シンガポール
進出
シンガポール進出で日本企業が最初に検討すべき5つの論点(その4)~論点③ 会計・機能通貨・連結~
目次
シンガポール子会社の会計基準(FRS/IFRS)
シンガポール子会社の財務諸表は、シンガポール財務報告基準(FRS:Financial Reporting Standards)に準拠して作成するのが一般的です。FRSは国際財務報告基準(IFRS)とほぼ同等の内容であり、大きな差異はありません。
一方、日本本社は日本基準(J-GAAP)を採用しているケースが多く、ここに会計基準の差異が生じます。主な差異として認識しておくべき点は以下のとおりです。
・収益認識
FRS/IFRSではIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」に基づく5ステップモデルが適用されます。日本基準も収益認識基準が導入されましたが、経過措置や適用範囲に違いがある場合があります。
・リース会計
FRS/IFRSではIFRS第16号により、原則としてすべてのリースをオンバランス(貸借対照表に資産・負債として計上)する必要があります。日本基準ではオペレーティングリースをオフバランス処理できる場合があり、連結時に調整が必要になることがあります。
なお、日本の会計基準も、改訂が予定されており、ギャップが縮小される予定です(差異は、セールアンドリースバック取引、少額リース免除基準などです)
・金融商品
デリバティブや金融資産の分類・測定方法に差異があり、特にヘッジ会計の適用要件が異なる場合があります。
・退職給付
シンガポールではCPF(Central Provident Fund:中央積立基金、強制貯蓄制度)への拠出が中心であり、日本のような退職給付引当金の計上は通常発生しません。ただし、駐在員に対する退職金制度がある場合は別途検討が必要です。
これらの差異は、シンガポール子会社単体の決算では問題になりませんが、日本本社の連結決算において調整が必要となる可能性があります。
・機能通貨の判断と変更リスク
機能通貨(Functional Currency)とは、企業が営業活動を行う主たる経済環境の通貨を指します。FRS/IFRSでは、各企業が自社の機能通貨を判断し、その通貨で帳簿を作成することが求められます。
シンガポール子会社の機能通貨は、必ずしもシンガポールドル(SGD)とは限りません。以下の要素を総合的に考慮して判断します。
- 売上代金の回収に使用される通貨
- 仕入・人件費など主要なコストの支払に使用される通貨
- 財務活動(借入・増資など)で使用される通貨
- 親会社との取引で使用される通貨
たとえば、シンガポール子会社が日本本社からの仕入を日本円で行い、ASEAN各国への販売を米ドルで行っている場合、機能通貨は米ドルと判断されるケースがあります。
・機能通貨の判断を誤るリスク
設立時に「シンガポール法人だからSGD」と安易に決定し、実態と乖離した機能通貨で帳簿を作成しているケースが見られます。
監査や税務調査で機能通貨の妥当性を問われ、遡及的な変更を求められた場合、過年度の財務諸表を修正再作成する必要が生じる可能性があります。これは単なる事務負担にとどまらず、為替換算差額の再計算、税務申告の修正、日本本社の連結決算への影響など、広範囲に波及します。
・機能通貨が変更になるケース
事業環境の変化により、機能通貨が変更になる場合があります。たとえば、設立当初は日本本社との取引が中心だったが、現地販売が拡大しSGD建て取引が主流になった場合などです。
機能通貨の変更は「将来に向かって」適用されますが、変更時点での換算処理や、変更の妥当性を説明できる文書化が求められます。
・日本親会社の連結で問題になる点
シンガポール子会社の会計処理は、最終的に日本本社の連結財務諸表に取り込まれます。この連結プロセスで問題となりやすい点を整理します。
問題1:会計基準差異の調整漏れ
前述のとおり、FRSと日本基準には差異があります。連結決算において、シンガポール子会社の財務諸表を日本基準に組み替える調整(連結調整仕訳)が必要ですが、この調整が漏れている、または不十分なケースがあります。
特に、リース会計や収益認識の差異は金額的影響が大きくなりやすく、監査法人から指摘を受けて過年度修正に至るケースも見られます。
問題2:決算期のズレ
シンガポール子会社の決算期が日本本社と異なる場合、連結上の調整が必要です。日本の会計基準では、親子間の決算日の差異が3ヶ月を超えない場合は子会社の決算をそのまま使用できますが、重要な取引については調整が求められます。
決算期が異なると、期ずれ取引(親会社と子会社で認識時期が異なる取引)の把握が煩雑になり、連結消去仕訳の漏れ・誤りにつながりやすくなります。
問題3:為替換算の処理
シンガポール子会社の財務諸表を日本円に換算する際、資産・負債は決算日レート、収益・費用は期中平均レート、純資産は取得時レートを使用するのが一般的です(在外子会社の換算)。
この換算処理で生じる為替換算調整勘定(純資産の部に計上)の管理が不十分なケースがあります。特に、子会社の増資・減資、配当、のれんの減損などが発生した場合、為替換算調整勘定の処理が複雑になります。
問題4:内部取引の消去漏れ
日本本社とシンガポール子会社の間で発生した取引(売上・仕入、債権・債務、配当など)は、連結上消去する必要があります。
しかし、取引の認識時期のズレ、為替レートの差異、取引分類の不一致などにより、親子間の残高が一致しないケースが頻発します。不一致の原因調査と調整に多大な時間を要し、連結決算の遅延につながることがあります。
問題5:子会社の会計データ・証憑の入手遅延
シンガポール子会社から日本本社への会計データ提出が遅れる、または必要な証憑が揃わないケースがあります。特に、設立初期で経理体制が整っていない場合や、現地の会計事務所との連携が不十分な場合に発生しやすい問題です。
日本本社の連結決算スケジュールに間に合わせるためには、シンガポール子会社の月次・四半期決算の早期化、レポーティングパッケージ(連結用の報告様式)の整備、担当者間のコミュニケーション体制の構築が不可欠です。
会計・機能通貨・連結の論点は、日常業務では見えにくいものの、年度決算や監査のタイミングで顕在化します。問題が発覚してから対応するのでは、過年度修正や監査意見への影響など、深刻な事態を招く可能性があります。
進出前の段階で、シンガポール子会社の会計基準、機能通貨の判断根拠、連結決算への取り込み方法を整理し、日本本社の経理部門・監査法人と認識を共有しておくことが重要です。
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注)本記事は掲載時点の情報に基づき、一般論として執筆しております。法令等は改正される場合がありますので、実務に適用される際は、最新情報のご確認および専門家へのご相談をお勧めいたします。
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