中国 国際税務入門

[国際税務入門] 租税条約 (2)

前回は、租税条約の主要項目のうち、1.対象となる者、2.対象税目、3.居住者、4.恒久的施設、5.投資所得について説明しました。今回は前回に続き、日中租税条約を例に、給与所得と役員報酬の内容を紹介します。

6.給与所得

給与所得に対する課税は、給与所得者が勤務を行なった場所を所得の源泉地として、源泉地国が課税を行なうことが原則です。例えば、日本の親会社の社員が中国の子会社に出張し子会社で業務を行なった場合、日本の親会社がその社員の全給与を支払っていたとしても、中国子会社における勤務については中国に所得の源泉があるため、その勤務日数に対応する所得について中国で申告納税する必要があります。
これに対し、租税条約では、人的交流を促進するため、他国からの短期の滞在者にかかる給与所得について、次の3つの要件を全て満たす場合、当該他国での課税を免税とすることができるとする短期滞在者の免税規定が設けられており、一般に183日ルールといわれています。

(以下、仮に租税条約の一方の締約国を日本、他方の締約国を中国とします。)

  1. 報酬の受領者が、その課税年度に開始若しくは終了する12ヶ月の期間を通じて、他方の国(中国)に滞在する期間が、合計183日以内であること。
  2. 報酬が他方の国(中国)の居住者でない雇用者(日本)またはこれに代わる者から支払われるものであること。
  3. 報酬が付替えなどにより、雇用者(日本)の他方の国(中国)の国内の恒久的施設または固定的施設によって負担されるものでないこと。

1. の滞在期間の要件について、日港租税協定及び中港租税協定では、OECDモデル租税条約と同様に、任意の12ヶ月間で合計183日以内とされていますが、日中租税条約では暦年で合計183日以内とされています。この違いにより、日本からの出張者が、2011年の年末まで100日滞在し2012年の年初から引続き90日滞在するような場合、日中租税条約では両年度とも183日以内の要件を満たすのに対し、日港租税協定及び中港租税協定では、両年度を通じた滞在期間が183日を超えるため短期滞在者の免税は受けられないことになります。なお、183日の滞在期間には勤務のない土日祝日などの日数も含めてカウントします。
2. の要件は、例え183日以内の滞在であっても、源泉地国の会社(中国子会社)に雇用され給与が支払われる場合には短期滞在者の免税は受けられないことを定めています。
3. の要件は、例えば、日本の会社が香港に支店(=恒久的施設)を有しており、香港で勤務している日本の会社の社員の給与を、香港支店がその法人利得税(香港の法人税)上、損金としている場合は、短期滞在者の免税は受けられないことを規定しています。

7.役員報酬

役員報酬については、その役員が所属する法人の居住地国で課税することができる、とされています。給与所得は所得の源泉地である勤務地で課税されますが、役員報酬の場合は、会社の経営に従事する役員の役務の性質から、その所得の源泉地が役務の提供地であるとは限らず、役務の提供地国を特定することが難しいことから、法人の本店等所在地のある国が課税することとしています。
例えば、日本本社の役員が中国子会社に出向し、中国子会社で常勤となっている場合であっても、日本本社から取得する役員報酬は日本で課税されることになります。ただし、「その役員が所属する法人の居住地国で課税することができる」とあるように、役務の提供地国(この場合は中国)に課税権がないということではないため留意が必要です。
給与所得の課税関係

次回は、租税条約のうち他の主要項目について解説します。