マレーシア 進出

マレーシア進出で日本企業が最初に検討すべき5つの論点(2)~論点① 税務(PE・源泉税・税制優遇)~

Permanent Establishment(PE)とは何か

PE(Permanent Establishment:恒久的施設)とは、税務上「その国で事業を行っている拠点」とみなされる概念です。日本企業がマレーシアに子会社を設立した場合、通常は子会社がマレーシアで課税され、日本本社はマレーシアでは課税されません。

しかし、日本本社の活動がマレーシア国内で一定の要件を満たすと、日本本社自体がマレーシアにPEを有するとみなされ、マレーシアでも課税対象となる可能性があります。

PEの認定基準は、日本・マレーシア間の租税条約(二国間で締結された課税ルールの取り決め)で定められています。主な類型として「支店PE」「建設PE」「代理人PE」「サービスPE」があります。

特にマレーシアの租税条約では「サービスPE」の規定があり、日本本社の従業員がマレーシア国内でサービスを提供する場合、一定期間を超えるとPEと認定される可能性があります。この点はシンガポールとの租税条約にはない規定であり、注意が必要です。

日本本社が関与するとPEになる典型例

実務で問題になりやすいのは、以下のようなケースです。

ケース1:日本本社の技術者がマレーシアで長期間作業する

日本本社のエンジニアがマレーシア子会社のプロジェクトに参画し、マレーシア国内で技術指導やシステム導入支援を行う場合、滞在期間が租税条約で定める閾値(12ヶ月間のうち183日超など)を超えると、サービスPEと認定されるリスクがあります。

複数の技術者が入れ替わりで出張している場合、各人の滞在日数ではなく、プロジェクト全体での滞在日数が合算されて判定される点にも注意が必要です。

ケース2:日本本社の営業担当がマレーシアで契約締結を行う

日本本社の営業担当者がマレーシアに出張し、現地で契約交渉・締結を行っている場合、「代理人PE」として認定されるリスクがあります。特に、契約締結権限を持つ者が継続的に活動している場合は要注意です。

ケース3:マレーシア子会社が日本本社の「指示どおり」に動いている

子会社に実質的な意思決定権限がなく、日本本社が価格決定・契約条件・取引先選定などをすべてコントロールしている場合、子会社が「日本本社の代理人」とみなされる可能性があります。

ケース4:日本本社名義でマレーシア国内に拠点を持つ

日本本社名義でマレーシア国内にオフィスや倉庫を借りている場合、「支店PE」と認定される可能性があります。子会社とは別に、本社名義の契約が存在していないか確認が必要です。

税制優遇制度(MSC・Pioneer Status等)の落とし穴

マレーシアの税制優遇制度は魅力的ですが、「申請すれば受けられる」というものではありません。実務で問題になりやすい点を整理します。

MSCステータス(MSC Malaysia Status)

ICT関連企業向けの優遇制度で、法人税の免除または軽減(最大10年間)、外国人雇用枠の優遇、マルチメディア機器の輸入関税免除などのメリットがあります。

しかし、以下のような落とし穴があります。

  • 適格事業の範囲が限定的であり、単なるシステム開発やITサービスでは認められない場合がある
  • 事業の実態(マレーシア国内での付加価値創出)が求められ、単なる「窓口」機能では不十分
  • 認定後も定期的な報告義務があり、要件を満たさなくなると認定取消のリスクがある
  • MSCステータス企業はサイバージャヤ等の指定地域に事業所を置く必要がある(一部緩和あり)

パイオニアステータス(Pioneer Status)

新規産業・製品向けの優遇制度で、法定所得の70〜100%が最大5〜10年間免税となります。

しかし、以下の点に注意が必要です。

  • 「新規性」の判断基準が厳格であり、既存製品・事業では認められにくい
  • 事業開始前に申請・認定を受ける必要があり、事後申請は原則不可
  • 認定後は事業計画どおりの投資・雇用を実行する義務があり、未達の場合はペナルティの可能性
  • 優遇期間終了後の税負担増加を見込んだ事業計画が必要

投資税額控除(Investment Tax Allowance)

適格資本支出の60〜100%を法定所得から控除できる制度です。パイオニアステータスとの選択適用となる場合が多く、どちらが有利かは事業計画に依存します。

共通する落とし穴

これらの優遇制度に共通する注意点として、以下が挙げられます。

  • 移転価格税制との関係:優遇税率が適用される場合でも、グループ内取引価格は独立企業間価格である必要があります。優遇を受けている会社に利益を集中させようとすると、日本側・マレーシア側双方で移転価格課税のリスクが生じます。
  • 優遇期間中の変更:事業内容の変更、組織再編などにより、優遇の要件を満たさなくなるリスクがあります。
  • 申請・維持のコスト:申請書類の作成、当局とのやり取り、定期報告など、相応の管理コストが発生します。

税制優遇の活用を検討する場合は、進出前の段階で専門家に相談し、自社の事業計画が要件を満たすか、どの優遇制度が最適か、維持のための体制が構築できるかを確認することが重要です。

源泉税の注意点

マレーシアから日本を含む国外への特定の支払いには、源泉税が課されます。主な対象と税率は以下のとおりです(日本・マレーシア租税条約適用後の税率)。

  • 利子:10%
  • ロイヤルティ:10%
  • 技術サービス料(Technical Fee):軽減なし(国内法上15%、ただし租税条約の解釈により異なる場合あり)

特に注意が必要なのは「技術サービス料」です。日本本社がマレーシア子会社に対して技術指導、コンサルティング、管理サービスなどを提供し、その対価を受け取る場合、マレーシアで源泉税が課される可能性があります。

シンガポールでは、同様のサービスに対する源泉税率が租税条約により軽減されるケースが多いですが、マレーシアでは「技術サービス料」の取扱いが異なります。サービスの内容・性質によって源泉税の要否・税率が変わるため、契約書の作成段階で慎重な検討が必要です。

また、源泉税の納付義務はマレーシア子会社にあります。納付期限は支払日から翌月末日であり、期限を過ぎるとペナルティ(10%の加算税)が発生します。

日本本社への支払いを行う際は、その支払いが源泉税の対象となるか、対象となる場合の税率はいくらか、を事前に確認しておく必要があります。源泉税の取扱いを誤ると、マレーシア子会社の追徴課税に加え、日本側での外国税額控除の適用にも影響が及ぶ可能性があります。

【初回無料】マレーシア進出の論点整理ミーティング

「税制優遇は使えるのか」「シンガポール経由と直接進出、どちらが良いか」「移転価格対応は何から始めるべきか」など、個別の状況に応じた論点整理をサポートします。営業目的ではなく、判断に必要な情報を整理することを目的としたミーティングです。マレーシア進出に精通した日本人専門家が対応いたします。

(注)本記事は掲載時点の情報に基づき、一般論として執筆しております。法令等は改正される場合がありますので、実務に適用される際は、最新情報のご確認および専門家へのご相談をお勧めいたします。