国人にとっては民間保険がすべてということになります。無保険で入院すれば、医療費は全額自己負担です。シンガポールの医療水準は高い一方で費用も高く、私立病院での手術・入院となれば数万SGD規模になることも珍しくありません。

7-2. パス別の加入義務 ―― ここが誤解されています

パス 医療保険の法定加入義務 内容
Work Permit あり(雇用主の義務) 年間S$60,000以上の入院・日帰り手術の補償。2023年7月1日から。費用を従業員に転嫁することは不可
S Pass あり(雇用主の義務) 同上
Employment Pass(EP) なし MOMは「EP保有者の雇用にあたり医療保険の提供は要件ではない」と明示しています
Dependant’s Pass(DP) なし DPは滞在資格であり、保険は一切付随しません

EPには法定義務がないという点は、しばしば誤解されています。「駐在員保険への加入が義務」という説明を見かけますが、これは法律上の義務ではなく、会社の規程や派遣元の方針によるものです。

裏を返せば、EP/DPで来る人の医療の備えは、自分と会社で確保しなければ誰も用意してくれないということです。

なお、Work Permit/S Passの法定保険も、入院と日帰り手術のみが対象で、外来診療、歯科、出産、そして扶養家族は含まれません

7-3. 保険の選び方

実務上の選択肢は次の3層です。

① 会社の団体保険(Group Medical Insurance)

多くの企業が従業員向けに加入しています。まず確認すべきは以下です。

  • 補償範囲(入院のみか、外来・歯科・健診まで含むか)
  • 扶養家族が対象に含まれるか(含まれない会社も多くあります)
  • 年間の補償上限額
  • 私立病院が使えるか、公立病院に限定されるか
  • 退職・転職時にいつ失効するか

② 日系企業の駐在員保険

派遣元が用意するケース。補償内容・保険料は年齢や会社によって大きく異なり、簡素なプランから、手厚い補償で保険料が月数万円規模になるものまで幅があります。日本での一時帰国時の治療がカバーされるかは必ず確認してください。

③ 個人で加入する保険

①②で足りない部分を補います。特に次の場合は個人加入を検討すべきです。

  • 扶養家族が会社の保険の対象外
  • 外来診療がカバーされていない
  • 転職や退職の可能性がある(団体保険は退職日で切れます)
  • 高度な治療や私立病院での治療を望む

保険選びで確認すべき5点

  1. 既往症(Pre-existing conditions)の扱い――ほとんどの保険で除外されます。既往症がある方は、日本にいるうちに継続可能な保険を確保しておくべきです
  2. 年間補償上限と1疾病あたりの上限
  3. 日本への一時帰国時・第三国での治療の扱い
  4. キャッシュレス対応の有無――保険適用を受ける場合、窓口で保険会社のGuarantee Letter(LOG)または医療保険証の提示が必要です。これがないと立替払いになります
  5. 更新可否と年齢上限――加入時は問題なくても、更新拒絶や年齢上限に注意

7-4. 医療機関の選択肢

種類 特徴
日系クリニック 日本人医師や日本語対応スタッフが常駐。初期対応や慢性疾患の管理には最適。費用はローカルより高め
ローカルのGP(かかりつけ医) 費用は安い。言葉の問題があり得ますが、英語で対応可能なら選択肢として有力
公立病院 高度医療に対応。費用は抑えられるが待ち時間が長い
私立病院 待ち時間が短く快適だが高額。保険の適用範囲を必ず確認
オンライン診療 一部のクリニックが実施しています(ことびあクリニック等)。軽症や処方箋の継続に便利

シンガポールでは、まずGP(一般医)を受診し、必要に応じて専門医(Specialist)を紹介してもらう流れが基本です。専門医に直接かかることもできますが、費用が高くなり、保険によっては紹介状がないと給付対象外になる場合があります。

7-5. 日本の健康保険は使えません

海外転出届を提出して日本の住民票を抜くと、国民健康保険の資格を喪失し、海外療養費制度も使えなくなります。日本の公的医療保険を当てにした渡航計画は成り立ちません。

また、クレジットカード付帯の海外旅行保険は「旅行」を前提としており、補償期間は出国から最長90日程度、生活の本拠を海外に移した後は対象外とする約款が一般的です。渡航直後の空白期間を埋める用途には有効ですが、移住後の備えにはなりません。

8. 子女の学校選択とビザ

8-1. 3つの選択肢

シンガポール日本人学校 インターナショナルスクール ローカル校(政府系)
教育課程 日本の学習指導要領 IB、英国式、米国式など シンガポールのMOEカリキュラム
言語 日本語(英語は現地教員が担当)
※英語のみのグローバルクラスあり(中学校のみ)。
英語 英語+母語
学費(年額の目安) 初年度約150万円、次年度以降約90万円 S$30,000〜50,000程度 外国人向け学費が適用され、インターより安い
入学時期 4月始まり(随時編入も可) 8月始まりが多い 1月始まり
入学のハードル 日本人会入会が前提 空きがあれば随時。ウェイティング有 AEIS試験の合格が必要

8-2. シンガポール日本人学校

  • 幼稚園1校(クレメンティ)
  • 小学校2校(クレメンティ校、チャンギ校)
  • 中学校1校(クレメンティ)
  • 高校1校(私立早稲田渋谷シンガポール校/West Coast)

小学校では、英語のクラスをローカルの教員が担当します。日本の公立学校と異なり、入学金・施設費・授業料が必要で、初年度で約150万円、次年度以降は年約90万円程度を見込んでください。

手続き上の注意点が2つあります。

  1. 日本人会への入会が事前に必要です。入会時に寄付金が必要ですが、同じ会社に過去に寄付をした会員がいた場合は免除されます。日本人会には日本にいる間に入会できます。
  2. 日本の在籍校からの転校手続が必要です。所属している日本の学校に早めにご相談ください。

スクールバスが運行されていますが有料で、事前登録が必要です。治安の良さから、スクールバスを使わず、市バス等で通学しているお子さんもおられます。可愛い子には旅をさせよ、ですね。

8-3. インターナショナルスクール

シンガポールには60校以上の認定インターナショナルスクールがあります。多くは、随時出願を受け付けており、空きがあれば入学できますが、人気校は待機リストが長く、渡星の3〜6か月前には出願を始めるのが現実的です。

選定の観点は次のとおりです。

  • 教育課程(IB/英国式Aレベル/米国式AP)と、帰国後の進路との接続
  • 日本語のサポート体制、EAL(英語補習)の有無
  • 自宅からの通学時間とスクールバスの路線
  • 日本人生徒の比率
  • 学費に加えて、入学金、施設費、預り金(Refundable Deposit)などの初期費用

居住地の選択と学校の選択は連動します。先に学校を決め、その通学圏で物件を探すのが合理的です。

8-4. ローカル校(政府系学校)

外国籍の児童・生徒がシンガポールの政府系学校に入学するには、原則としてAEIS(Admissions Exercise for International Students)という試験に合格する必要があります。

  • 対象:小学2〜5年、中学1〜3年への入学
  • 試験時期:例年9月頃に実施され、翌年1月から就学
  • 合格は保証されません。成績と学校の空き状況、届出住所によって配属が決まります
  • 補欠枠としてS-AEIS(例年2〜3月頃)もあります

学費は市民・PR・外国人で大きく異なり、外国人向けの学費が適用されます。それでもインターナショナルスクールよりは安く済みます。

シンガポールに長期的に根を下ろす予定のご家庭では、まず、インターナショナルスクールに1〜2年通わせて生活に慣らし、その後AEISを経てローカル校へ移るというハイブリッドの進め方をされるケースもあります。

8-5. ビザ ―― Student’s Pass(STP)は必要とは限りません

ここは誤解が多い点です。

保護者がEP/S Pass等を保有し、お子さんがDependant’s Pass(DP)を取得している場合、Student’s Passは不要です。DPまたはLong-Term Visit Pass(LTVP)を持っていれば、宗教系の学校を除き、フルタイムで就学できます。

Student’s Passが必要になるのは、主に次の場合です。

  • DPの要件を満たせない場合(後述)
  • お子さんが単独で留学する場合
  • お子さんが21歳以上になった場合(DPは21歳未満の未婚の子が対象)
  • DPの有効期限が切れ、更新できない場合
  • 宗教系の学校に通う場合

DPを取得できるかどうかは、スポンサーとなる保護者の給与水準で決まります。

パス 要件(2026年時点)
EP(新規申請の最低適格給与) 月額S$5,600(金融サービスはS$6,200)。年齢に応じて上昇
DPのスポンサー要件 固定月額給与 S$6,000以上

EPの最低ラインとDPのスポンサー要件が一致していない点にご注意ください。EPが取得できても、給与がS$6,000に届かなければ配偶者・お子さんをDPで呼び寄せることができません。この場合、お子さんはStudent’s Passでの就学を検討することになります。

なお、EPの最低適格給与は2027年1月1日からS$6,000(金融サービスはS$6,600)に引き上げられることが公表されています。

Student’s Passの申請は、学校から入学許可(Registration Acknowledgement Letter)を受けた後、ICAのe-Serviceでオンライン申請します。申請は入学の2か月前より前には提出できず、直前すぎても間に合わないという時間的制約があるため、学校側と調整しながら進めてください。

9. 日本の運転免許からシンガポール免許への切替

9-1. 切替に必要なのは学科試験(BTT)のみです

日本の有効な運転免許をお持ちの方は、シンガポールで一から教習を受け直す必要はありません。

必要なのは、Basic Theory Test(BTT/学科試験)に合格することだけです。FTT(Final Theory Test)も実技試験(Practical Test)も不要です。

「BTT → FTT → 実技試験」という流れは、シンガポールで新規に免許を取得する場合のものです。これを切替にも必要と誤解して教習所のフルコースに申し込むと、数千SGDの無駄が生じます。

9-2. いつまでに切り替えるか

シンガポールに12か月以上滞在する予定の外国人は、免許を切り替える必要があります。

それまでの期間は、有効な外国免許で運転できます。ただし免許が英語表記でない場合は、国際運転免許証(IDP)または公的な英訳の携行が必要です。日本の免許は日本語表記ですので、いずれかを用意してください。

なお、保険会社によっては1年経過後にシンガポール免許を求めるところがあり、また車をリース・購入する場合はシンガポール免許が事実上必須です。渡星後3〜6か月以内に着手するのが現実的なスケジュールです。

9-3. 手続きの流れ

  1. Foreign Licence Pre-assessment(事前審査)をオンラインで実施
  2. BTTの受験申込
    3つの教習所(Bukit Batok Driving Centre、ComfortDelGro Driving Centre、Singapore Safety Driving Centre)のいずれかで受験
  3. BTT受験・合格
    50問・50分の選択式。合格ラインは50問中45問正解
  4. Traffic Policeへの切替申請
    e-Servicesでのオンライン申請、または予約のうえTraffic Police本部(10 Ubi Avenue 3)へ出頭
  5. シンガポール運転免許証の交付

9-4. 必要書類と費用

必要書類

  • 日本の運転免許証(原本)
  • 公的な英訳(日本語表記のため必須)
  • パスポート
  • 有効な滞在資格(EP、S Pass、DP等)
  • 規定に適合した証明写真
  • 視力の申告

費用の目安

項目 金額
BTT受験料 約S$6.50/回
教習所の登録・事務手数料 数十SGD
免許交付手数料 約S$50
合計 概ねS$50〜100

BTTの試験枠が取りづらく、予約に1〜4週間かかるのが実務上のボトルネックです。早めに動いてください。

BTTはシンガポール独自の道路標識、信号のルール、車線規制、スクールゾーン、高速道路のマナー、信号のない交差点での優先関係などを問います。日本の交通ルールとは異なる部分があるため、Highway Codeを読み込んでから受験してください。

9-5. 制度変更に関する注意

Class 3C/3CAの取扱いなど、免許制度には近年変更が加えられています。実際に手続きされる際は、Singapore Police Force(Traffic Police)の公式サイトで最新の要件をご確認ください。

10. 車の購入コストとCOEの仕組み

10-1. なぜシンガポールの車は高いのか

シンガポールは国土が狭く、Vehicle Quota System(車両割当制度)によって車両総数を厳格に管理しています。この制度の中核がCOE(Certificate of Entitlement/車両購入権)です。

COEは、車を登録して10年間使用する権利にすぎません。車両本体の価格とは別に、この「権利」を入札で落札する必要があります。

10-2. COEの仕組み

  • 入札は月2回実施されます
  • 5つのカテゴリに分かれています
カテゴリ 対象
Category A 1,600cc以下かつ97kW(約130bhp)以下の乗用車
Category B 1,600cc超または97kW超の乗用車
Category C 貨物車・バス
Category D オートバイ
Category E オープンカテゴリ(どの車種にも使えるが、実際は大型車に使われる)
  • 入札方式は一律価格方式で、落札できた最低入札額(Quota Premium)を全員が支払います
  • 有効期間は10年。満了時はPQP(直近3か月の平均落札額)を支払って更新するか、車を抹消登録します

10-3. COE価格の現況

2026年7月(第2回入札)の落札価格

カテゴリ 落札価格
Category A S$126,000
Category B S$129,890
Category C S$93,889
Category D S$10,202

COEだけで1,200万円を超える水準です。2024年時点のCat A約S$90,000〜100,000から、2年で3割程度上昇しています。

COE価格は入札のたびに変動します。上記はあくまで一時点の数値であり、購入を検討される際はLTAのOneMotoringサイトで最新の落札結果をご確認ください。

10-4. 車を持つ場合の費用構造

新車の店頭価格(OMV/Open Market Value)に、以下が積み上がります。

項目 内容
OMV 輸入時の申告価格(本体価格に相当)
物品税(Excise Duty) OMVの20%
GST 9%(OMV+物品税に対して)
ARF(Additional Registration Fee) OMVに応じた累進課税。高額車ほど税率が上がります
COE 上記のとおり
登録料、ディーラーマージン
VES(Vehicular Emissions Scheme) 排出性能に応じたリベートまたはサーチャージ

これらを合計したOn-The-Road(OTR)価格が支払総額です。日本で300万円程度のコンパクトカーが、シンガポールでは2,000万円前後になるという感覚です。

保有中のランニングコスト

  • 道路税(Road Tax):排気量に応じた年額
  • 自動車保険
  • 駐車場代(自宅コンドの駐車場、オフィス、商業施設)
  • ERP(電子道路課金):混雑エリア・時間帯の通行料
  • ガソリン代
  • 定期点検・整備

10-5. 車は本当に必要か

シンガポールでは、車を持たない選択が合理的なケースが大半です。

  • MRTとバスの路線網が緻密で、運賃も安い
  • Grab等の配車アプリが安価で使いやすい
  • 国土が狭く、移動距離そのものが短い
  • レンタカーやカーシェアリングで週末の需要は十分まかなえる

車の保有を検討する余地があるのは、公共交通の便が悪い郊外に住む場合、小さなお子さんが複数いる場合、頻繁にマレーシアへ行く場合などに限られます。

なお、シンガポールの一般的な会社には、日本における通勤手当という概念がなく、通勤費は自己負担です。会社から支給された場合は個人所得税の課税対象になります。

11. 引越し・国際輸送と通関・GST

11-1. 輸送手段と所要期間

手段 所要期間 用途
船便 発送から2〜3か月程度 家具、大型家電、書籍など
航空便 1〜2週間 当面必要な衣類、生活用品
手荷物 即日 貴重品、書類、当座の生活用品

船便は余裕をもって発送してください。2〜3か月かかるため、渡星してから発送すると、その間ずっと最低限の荷物で生活することになります。渡星の2〜3か月前には手配を始めるのが目安です。

コンドミニアムでは、引越作業の時間帯やエレベーターの使用に管理規約上の制限があることが多く、事前予約が必要です。搬入日が決まったら管理事務所に確認してください。引越業者が代わって確認してくれる場合もあります。また、事前にデポジットが必要になる場合があります(施設の汚損等がなければ返金されます)。

11-2. 引越荷物のGST免除(Transfer of Residence)

シンガポールに持ち込む物品には原則としてGST(9%)が課されますが、居住地を移す方の中古の家財・身の回り品については、GSTの免除を受けられます。

適用要件(すべて満たす必要があります)

  1. シンガポール国外から居住地を移すこと
  2. 輸入する物品を自身が所有していること
  3. その物品を3か月以上、所有し使用していたこと
  4. シンガポール到着後3か月以内に売却・譲渡・処分しないことを誓約すること
  5. 初回入国から6か月以内に輸入すること

手続き上の最重要ポイント

Declaration of Facts(DOF)の申請は、貨物がシンガポールに到着する「前」に行わなければなりません。到着後に申請しても受理されず、GSTが課されます。引越業者が代行するのが通常ですが、業者が申請したかを必ず確認してください。

必要書類

  • 居住地移転を証する書類(EP、DP、Student’s Pass、またはMOM発行のIPAレター
  • パスポート
  • Bill of Lading/Air Waybill
  • 荷物の明細(インベントリーリスト)

DOFが承認されたら、承認から10営業日以内にTradeNetでIn-Non Payment(GST relief)permitを取得します。

11-3. 免除の対象外となるもの

以下は、引越荷物の一部であってもGST免除の対象になりません。

  • 酒類
  • たばこ製品
  • 自動車
  • 商業目的の物品

11-4. 到着時の携行品 ―― 就労ビザ保有者は免税枠の対象外です

ここは特に注意が必要な点です。

旅行者向けのGST免税枠(48時間以上の出国でS$500、48時間未満でS$100)は、Work Permit、Employment Pass、Student’s Pass、Dependant’s Pass、その他の長期滞在パスの保有者には適用されません。

つまり、EPやDPを持って一時帰国から戻る際、日本で買った新品の物品には金額にかかわらずGSTがかかるということです。パスを取得する前の初回入国時とは扱いが変わりますので、赴任後の一時帰国のたびに意識しておく必要があります。

なお、自身が出国前から所有し使用していた物品(Used articles)は「新規購入品」に当たらず、課税対象外です。

11-5. 酒類の免税範囲

18歳以上、シンガポール国外に48時間以上滞在、かつマレーシアからの入国でないことを条件に、次のいずれかの組合せで免税が認められます。

選択肢 スピリッツ ワイン ビール
A 1L 1L
B 1L 1L
C 1L 1L
D 2L
E 2L

上限は合計2Lで、スピリッツは最大1Lです。10Lを超える酒類を持ち込む場合は税関許可が必要になります。

マレーシアからの入国には免税枠が一切ありません。ジョホールバルへ日帰りで行き、帰りに酒を買ってくるという行動は、全量が課税対象です。

11-6. たばこには免税枠がありません

シンガポールには、たばこ製品に対する免税枠もGST免除も一切存在しません。

紙巻きたばこ、葉巻、パイプたばこ、電子たばこのいずれについても、1本から申告義務があり、関税とGSTが課されます。シンガポール国内で購入しSDPCマークが付いているものであっても、一度国外に持ち出して持ち帰れば課税されます。

未申告が発覚した場合の罰則は重く、高額の罰金または訴追の対象となります。迷ったらRed Channel(申告レーン)を通ってください。

なお、電子たばこ(Vape)はシンガポールでは所持・使用そのものが違法です。持ち込まないでください。

11-7. 持込禁止品

  • チューインガム(HSA承認の歯科用・薬用ガムを除く)
  • 電子たばこ・加熱式たばこ
  • 一部の医薬品(向精神薬など。処方薬は英文の処方箋・診断書を用意してください)
  • 猥褻物、著作権侵害物

日本から常用薬を持ち込む場合は、英文の処方箋または医師の診断書を携行してください。量が多い場合はHSA(Health Sciences Authority)の事前許可が必要になることがあります。

12. ペットの持ち込み

12-1. 制度の枠組み

犬・猫の輸入は、NParks傘下のAVS(Animal & Veterinary Service)が管理しています。シンガポールは1953年以来の狂犬病清浄国であり、輸入規制は厳格です。

AVSは輸出国を狂犬病リスクに応じてSchedule I/II/IIIに分類しており、日本はSchedule IIに位置づけられています。

区分 対象国の例 主な要件
Schedule I 豪州、NZ、アイルランド、英国 検疫・抗体検査ともに不要
Schedule II 日本、米国、カナダ、独、仏、伊など 狂犬病抗体検査(RNATT)が必要。原則として検疫は不要だが、一定の条件に該当する場合は10日以上の検疫
Schedule III 上記以外 RNATT+到着後30日以上の施設検疫

12-2. 日本から連れて行く場合の準備

準備には最低でも4〜6か月が必要です。特に、狂犬病抗体検査は、接種から一定期間を空けて採血し、検査結果が出るまでにさらに数週間かかります。

おおよその流れは次のとおりです。

  1. ISO規格(11784/11785)対応のマイクロチップ装着
    ※ 狂犬病ワクチン接種より前に装着する必要があります
  2. 狂犬病ワクチンの接種(AVSが認める不活化・遺伝子組換えワクチン)
  3. 一定期間経過後に採血し、狂犬病抗体価検査(RNATT)
    ※ 検査結果が出るまで2〜3週間程度
  4. AVSへの輸入許可(Import Licence)申請
  5. その他のワクチン接種、寄生虫駆除
  6. 日本の動物検疫所での輸出手続き、健康証明書の取得
  7. 渡航・シンガポール到着、CAPQでの通関検査
  8. 犬の場合はDog Licence(犬鑑札)の取得

12-3. 2026年からの重要な変更点

2026年4月1日から、AVSが認定するペットエージェントを指定し、CAPQ(Changi Animal & Plant Quarantine)での通関手続きを代行させることが義務づけられました。飼い主自身による通関手続きはできなくなっています。

エージェントを予約してから航空券を手配する必要があるため、必ずAVSの公認リストを確認したうえで手配してください。

12-4. 住居の制約を先に確認してください

手続を進める前に、住む物件でペットが飼えるかを確認してください。

  • コンドミニアム:管理規約により、飼育の可否、頭数、犬種のサイズ制限が定められています。ペット不可の物件も少なくありません
  • HDB:犬については承認された犬種のみ、原則1頭まで。猫については2024年9月からCat Management Frameworkのもとで飼育が認められ、1戸あたり2匹までとなっています(登録・マイクロチップが必要)

物件探しの最初の条件としてペット可を伝えてください。契約後に飼えないことが判明する事態は避けたいところです。

12-5. GSTの扱い

ペットも輸入品として扱われますが、居住地移転に伴う持込みであれば、家財と同じ枠組みでGST免除の対象になり得ます(11-2のDOF申請時に含めます)。

12-6. 制度は変更されています

AVSの分類体系と検疫要件は2026年に改定されており、実務も流動的です。必ずNParks/AVSの公式サイトで最新の要件をご確認いただき、専門のペット輸送業者へのご相談を強く推奨します。

13. 公共交通機関

13-1. MRT(地下鉄)

中心部は地下、郊外は高架を走ります。東京メトロに匹敵する密度の路線網があり、現在も新規路線の建設が続いています。

  • 早朝割引:LTAによる早朝割引(S$0.50)が実施されています
  • 2025年12月より、北東線(NEL)の一部区間で特定時間帯の無料乗車制度(Free Morning Off-Peak Rail Rides)が始まっています
  • 駅構内・車内は飲食禁止です。水も飲めません。日本の感覚で水分補給をすると罰金の対象になり得ますのでご注意ください。ただし、緊急時の医薬品の服用、妊婦、高齢者など許容される場合はあります。

シンガポールのMRT車両

13-2. EZ-Linkカードと決済

MRT・バスの乗車にはEZ-Linkカードを使います。主要駅の窓口、コンビニ(7-Eleven、Cheers等)、一部のバスインターチェンジで購入できます。

チャージの方法は次のとおりです。

  • 改札前の専用端末で現金チャージ
  • 銀行のデビットカードまたはクレジットカードを紐付け、SimplyGoアプリからチャージ
  • クレジットカード自体を改札にタッチする設定も可能(SimplyGoアプリまたは駅の端末で設定)

SimplyGoアプリでは、乗車履歴と運賃の支払状況を確認できます。

EZ-Link by SimplyGo

13-3. バス

タクシーが混雑する時間帯の代替手段として有効です。車内アナウンスがない旧型のバスもあり、降車場所の把握が難しい場合がありますが、地図アプリやバスアプリを使えば解決します

スマートフォンの位置情報から最寄りのバス停を表示し、路線系統別に「あと何分で到着するか」「混雑状況」「2階建てか1階建てか」を事前に確認できます。Google Mapでも詳細な運行情報が確認できます。

郊外路線には、朝夕のラッシュ時に快速運行するバスや、郊外からシティエリアまでノンストップで走る朝夕限定路線があります。

SBS Transitの2階建てバス
 
SG BUSの路線バス(133系統)

13-4. 運賃と乗継ルール

MRT・バスの運賃は日本に比べて安く、乗車距離に応じて課金されます。

45分以内に乗り継いだ場合、初乗り運賃が加算されません。加えて、1回のジャーニーで認められる乗継は最大5回、最初の乗車から最後の乗車(降車ではなく乗車時刻)までが2時間以内という条件もあります。

ただし例外があります。

  • 明らかに反対方向へ引き返す路線のバスに乗った場合は加算されることがあります
  • 一部のMRT乗換駅(Bukit Panjang、Newton、Tampines)では15分以内に乗り継ぎが必要です。これらの駅では、路線間の乗換に一度改札を出て再度入場する必要があり、この乗換は15分以内に完了しないと新しいジャーニーとして扱われます。

13-5. タクシーと配車アプリ

料金は日本と比較して安価ですが、距離、時間帯(需給バランス)、車種によって変動します。ラッシュ時や週末は確保が難しく、予約が必要な場合があります。また、特定エリアでは乗車制限があります。

配車アプリはGrabが代表的で、他にGoJek、Tada、Zigなどがあります。

Grabは日本にいるうちにダウンロードし、クレジットカードを登録しておいてください。チャンギ空港からの移動がスムーズになります。よく使う目的地(自宅、会社)は住所登録しておくと便利です。

Grab

14. 食事・スーパー・日用品

14-1. 外食文化とホーカーセンター

シンガポールは外食文化が発達しており、自炊をほとんどしない家庭も珍しくありません。

種類 価格帯の目安
ホーカーセンター 1食 JPY600〜900程度
シティエリアのレストラン(ランチ) JPY1,300〜2,500程度

ホーカーセンターは至るところにあり、中華、インド、マレー、タイなど多様な料理が割安で楽しめます。

利用時のポイント

  • 屋外のため空調が効いていない場合が多くあります
  • 店頭に表示されているアルファベット(A/B/C/D)は、保健当局による衛生管理の格付けです。注文前に確認されるとよいでしょう
  • 座席の確保は、ポケットティッシュなどを置いて場所取りをするのが現地の作法です(Choping)

14-2. スーパーマーケット

種類 特徴
FairPrice(NTUC)
FairPrice(NTUC)
最大手。日本の生協に近い組織で、価格は安め。事前にWebで会員登録しておくと、会計ごとの割引、会員割引、ポイント付与のメリットがあります
Cold Storage
Cold Storage
やや高級路線。輸入品の品揃えが豊富
Sheng Siong
Sheng Siong
生鮮に強く、価格も抑えめ
明治屋、Don Don Donki(ドン・キホーテ)
明治屋
 
Don Don Donki
日本の商品が手に入ります。ただし日本の価格の2〜3倍することが多い

酒類とたばこは税金の関係で日本よりかなり高価です。350ml缶ビールで300〜600円、たばこ1箱2,000円程度が目安です。飲酒・喫煙の習慣がある方は、生活費の見積もりに影響します。

14-3. 家電製品と日用品

ベスト電器、Challenger、Courtsなどの店舗が各モールにあります。

日本から家電を持ち込む場合の注意

  • コンセントの形状が異なるため、変換アダプタを日本で事前に用意してください
  • 日本の100V専用機器には電圧変換器が必要です(シンガポールは230V)
  • 電圧変換器を介しても、精密機器や発熱機器は故障のリスクがあります。持ち込む価値があるかは慎重に判断してください

日系・日本関連の店舗

ニトリ、Daisoといった日系店舗のほか、Japan Home、Don Don Donkiなど日本の物産を扱う店があります。

ネット通販

LazadaやShopeeがあり、格安の商品も販売されています。ただし納期や品質に難がある場合がありますので、ご注意ください。

15. 気候と服装

15-1. 気候

赤道に近い常夏の島で、気温は年間を通じて25度以上、日中の体感温度は35度を超える日も多くあります。

シンガポールには2つのモンスーン期があり、北東モンスーン(12月〜3月)と南西モンスーン(6月〜9月)の両方が雨季に当たります。11〜2月は気温がやや低く、6〜9月は比較的降雨が多い傾向です。

雨季は突然の雷雨に見舞われることが多いため、折りたたみ傘の常備は必須です。落雷にも注意してください。

15-2. 服装

  • 羽織れるものが必須です。雨季は気温が通常より低めになるうえ、建物内の冷房が非常に強く効いています。オフィス、レストラン、映画館などで体が冷えます
  • ビジネスの場でスーツのジャケットを着る場面は少なく(ネクタイも同様)、長袖シャツが一般的です。カジュアルなオフィスでは半袖ドレスシャツも着用されています
  • 白いシャツは、シンガポールの水で洗濯すると変色しやすいという報告があります。色物・柄物をおすすめします。

16. 家族4人の生活費モデルケース

16-1. 前提条件

以下は大人2名+子ども2名の4人家族が、3BRのコンドミニアムに居住する場合のモデルです。

  • 為替レート:S$1 ≒ JPY 115(変動しますので、ご自身のレートで換算してください)
  • 住居:3BRコンドミニアム、月額S$7,000
  • 車:保有しない(MRT・バス・Grabを利用)
  • ヘルパー(住込みの家事使用人):雇用しない

生活費は学校の選択によって劇的に変わります。そのため3つのシナリオでお示しします。

16-2. 月次の生活費

費目 金額(S$) 備考
家賃 7,000 エリア・築年数で大きく変動。郊外・HDBならこの5〜7割
電気・水道 300 エアコンの使用量に大きく依存(250〜400)
通信(携帯2回線+光回線) 120
食費(自炊+ホーカー中心) 1,500 日系スーパーの利用比率で増減
外食・交際費 500
交通費(MRT・バス・Grab) 400
日用品・雑貨 300
医療保険(会社負担分を除く追加分) 200 会社の団体保険の内容次第
エアコン点検 20 年4回分を月割り
小計(教育費を除く) 10,340 月額約119万円

16-3. 教育費を加えた3つのシナリオ

シナリオ 教育費(月額) 総額(月額) 円換算
① 日本人学校(子2名) 約S$1,300 約S$11,640 約134万円
② インターナショナルスクール(子2名) S$6,000〜9,000 約S$16,300〜19,300 約187〜222万円
③ ローカル校(子2名) S$600〜1,200 約S$10,900〜11,500 約125〜132万円

※日本人学校は年約90万円/人(初年度は約150万円)を月割しています

※インター校は年S$36,000〜54,000/人を月割りした概算です。学校により大きく異なります

16-4. 追加費用の要素

項目 月額の目安 備考
住込みヘルパー(FDW) S$1,200前後 給与S$700〜900+政府徴収金(Levy)+食費・生活費。16歳未満の子どもがいる場合はLevyの軽減措置があります
車を保有する場合 S$1,500〜2,500 道路税、保険、駐車場、ERP、燃料、整備。購入時の初期費用は別途(10参照)
習い事・塾 S$300〜800
一時帰国 S$400〜700 航空券を月割(年1回、4人)

16-5. 支出構造を読むときの視点

① 家賃が支出の6〜7割を占めます

生活費を圧縮する最大のレバーは住居です。

  • エリアを変える:中心部(オーチャード、リバーバレー等)から郊外(East Coast、West Coast、Bukit Timah外縁等)へ移すだけで大きく下がります
  • HDBを選ぶ:外国人も一定の条件下で賃借でき、コンドの5〜7割程度に抑えられます。ただしプールやジムはありません
  • 築年数を妥協する:築古のコンドは同じ広さでも賃料が抑えられます

② 教育費が第2の変動要因です

インターナショナルスクールを選ぶと、生活費が月5万〜8万SGD規模で変わります。日本人学校は費用面では有力な選択肢です。

③ 手取りは日本より多くなります

シンガポールの個人所得税は日本より大幅に低く、外国人はCPF(社会保険料)の拠出義務もありません。額面が同じでも手取りは日本より相当に多くなります。生活費だけを日本と比較すると割高に見えますが、税・社会保険料を含めた可処分所得ベースで比較する必要があります。

④ 会社負担の範囲を確認してください

駐在の場合、住宅手当、教育手当、医療保険、一時帰国費用のどこまでを会社が負担するかで、実質的な負担額は全く変わります。赴任条件を確認したうえで、本モデルのどの費目が自己負担になるかを当てはめてください。

(注)本稿は2026年8月時点で公表されている情報に基づく一般的な情報提供を目的としています。金額・相場・制度はいずれも変動します。特に、COE価格、EP/DPの給与要件、ペットの検疫要件、税関の取扱いについては、実行前に各当局の公式情報でご確認ください。

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