香港 香港会計税務

[香港会計税務] 香港における新会社条例による会計上の影響其の二

2014年3月3日より、香港において新会社条例(第622章)が発効し、2015年3月期から(正確には2014年3月3日以降に開始する会計年度、つまりは2015年3月2日付以降の期末決算時)の決算書作成時に影響を受けることとなりますが、今回は香港の非公開会社が一定条件の下で適用を許容されている、報告免除規定(Reporting Exemption: 在提交報告方面獲豁免)について取り上げます。

従前の会社条例(第32章)の第141D条において、いわゆる中小企業財務報告基準(SME-FRF & SME-FRS)を適用できる報告免除規定は存在していましたが、その範囲は、該当する香港法人が①子会社を所有しておらず、②他の法人の子会社ではなく、かつ当該法人の③株主が50人以下で、④株主による100%全会一致の承認がある場合(※1)、と限定されていました。さらに、会社条例の下以外で設立された会社、すなわち外国企業は、これら4つの要件に加えて、規模テスト(①年間売上が5,000万香港ドル以下であること、②期末時点の純資産高が5,000万香港ドル以下であること、並びに③従業員が50人以下であること、の3つの条件のうち2つを満たすこと)もまた要件となっていました。

2014年3月3日以降、従前の会社条例の第141D条と類似した内容の報告免除規定は継続される一方で、当該免除規定に該当する3つの新たな企業区分が設けられており、さらに新会社条例第388条及び附表5により、事業報告(Business Review: 業務審視)の開示規定が設けられているため、それらの内容で留意すべき項目について整理しています。

1. 報告免除規定の3つの新たな企業区分

企業区分 免除資格条件
小規模担保会社(Small Guarantee Companies)及びそのグループ – 年間売上が2,500万香港ドル以下であること。
小規模非上場会社(Small Private Companies)及びそのグループ – 年間売上が1億香港ドル以下であること;
– 期末時点の総資産高が1億香港ドル以下であること;並びに
– 従業員が100人以下であること、のうち2つ以上を満たすこと。
大規模非上場会社(Larger Private Companies)及びそのグループ – 年間売上が2億香港ドル以下であること;
– 期末時点の総資産高が2億香港ドル以下であること;並びに
– 従業員が100人以下であること、のうち2つ以上を満たし、かつ
– 株主総会で少なくとも全体の75%の株主による承認があり、異議申立てがないこと。

☆関連規定 – 香港新会社条例第359~360条、他

なお、主に銀行業に従事し、銀行業条例(Banking Ordinance: 銀行業條例)の下で付与されたライセンスを保有している会社、証券及び先物条例(Securities and Futures Ordinance: 證券及期貨條例)の下でライセンスを付与されている規制金融業に従事する会社、並びに保険業もしくは貸金業に従事する会社は、当該報告免除規定を適用することはできません(※1従前の会社条例の第141D条の下では、加えて航空機や船舶を保有し運用している航空業や海運業に従事している会社もまた、報告免除規定を適用することは不可とされていましたが、新会社条例上は省かれています)。

2. 報告免除規定の影響


上述の報告免除規定に該当する会社は、取締役報告書(Directors’ Report)、財務諸表(Financial Statements)並びに監査報告書(Audit Report)において、簡易形式での対応が可能とされており、省略できる項目の要約については次の通りです。

<表2> 報告免除規定による簡易形式

項目 簡易形式内容
取締役報告書(Directors’ Report) – 事業報告(Business Review)の開示の省略;
– 取締役に関連する特定の契約や取引の開示の省略;
– 取締役が辞職し、再任されない理由の開示の省略;並びに
– 寄付金の開示の省略。
財務諸表(Financial Statements) – 中小企業財務報告基準(SME-FRF & SME-FRS)を採用することが可能;並びに
– 取締役及び会社に関連する特定の取引の開示の省略。
監査報告書(Audit Report) – 会計監査人は、財務諸表が適切に作成されているかどうかを報告するが、真実かつ公正に作成されている旨の意見は表明しない。

この中で、取締役報告書上の事業報告では、大きな区分として、①企業が従事する事業の公正な報告、②企業が直面している主要なリスク及び不確実性のある事象、③会計年度末以降に発生している企業にとって重大な影響を与える事象詳細、並びに④企業が従事する事業の将来における発展の兆候、などを開示する必要があり、連結ベースでの取締役報告書及び財務諸表の作成が要求される状況の場合は、これら開示事項についてもまた、連結ベースで開示する必要があります。従って、事業報告の作成開示を実際に対応するとなると、多大な労力を要するものと考えられますが、当該事業報告の開示免除の条件が、次の通り規定されています。

◇ 事業報告の開示免除の条件:
a. 企業の報告免除規定(※先述の表1参照)に該当する;
b. 該当する会計年度中通年にわたり唯一の法人株主の100%子会社である;もしくは、
c. 少なくとも全体の75%の株主による承認がある(当該特別決議は、該当する会計年度末の6カ月前までに可決され、当該決議日から15日以内に、香港の会社登記処に届出ることが要求されています)。
☆関連規定 – 香港新会社条例第388~389条、他

上記3項目のうち、何れか1つを満たせば、事業報告の開示免除の条件を満たすこととなりますが、上記aもしくはbに該当するのであれば特段問題はないものの、上記cに該当する場合は、万が一特別決議書を15日以内に会社登記局への届出を怠り、かつ事業報告の開示を実施しない状況に陥る際、取締役として150,000香港ドルの罰金刑が課される可能性があり、それに悪意があると見なされる場合は、当該罰金刑に加え、6カ月間の禁固刑まで規定されているため、注意が必要です。

3. 事業報告の開示項目内容


上述の通り、企業の状態及び意向、その目的などによって、会計基準や開示項目を選択できる余地がありますが、香港財務報告基準及び香港会計基準(HKFRS & HKAS)を適用しており、かつ事業報告の開示を選択する場合、開示項目内容は次の通りです。

① 企業が従事する事業の公正な報告
– 企業の事業内容及び外部市場環境
企業が属している産業界、主要な製品や商品及びサービス内容、主要な顧客及び取引先、業務過程及び流通手法、事業構造、並びに主要な運用施設及びその場所を含めた経済モデルなどに関する説明が求められており、企業の評判、ブランドの強み、自然資源、研究開発計画、知的資本、ライセンス及び特許権などの無形資産、並びに事業目標にまで触れることが挙げられます。また、企業が従事する事業内容により、主要な各国市場、競争力、並びに当該事業に影響をもたらす法規制、マクロ経済及び社会環境などへの言及も必要となります。

– 重要業績評価指標を用いた分析
企業が従事する事業の発展や実績について、財務諸表上から読み取れる事象はもちろん、該当する会計年度内で、新たに製造販売を開始した商品やサービスによるキャッシュフローへの影響、配当や増資、自社株購入による資本構造の変化、並びに流動性などに関する説明が求められており、各々が属する産業界に適した主要業績評価指標の開示まで必要となります。

– 企業にとって重要性の高い関連法規の遵守を含む環境対策や実施状況
企業の環境方針及びその実施状況、並びに関連する法規制の遵守に係る明瞭な説明の開示が必要となります。

– 企業の繁栄に重大な影響を与えうる従業員・顧客・取引先他との主な関係
株主や取締役のみならず、従業員・顧客・取引先・契約先・借入先・債権者・監督機関をはじめ、企業の事業活動に重大な影響を与えうると考えられる協会・学会・組合などの団体や地域社会にまで言及が必要となります。

② 企業が直面している主要なリスク及び不確実性のある事象
企業にとって負の結果をもたらす原因、取締役による主要なリスク及び潜在的な機会を取扱う方針などに関する説明が求められており、それらは戦略面、商業面、業務面もしくは財務面に関連し多岐にわたるものと考えられます。例えば、市場シェア、商品やサービス価格及び市場自体の変化による収入面での損失リスク、物件、熟練労働者及び原材料などの主要な資源の価格インフレ及び供給不足によるコスト面での損失リスク、所有する資産の価格変動、顧客への与信及び技術革新やトレンドの変化による棚卸資産の陳腐化による資産面での損失リスク、並びに売掛債権の回収期間が長引くことで借入金返済や借入費用の増加による流動面での損失リスクなどが挙げられます。

さらに、借入依存度、借入需要の季節性、借入金の満期及び確約されている融資枠、並びに企業グループ内での資金移動に対する、外貨規制や各国・地域特有の税務上の規制などを含めた現在及び将来の営業活動に対する資金提供の現状に関する内容に触れ、融資取決めやその信用枠に影響を及ぼす契約の締結、当該契約への違反もしくは違反の兆候とその影響についてもまた、説明が必要となります。

③ 会計年度末以降に発生している企業にとって重大な影響を与える事象詳細
従前より類似規定は存在していますが、期末日以降、企業にとって重大な事後事象が発生している場合、その内容と企業の財務状態への影響について、詳細に説明することが求められています。例えば、各国政府の政策金利による市場金利の変動、並びに外国為替取引における先物予約や通貨オプション締結が、期末日以降かつ取締役報告書のレポート日前に発生した場合などが挙げられます。

④ 企業が従事する事業の将来における発展の兆候
企業の新たな商品やサービス、資本投資のタイミング、属している産業界の傾向及び外部市場環境を含む、経営陣の戦略について言及し、その結果発生し得る結果の推測まで開示することが求められます。将来キャッシュフローにまで言及し、少しでも予測可能な事象について、誠実に説明することも可能です。

4. 報告免除規定及び事業報告開示に係るその他の検討事項


事業報告の開示項目内容を見ると、日本国でいう上場企業の決算短信や有価証券報告書の内容よりも超越しており、いわゆる投資家向けのアニュアルレポートの内容に類似していると考えられ、上場公開をしていない香港子会社レベルでそこまで対応することは、相当非現実的と判断される企業が多数現れる可能性が推測されますので、上述の報告免除基準及び事業報告の開示免除基準について、十分に確認が必要です。

もちろん、現時点でここ香港での上場公開を目指している、または将来的には、香港法人がグループ本社もしくは統括会社として君臨することが間違いない場合などは、逆に早急なフルスコープでの報告開示を検討することも考えられます。

ここで、誤解のないよう触れておきたい事項として、私的会社香港財務報告基準(HKFRS for Private Entities)は、フルスコープでの香港財務報告基準と比較して、簡易な報告基準であり、已然として存在します。その適用要件は、①企業の社会に対する説明責任がないこと、かつ②企業の外部使用者(事業経営に関わっていない株主、現存もしくは潜在的債権者、並びに信用格付け機関など)に対して一般目的の財務諸表を開示提供していること、を満たすこととなっており、規模テストに関係なく適用することが可能です。

また、私的会社香港財務報告基準の適用要件が満たされている場合であっても、報告免除規定や事業報告の開示免除規定を満たさない可能性があるため、「私的会社香港財務報告基準の適用≠事業報告免除」となるケースがあり得る点については、誤解のないよう十分に留意する必要があります。

以上、香港新会社条例下で、2014年3月3日以降に開始する会計年度に適用される開示事項について、勘案すべき項目を要約し列挙しました。グループの規模によって、考慮及び判断すべき点が十人十色となる可能性がありますが、日本国でいう上場開示企業の株主投資家向けアニュアルレポートと類似する内容の開示が、今まではただの関連会社、もしくは出資比率100%未満の子会社とだけとらえていた香港法人にとって、義務となる可能性も否定できないため、慎重な確認が必要であることをご理解頂ければ幸甚です。