マレーシア 税務

マレーシア・SST(販売・サービス税)制度の全体像

1. はじめに

マレーシアは、2018年9月にそれまでの物品・サービス税(GST:税率6%)を廃止し、Sales and Service Tax(SST)を再導入しました。

SSTはGSTのような多段階・付加価値税型の仕組みとは異なり、製造段階または輸入段階で一度だけ課税される「単段階税」です。

日本の消費税やGSTで馴染みのある仕入税額控除(Input Tax Credit)の仕組みはSSTには存在しないため、サプライチェーン設計やコスト構造に大きな影響を与えます。

2024年度予算案(Budget 2025)において、マレーシア政府はSST制度の大幅な拡大を発表し、2025年7月1日付で施行されました。

本記事では、SST制度の全体像、2025年7月の制度改正のポイント、B2B免税・輸入サービスの取扱い、さらにe-Invoice(電子インボイス)制度との関係について、東南アジア進出を検討する日本企業の視点から解説します。

2. SST制度の全体像

2.1 Sales Tax(販売税)

Sales Taxは、マレーシア国内で製造される課税物品、または輸入される課税物品に対して課される税です。原則として製造者または輸入者が納税義務者となり、最終消費者が税負担を負います。

■ Sales Taxの税率構造

税率 対象
0%(免税) 米、鶏肉、牛肉、野菜、卵、地元魚種、医薬品、書籍、基本建材等の生活必需品。2025年7月にリンゴ、オレンジ、ミカン、デーツも追加。
5% 建設資材、一部食品、石油製品。2025年7月以降、キングクラブ、サーモン、鱈、トリュフ、エッセンシャルオイル、絹織物、産業機械等が追加。
10% 上記以外の大半の課税物品(標準税率)。レーシング自転車、骨董品の手描き絵画等の高級・非必需品を含む。

製造者の登録義務は、過去12か月の課税売上がRM500,000を超える場合に発生します。なお、Sales Taxの適用対象品目に該当しない物品は、自動的に10%の標準税率が適用される点に注意が必要です。

2.2 Service Tax(サービス税)

Service Taxは、マレーシア国内で提供される指定サービスに課される税です。サービス提供者が徴税義務者となり、顧客から税額を徴収して政府に納付します。

■ Service Taxの税率構造

税率 対象
6% 飲食、通信、駐車場、物流サービス。2025年7月以降、建設工事、民間医療(外国人向け)、民間教育(外国人向け)も6%で追加。
8% 上記以外の大半の課税サービス(標準税率)。専門サービス、娯楽、ホテル宿泊、デジタルサービス等。2025年7月以降、賃貸・リース、金融サービス、美容サービスも追加。

Service Taxの登録義務は、原則として過去12か月の課税サービス売上がRM500,000を超える場合に発生しますが、2025年7月の制度拡大により、一部の新規課税サービスにはRM1,000,000やRM1,500,000といった異なる閾値が設定されています。

2.3 GSTとの主な違い

日本企業が押さえるべきポイント:SSTとGST(旧制度)の違い

SSTには仕入税額控除(Input Tax Credit)の仕組みがありません。GSTでは仕入時に支払った税額を控除できましたが、SSTでは製造者や輸入者が支払った税額は最終的にコストとして吸収されます。このため、サプライチェーンが長い場合や中間取引が多い場合には、税の累積(Cascading Effect)が生じやすく、コスト構造への影響を事前に試算しておくことが重要です。

3. 2025年7月の制度拡大(Budget 2025)

2024年10月の2025年度予算案(Budget 2025)で発表されたSST制度の拡大は、2025年7月1日に施行されました。MADANI経済の枠組みのもと、財政基盤の強化と課税ベースの拡大を目的としつつ、生活必需品への影響を最小限に抑える設計がなされています。

3.1 Sales Taxの主な変更点

  • これまで免税であった一部の非必需品・高級品(キングクラブ、サーモン、トリュフ、エッセンシャルオイル、絹織物、レーシング自転車、骨董絵画等)が5%または10%の課税対象に。
  • 約4,800品目のHS(関税分類)コードが新たに課税対象に追加。
  • 米、鶏肉、医薬品、書籍等の生活必需品は引き続き免税を維持。リンゴ、オレンジ、ミカン、デーツは世論を受けて免税リストに追加。

3.2 Service Taxの適用範囲拡大

Service Taxの適用範囲が以下の6つの新規サービスカテゴリーに拡大されました。

サービスカテゴリー 税率 登録閾値 主な免税項目
賃貸・リース 8% RM1,000,000 住居用不動産、読書資料、マレーシア国外の有形資産、ファイナンスリース
建設工事 6% RM1,500,000 連邦・州政府向けサービス。B2B免税あり。EPCC契約には特例措置あり。
金融サービス 8% RM1,000,000 BNM・SC・Labuan FSA規制下の特定サービス、ファイナンスリース、ファクタリング等
民間医療 6% RM1,500,000 マレーシア国民向けの公立・民間医療サービス、大学附属医療センター、指定地域の医療
教育 6% 年間RM60,000/生徒 マレーシア国民向けの教育サービス、特別支援学校、語学センター、OKU(障害者)カード保持者
美容サービス 8% RM500,000 メイク、ネイル、ヘアドレッシング、エステ、タトゥー等

3.3 経過措置(Grace Period)

制度移行を円滑に進めるため、2025年12月31日まで罰則の免除期間(Grace Period)が設けられました。この期間中、登録の遅延や軽微な申告ミスに対して、企業がコンプライアンスに向けた合理的な取り組みを示している場合は、罰則や訴追が行われません。ただし、2026年1月1日以降は完全施行となるため、早期の対応が求められます。

4. B2B免税制度と輸入サービスの取扱い

4.1 B2B免税の概要

SSTには仕入税額控除がないため、B2B取引においては税の累積(Cascading Effect)が大きな課題となります。これを緩和するために導入されたのがB2B免税制度です。SST登録事業者間の一定の取引において、サービス税が免除されます。

B2B免税の主な要件

  • サービスの提供者と受領者の双方がSST登録事業者であること。
  • 受領者が提供者と同じカテゴリーの課税サービスを顧客に提供していること(同一Butiran/同一Groupでの登録)。
  • 取得するサービスが事業目的であり、個人消費目的でないこと。
  • 輸入サービスについてのサービス税が支払済みであること。

なお、現行のB2B免税は「同一種類のサービス」に限定されているため、例えば、IT企業が取得した法務サービスには免税が適用されないケースがあります。この「狭い」適用範囲がサプライチェーン全体でのコスト増大を招いており、Budget 2026での制度拡大が期待されています。

B2B免税のインボイス要件

B2B免税の適用を受ける場合、サービス提供者は以下の情報をインボイスに記載する必要があります。

  • 顧客の名称と住所
  • 顧客のService Tax登録番号
  • 免税となったService Tax額

また、SST-02申告書の項目18(c)にB2B免税サービスの総額を報告する義務があります。

4.2 輸入サービス税(Imported Taxable Services: ImTS)

マレーシア国外からサービスを取得する場合、受領者側でサービス税を自己申告(Self-accounting)する義務があります。Service Tax Act 2018の定義によれば、「Imported Taxable Service」とは、マレーシア国内の個人または法人がマレーシア国外の源泉から取得する課税サービスを指します。

納税義務のタイミング

輸入サービス税の納付義務は、以下のいずれか早い方の時点で発生します。

  • 海外サービス提供者への支払いが行われた日
  • 海外サービス提供者からのインボイスを受領した日

日本親会社からのグループ内サービスに関する特例

マレーシア国内のグループ会社が、同一グループに属するマレーシア国外の会社からサービスを取得する場合、当該取引は「Imported Taxable Service」に該当しない場合があります。

例えば、賃貸・リースサービスについては、マレーシア国内の同一グループ企業間でのサブリースにB2B免税が認められています。

また、グループ内取引の場合、所定の条件を満たせば輸入サービス税が免除される場合があります。ただし、免税の適否は取引の具体的な内容やサービスのカテゴリーにより異なるため、個別の確認が不可欠です。

SST未登録事業者の義務

SST未登録の事業者であっても、事業活動の一環として輸入課税サービスを取得する場合には、税関当局にアカウントを開設し、すべての関連取引を記録する義務があります。これは日本企業がマレーシアに小規模な現地法人を設立した場合にも該当し得る点に留意が必要です。

5. e-Invoice(電子インボイス)制度とSSTとの関係

5.1 e-Invoice制度の概要

マレーシア内国歳入庁(IRBM / LHDN)は、税務行政のデジタル化と税務コンプライアンスの強化を目的として、段階的にe-Invoice(電子インボイス)制度を導入しています。e-Invoiceは、従来の紙ベースのインボイスを構造化されたデジタル形式(XML/JSON)に置き換え、IRBMのMyInvoisシステムを通じてリアルタイムでバリデーション(検証)を行う仕組みです。

5.2 フェーズ別導入スケジュール

フェーズ 対象企業(FY2022売上基準) 義務化日 緩和期間
Phase 1 年間売上RM1億超 2024年8月1日 6か月
Phase 2 RM2,500万〜RM1億 2025年1月1日 6か月
Phase 3 RM500万〜RM2,500万 2025年7月1日 6か月
Phase 4 RM500万以下(RM100万超) 2026年1月1日 12か月(延長)

2025年12月の閣議決定により、e-Invoice義務化の最低売上閾値がRM500,000からRM1,000,000に引き上げられ、当初予定されていたPhase 5(年間売上RM50万〜RM100万)は実質的に撤廃されました。年間売上RM100万以下のMSME(中小零細企業)は、所定の基準を満たせばe-Invoice義務から免除されます。

5.3 SSTとe-Invoiceの接点

SST(間接税)とe-Invoice(直接税の管轄であるIRBMが運用)は、管轄官庁が異なります。SSTはRoyal Malaysian Customs Department(RMCD)が管轄し、e-InvoiceはInland Revenue Board(IRBM)が管轄しています。しかし、実務上は以下の重要な接点があります。

  • SSTコードの反映:e-Invoiceのスキーマ(データ構造)には、課税対象サービスや物品のSSTコードを正確に記載する必要があります。2025年7月の制度拡大により新たに課税対象となったサービスについても、ERPシステムやe-Invoiceテンプレートのマッピングを更新する必要があります。
  • 外貨建て取引の為替レート:2025年9月1日以降、MYR以外の通貨で発行されるe-Invoiceには、「Currency Exchange Rate」要素の記載が義務化されました。これがないとe-Invoiceのバリデーションが自動的に拒否されます。
  • 輸入サービスのSelf-billed e-Invoice:海外からサービスを取得する場合、マレーシア側の受領者がSelf-billed e-Invoice(自己発行型e-Invoice)を発行する必要があります。例えば、日本の親会社からコンサルティングサービスを受ける場合、マレーシア子会社は支払月の翌月末までにSelf-billed e-Invoiceを発行する義務があります。
  • RM10,000超の取引制限:2026年1月1日以降、単一取引でRM10,000を超える場合は、Consolidated e-Invoice(統合e-Invoice)の発行が認められず、個別のe-Invoiceを発行する必要があります。

注意:SST申告書の自動生成機能はなし

現時点では、e-Invoiceのデータからプレフィルド(事前入力済み)のSST申告書が自動生成される仕組みは存在しません。e-Invoiceのデータは税務当局による検証・監査目的で利用されますが、SSTの申告は従来どおり企業自身がSST-02申告書を作成・提出する必要があります。企業は、e-Invoiceの記録と自社の会計データを照合し、正確な申告を行うことが求められます。

6. 日本企業への実務的示唆

6.1 進出時の検討ポイント

マレーシアへの進出を検討する日本企業は、以下の点について事前に検討することが重要です。

  1. 事業形態とSSTの影響分析:製造拠点を設置する場合はSales Tax、サービス拠点を設置する場合はService Taxの影響を受けます。サプライチェーン設計の段階でSST負担を試算し、仕入税額控除がないことによるコスト増を織り込んだ事業計画を策定すべきです。
  2. 登録閾値の確認:サービスカテゴリーごとに登録閾値が異なります。複数サービスを提供する場合、カテゴリーごとに閾値判定が必要です。
  3. グループ内取引の税務影響:日本親会社からの管理費、ロイヤルティ、ITサービス等の取得は輸入サービス税の対象となり得ます。B2B免税やグループ内免税の適用可否を個別に確認してください。
  4. e-Invoiceへの対応準備:年間売上に応じたフェーズ別のe-Invoice義務化スケジュールを確認し、ERPシステムのMyInvois連携やSelf-billed e-Invoiceの運用体制を整備する必要があります。

6.2 定期的な見直しの重要性

マレーシアのSST制度は、2025年7月の大幅拡大に見られるように、頻繁に改正が行われます。RMCDによるService Tax Policyの改正も、施行後数か月以内に複数回発出されています。EY Malaysiaが指摘するように、Budget 2026ではB2B免税の範囲拡大やセクター別の明確化が期待されており、日本企業としても定期的なヘルスチェック(自主監査)を実施し、適用税率の確認、エラーの早期発見、自主的な開示による罰則リスクの低減に努めることが推奨されます。

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的・税務的助言を構成するものではありません。マレーシアSST制度の詳細は頻繁に改正されるため、具体的な取引についてはRoyal Malaysian Customs Department(RMCD)の公式ガイドラインおよび専門家への個別相談をお勧めします。本記事の内容は2026年2月時点の情報に基づいています。