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それでも日系投資引きつけるタイ、容易に揺るがぬ強固な基盤

自動車産業を筆頭にさまざまな製造業が集積し、東南アジア諸国連合(ASEAN)を代表する「モノづくり大国」といわれるタイ。政情不安、災害……と逆風がいくら吹いても、日系企業の投資ラッシュはその都度復活を繰り返している。裾野産業が確立したこの国が持つ優位性は、まだまだ揺るぎそうにはない。

タクシン政権を倒したクーデター(2006 年)、タクシン派政権を揺さぶった反タクシン派によるバンコクの首相府・空港占拠(08 年)、今度は反タクシン派政権を倒そうとしたタクシン派の騒乱(09 年、10 年)、日系企業の工場も多くが大きな被害を被った大洪水(11 年)……ここ7~8年来、タイは政情不安に起因する大きな事件、また災害が非常に目立った。普通なら、投資先としての信頼度に深い傷がついてもおかしくない。

しかし、事態がいったん沈静化するとすぐに日系企業の投資が盛んになるのがタイの特徴だ。昨今も、タクシン派のインラック政権による最低賃金の大幅引き上げ、今年前半ぐらいまでのタイ・バーツ高、日系進出ラッシュも一因の人材不足など、事業環境にマイナスとみられる現象は少なくない。それでもタイ投資委員会(BOI)のまとめによれば、今年上半期(1~6月)の日本企業による外国直接投資(FDI)の申請総額は前年同期 4.4%増の 1,841 億 5,300 万バーツ(約 5,764 億円、333 件)と、1桁ながらプラス成長を保っている。同期の合計申請総額の実に 66%を占める額。2位のマレーシア企業が 173億 4,100 万バーツ(18 件)にとどまっていることをみれば、タイの外資系企業、というよりタイ経済における日系企業の存在感がいかに圧倒的かは一目瞭然だ。

自動車産業集積で築かれた強固な裾野産業の存在が、さらなる投資を呼び込む力になっている。タイは自動車産業を振興するに当たって、隣国マレーシアのような国産車メーカーの育成策を採らず、外資系メーカーの誘致に専念した。比較的低かった人件費と質の高い労働力、さらにインフラがかなり整っていたことも相まって、日本の自動車メーカーが続々と工場を設置。さらに、これを追って部品メーカーをはじめとする関連企業が進出し、幅広い自動車の裾野産業が根付いた。電気電子や食品産業の集積度も高い。

01~03 年のマレーシア駐在時代、コスト上昇に悩む現地日系企業の間で注目度が高かったのは、当時「賃金上昇はない」といわれていた中国の珠江デルタに加え、隣国タイだったことが今も思い出される。いったん裾野産業がガッチリと基盤を築いてしまえば、企業はそう簡単に逃げ出そうとはしない――こんな話を以前聞いたが、説得力がある、タイの現実を見る限り、確かにその通りになっているからだ。11年に工場が洪水被害に遭った日系企業が、タイ国内の洪水リスクの低い地方に新工場を建設するケースが結構見られる。アジアの他の国ではなく、やはりタイ国内なのだ。「タイ工場が必要」であることをこれ以上如実に示す現象はないと思う。

タイBOIは今年初め、産業高度化の方針を打ち出し、幅広い産業に与えてきた投資恩典制度を、高付加価値分野のみに絞り込む方針を発表。当初発表からは延期したものの、15 年初めから実施に移すとしている。だがその後も、「駆け込み」とも言える投資の勢いが続く。人材需給が逼迫している問題も、周辺のカンボジアやラオス、ミャンマーへの一部分散で解決しようという動きが活発化。インドシナ半島の中心という地理的な優位性と相まって、投資先としてのタイの勢いは今後も続きそうだ。(NNA香港