中国

中国・分公司の登記と税務について

中国では会社の支店を「分公司」と呼び、各所在地の市や区の市場監督管理局で登記手続きすることとなっています。中国における日系企業の組織再編において分公司の登記や税務上の取り扱いに対し理解を深めることにより、経営管理効率化やリスク回避に役立ちます。

分公司の登記

「分公司」は支店と翻訳され、中国の会社法第14条には「分公司は法人格を有せず、その民事責任は会社が負う」とされています。分公司はその所属する会社(=「総公司」)により設立登記することができ、総公司の屋号を有し、総公司の定款により経営管理される組織ですが、分公司独自の公印(印鑑)があり、独自の銀行口座を開設することができ、社員の社会保険加入や個人所得税の納税が可能、独自の税関登記による輸出入通関、外貨登記(銀行経由)による対外入送金も可能です。

同一区内/市内に設立する分公司の登記

「商事登記管理」改革によって、企業の登記住所や経営場所の条件に対する制限の緩和が進んでおり、分公司の登記関連規定にも一定の変化が見られます。

深セン市の最新規定*1では、深圳市に設立した法人の分公司登記において、分公司単独の営業許可証を発行せず、総公司の営業許可証上に住所を複数記載する「一証書多住所」を選択することができるとされています。

但し深圳市では次の企業には「一証書多住所」が適用されないとしています。

  1. 経営範囲に、登記前の審査許可項目がある
  2. 前海の商務秘書会社に登記している会社
  3. 会計士・弁護士事務所
  4. 住所が深汕特別合作区にある会社

広州市の通知*2でも同様の措置が見られ、法人の所在する行政管轄区内に設立する分公司について単独で営業許可証を発行しないことができ、市場監督管理部門で経営場所の届け出を行うのみでよく、営業許可証住所を賃貸登記管理部門に登記された証憑で証明することが不要とされています。

*1:深圳経済特区商事登記若干規定(2020年10月29日修正通過、2021年3月1日修正施行)

*2:広州市人民政府 商事主体住所経営場所条件を更に緩和することについての意見

保税区等での分公司の設立

法人は区外の一般地域に登記されているが、分公司を保税区内に設立できるかとのお問合せが時々あります。ケースは少ないですが、広東自由貿易区の前海エリア等で、物流会社の分公司事例があるようです。前海深港合作区での貿易会社の分公司設立を検討することもあるようです。保税区若しくは自由貿易試験区等での法人或いは分公司の設立の目的として、当該区域内での保税業務の従事や、当該区域における優遇政策の享受があるかと思いますので、分公司を設立した場合に具体的な商流の可否や優遇政策の条件に符合するかどうかを事前に確認する必要があります。

業種別のライセンス

企業の登記前或いは登記後に、業種管理部門に特定のライセンス(「経営許可証」)の発行を申請したり、備案(届出)登記したりすることがあります(人材紹介、不動産仲介、道路運輸、危険化学品ライセンス等)。これらのライセンス/備案登記は通常、分公司単独で申請する必要があります。各種ライセンスの申請条件を確認し、経営場所(面積)、有資格者数(社会保険加入証明)等を分公司として証明する必要がある場合もあります。

独立計算

分公司の登記手続き時、分公司が独立計算を行うか否かを確認し記入する欄があります。(中文:「独立核算/非独立核算」)これは分公司の会計計算の話であり、即ち、単独で帳簿を設置するかどうかの区別と理解してもよいと思います。よく、「非経営性分公司」とか、「発票を発行しない=収入を計上しない分公司」という言い方を耳にしますが、若干定義の目的が異なるのかと思います。更には税務の取り扱いとは別となりますので、混同しないようにしてください。税務上の取り扱い区別は次に説明します。

分公司の税務

企業所得税の合算納付

居住者企業が中国国内で分公司のように法人資格の無い機構を設置する場合には、企業所得税を合算納税すべきであるとしています。(《企業所得税法》第50条)合算納税とは、分公司の利益を合算して一法人として税額を確定することであり、合算の上、総公司と分公司の所在地で分担して納税を行うのか、それとも総公司がまとめて納税するのかは、分公司の設立登記時の届け出情報等によって異なります。関連規定は以下の通りです。

 《国家税務総局 〈地区を跨る経営の企業所得税合算納税徴収管理弁法〉印刷発布の公告》(国家税務総局公告2012年第57号)

第2条 第1項:居住者企業が中国国内で地区(省、自治区、直轄市と計画単列市を指す、以下同じ)を跨り、法人資格の無い分子機構を設立する場合、当該居住者企業は地区を跨り経営し合算納税する企業(以下合算納税企業と略称)、別途規定がある場合を除き、その企業所得税徴収管理は本弁法を適用する。
第3条:合算納税企業は“合算計算、階級別管理、当地予納、合算清算、財政振替”の企業所得税徴収管理弁法を実行する。
第5条:以下二級分子機構は企業所得税の当地分担納付を行わない。
(1)生産経営機能を持たず、且つ、当地で増値税を納付せず、アフターサービス・内部研究開発・倉庫等の、合算納税企業の内部補助的業務を行う二級分子機構は、企業所得税の当地分担納付を行わない。
(2) 前年度に小型薄利企業に認定された会社の分公司は当地分担納付を行わない。
(3) 新規設立した分公司は、設立初年度には当地分担納付を行わない。
(4) 当年度抹消した分公司は、税務登記抹消日の企業所得税予納期間から、当地分担納付を行わない。

中国の企業所得税申告は四半期毎に予納し、翌年の5月31日までに確定申告を行う必要があります。合算納付は申告時に①総公司と分公司で分担し当地納付 若しくは ②分公司の当地納付を行わず、総公司所在地で全額納付する のいずれかの方法を、分公司登記時に届け出ておく必要があります。

①総公司と分公司が各所在地で分担納付(中文:「就地納税」)を届け出ている場合、設立第2年度以降、総公司と分公司が50%ずつ分担納付し、分公司が複数ある場合には、前年度の営業収入、従業員数、資産総額の3つの要素で分担比率を算出し分担納付します。

一方、②分公司の当地納付を行わず、総公司所在地で全額納付する とは、実務的なケースで例えば製造企業や貿易会社が顧客の所在地付近にメンテナンス拠点等設置し分公司として登記するような場合に、分公司が売上を入金する必要が無いのであれば、二級分公司且つ企業所得税の当地納付を行わない分公司として税務上の届け出を行うことが可能です。

①及び②いずれの届け出も1年を通して変更せず、届出内容の変更があった場合には年度毎に行うことになります。

また企業所得税の予納と確定申告時、通常は財務諸表電子データのアップロードが必要となっています。小規模で売上の無い分公司や、小売店舗ごとに分公司を登記するものの店舗ごとに帳簿を設置する計画が無い場合などの状況に対し帳簿提出の必要性について、深圳市税務局の回答は、次の条件のいずれかを満たす場合に、暫定的に財務諸表の提出を不要としています。

(1)定期的に定額の増値税を徴収する納税者

(2)企業所得税の査定徴収を実施する納税者

(3)地域を跨り経営し、企業所得税を合算納税する分子機構

(4)増値税を合算納税する分子機構

上記のほか、生産経営に従事する納税者は、相応の会計規定に基づき財務諸表及び年度報告表を提出しなければならない。

増値税の合算納付

《増値税暫定条例》及び《営業税改正増値税試行実施弁法》*3には、総機構と分子機構が異なる所在地(県、市)にある場合、各自の所在地の主管税務機関にて申告納税する。国務院財政、税務主管部門或いはその授権する財政・税務機関の認可を経て、総機構より合算して総機構所在地の主管税務機関で申告納税することができる、とされています。

*3:《増値税暫定条例》第二十二条第一項及び《営業税改正増値税試行実施弁法》第四十六条第一項

実務的なケースでは例えば、総公司所在地と同一市内に展開する小売店舗を分公司として登記した後、増値税を総公司に合算して申告する「総・分公司合算納付」を行うことが可能で、その場合「増値税・消費税の合算納税認定」の備案(届出)を行う必要があります。このような届出に係る条件は以下の通りです。

業種性質に応じて、工業企業/商業企業/サービス企業の区別があり、小売業は商業企業として、次の条件を同時に満たす必要があります。

  • 総公司・分公司は統一仕入れ・統一計算を行う。
  • 総公司が商業性質(登記時の企業類型が商業企業である)の場合、分公司は非工業性質である。
  • 総公司が一般納税人である場合、分公司は一般納税人若しくは小規模納税人であることが可能。
  • 総公司が小規模納税人である場合、分公司も小規模納税人である。
  • 申請受理日時点において総公司・分公司のいずれも未納の税金、滞納金、罰金等が無い。