M&A

[M&A] 新規制に東莞玩具企業が悲鳴:EUが近く実施、コスト3割増

欧州連合(EU)が今月下旬から新たな輸入玩具の安全規制を施行するのに伴い、中国最大の玩具製造拠点である東莞市をはじめとする珠江デルタ地域の香港系企業の間では、コストが最大3割増加するとの懸念が強まっている。輸出型企業は淘汰(とうた)を余儀なくされる可能性もありそうだ。一方で、業界への参入ハードルが高まることで、企業の乱立が解消され、高度化への構造転換や中国国内の内販へのシフトが進むとの見方もある。

EUは、2011年7月から施行している玩具の安全に関する指令「Directive 2009/48/EC」で強化された化学物質に関する規制条項を、今月20日から追加発効させる。これにより、重金属類やアレルギー性の高い香料などの使用が禁止され、規制に合致しない化学物質を使った玩具はEUへの輸出ができなくなる。

9日付大公報によると、欧米は世界の玩具販売額の5割を占める最大の市場のため、玩具メーカーにとって今回の新規制施行による打撃は非常に大きい。特に世界最大の玩具生産国であり輸出国でもある中国の輸出の5分の1を占める東莞市では、業界関係者が「これまでで最も厳しい規制」と戦々恐々としているという。

東莞玩具協会の陳祥祐秘書長は同紙に対し、「珠江デルタ地域に生産拠点を持つ香港系玩具企業の大半が受託製造を担っているため、リスク対応能力が低い」と指摘。「ほとんどの企業が研究開発(R&D)能力も備えているが、成熟した販売チャネルを持っていないため、本土市場の開拓が難しい」と懸念を示し、輸出を主体とする企業の3割近くが経営破綻に追い込まれる可能性があるとの見方を示した。

■原材料・検品費用上昇

企業が頭を抱えているのは、新規制施行により原材料費をはじめとするコストが増加するためだ。香港系の美馳図実業幹部の話では、環境保護を意識した材料への切り替えで、コストは従来よりも2割以上上昇する見通しという。

検品項目増加に伴う費用の値上がりも予想される。家宝玩具製品幹部によると、検品費用はこれまで1回につき600~800人民元(約9,870~1万3,100円)だったが、新規制施行により2~3割上昇するとみられている。

珠江デルタ地域に生産拠点を置く香港系企業にとっては、人件費の高騰や人民元高、社会責任の監督強化という「三重苦」に、今回の新規制が追い打ちをかける格好となる。美馳図幹部の話では、人民元相場の変動による為替差損を恐れて、多くの玩具メーカーが長期受注を拒否している状態。企業側は海外の顧客に対し受注価格の引き上げを求めているが、顧客はなかなか同意しないようで、「仮に顧客が同意したとしても、上げ幅は2%程度で、とても赤字をカバーできない」との悲痛な声が上がっている。

■乱立解消か、経営モデル転換へ

一方で、今回の新規制施行により、業界への参入ハードルが上がり、企業の乱立状態が解消されるとの見方もある。

中山大学珠江デルタ研究センターの林江・副主任は「産業全体が秩序ある発展を遂げられる」と指摘。欧米市場が低迷し、環境保護基準も高まる中、香港系企業は輸出型受託製造から、本土市場を狙うブランド製品運営へと経営モデルを転換させるべき時が来ているとの認識を示した。§NNA(NNA.ASIA