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香港財務報告基準HKFRS(=IFRS)第16号リース実務編

昨今新型コロナウイルス(以下「COVID-19」)に対し、各国政府が様々な救済処置を実施していますが、各業界において事業活動を継続するためには、それ以上に賃料免除(Rent Holidays)や一時的な賃料減額(Temporary Rent Reductions)を含む賃料減免(Rent Concessions)が求められており、事務所もしくは店舗の貸し手であるオーナーより、賃料減免が提供されている、または提供される見込みであったり、未だ折衝中であったりする状況かと存じます。ここで、賃料減免は、今期は賃料免除や一時的な賃料減額となるとしても、将来的に、例えば翌期においては賃料増額を伴う可能性があり、原則として、リース契約の条件変更に該当するか否かの検討を要する事象となりますが、新型コロナ禍の最中、利害関係者が直面する多くの課題を勘案すると、実務的に困難を来す可能性があります。

2020年5月28日、国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board、以下「IASB」)は、リース会計に係る新基準である「国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards、以下「IFRS」)第16号リース」に係る改訂を公表しています(COVID-19に関連した賃料減免 – IFRS第16号リースの改訂、以下「IFRS第16号リースの改訂」)。これにより、リースの条件変更に該当するか否かの検討を要する従来の基準と比較し、COVID-19に起因する賃料免除や一時的な賃料減額を含む賃料減免に関する借り手側の会計処理がより簡易になっています。

IFRS第16号リースの改訂は、2020年6月1日以降に開始する会計年度に適用され、ここ香港でも2020年6月、IFRSにほぼ完全準拠する「香港財務報告基準(Hong Kong Financial Reporting Standards、以下「HKFRS」)第16号リースの改訂によって、同等の改訂が公表されており、2020年6月4日時点(※IFRSの下では、2020年5月28日時点とされています)で発行未承認である財務諸表含め、早期適用が認められています。当該改訂は、借り手に対し実務上適時の救済便法を提供し、投資者に有用な情報を引続き開示することを可能にするものとなっており、一方で、貸し手の会計基準には影響を与えないものとされています。

実務上の当該便法として、COVID-19に起因する賃料減免がリースの条件変更に該当するか否かの評価を行わないことを選択できます。借り手がこれを採用する場合、当該賃料減免をリースの条件変更ではないものとして会計処理することとなり、その対象となる賃料減免は、COVID-19の直接の結果として生じる賃料減免に対してのみで、かつ、次の条件全てを満たす場合のみとされています。

(a)リース料の変更により生じる当該リースの改訂後の対価が、当該変更の直前のリースの対価とほぼ同額もしくはそれを下回ること;

(b)リース料の減額が、当初の期限が2021年6月30日以前に到来するリース料にのみ影響を与えること(例えば、賃料減免が2021年6月30日以前のリース料の減額と2021年6月30日以降のリース料の増額双方を生じさせる場合には、当該条件を満たすことになります);並びに

(c)当該リースの他の契約条件に実質的な変更がないこと。

これらの条件を満たす借り手が当該便法を適用する際、個々の状況に応じて下記の通り会計処理することとなります。

(a)実務上の当該便法を適用する借り手は、一般的に、リース料の免除に関してHKFRS第16号の第38項を適用して、当期純損益を通じて負の変動リース料(Variable Lease Payment)として会計処理します。借り手は、これに対応する修正をリース負債に対して行い、実質的に、リース負債(の現在価値(Present Value、以下「PV」))のうち、免除もしくは放棄された部分の認識の中止を行います。

借方 貸方
Lease Liability リース負債(賃料免除前後のリース債務PVの差額) Variable Lease Payment 変動リース料(賃料免除前後のリース債務PVの差額)

(b)ある期間のリース料を減額するものの、他の期間における金額を比例的に増額するようなリース料の変更(繰延)は、リースの対価(=借り手のリース負債)を変化させることなく、個々の支払の時期のみを変化させることとなります。この場合、IFRS第16号の第36項を適用して、借り手は、当初のリース負債に対する利息を引続き認識するとともに、貸し手に対して支払ったリース料を反映するものとして、リース負債を減額することになります。

借方 貸方
Interest Expense 支払利息(利回りは一定だがリース料の支払額が一時的に減額されるため、リース債務残高が当初より緩やかに減少することより、当該金額が一時的に増加) Lease Liability リース負債(キャンセル不可の契約期間に渡りPVを毎月認識するが、リース料の支払額が一時的に減額されるため、当該残高が当初より緩やかに減少)
Lease Liability リース負債(リース料の支払額が一時的に減額されるため、月々消去されるリース債務の金額が少額化) Cash or Bank 現預金(キャンセル不可の契約期間に渡り毎月実際の賃料支払が、一時的に減額されている状況)

(c)COVID-19に起因する賃料減免で、リース料の支払の免除もしくは放棄及び支払時期の変更(繰延)の両方が組み込まれる、合計となる対価が減少する場合、上記2項目を勘案する必要があると考えられます。

借り手は、当該修正を遡及適用し、修正の適用開始から生じる累積的影響を、借り手が当該修正を最初に適用する事業年度の期首現在の利益剰余金(または、適切な場合には資本の他の内訳項目)の期首残高に認識することが要求されます。一方で、借り手が当該修正を最初に適用する会計報告期間において、借り手は、国際会計基準(International Accounting Standards、以下「IAS」)にほぼ完全準拠する香港会計基準(Hong Kong Accounting Standards、以下「HKAS」)第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」の第28 項(f)によって要求されている情報開示は要求されません。

その他、従来通り、使用権資産はHKAS第36号「資産の減損」における減損会計の対象となる点や、COVID-19に起因するに留まらないリース料の減額変更等、リース契約内容に更改事項が発生する場合は、リース負債を再測定し、使用権資産額を調整する必要がある点には、変わらず留意が必要です。リース料の減額変更がリースの条件変更に該当するか当該便法を採用しない場合で、仮に当初の割引率(※追加借入利子率が一般的)から変更が無い場合は、リース負債の減額に対応する使用権資産の減額が計上され、修正後の使用権資産の減価償却費は、残存リース期間にわたって認識、つまりは月々の金額が減少することとなります。

借方 貸方
Lease Liability リース負債(賃料免除前後のリース債務PVの差額) Right-of-use (ROU) Asset 使用権資産(左記の通り再測定されたリース債務に従い調整)

なお、当該便法を適用する借り手に対し、賃料減免の結果生じたリース料の変動を反映することにより、対象となる会計報告期間の損益に認識された金額の開示が要求されています。これは、財務諸表利用者からのニーズとして、比較可能性に与える影響への懸念に対応したものとなっています。

上述ご覧頂くと、借り手側としては、賃料減免をリースの条件変更として会計処理される場合としない場合との潜在的な差異は減少するものと考えられます。他方、貸し手に対しては、COVID-19によるものとしては先述の通り、HKAS第17号リースからHKFRS第16号への移行時同様に大きな影響はないようですが、借り手と貸し手が複雑に絡むセール・アンド・リースバックにおいては、HKFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」に従って、資産の譲渡が売却であるかどうかの判断が要求され、当該資産の譲渡が売却である場合は、HKFRS第16号リースにおける会計処理となりますが、一方で、当該資産の譲渡が売却ではない場合、HKFRS第9号「金融商品」を適用して、会計処理されることとなります。専門家への相談も是非取り入れながら、上述の判断含め、進めて頂ければと存じます。

このコロナ禍拡大の影響は、多くの政府関係者様方並びに企業様方にとって厳しいものであろうかと存じます。ここまで長期間に渡りますと、世界各国多業種に影響を及ぼしているため、可能な限り早期の鎮静・収束を衷心より祈念しております。