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[お金の管理] (2)為替管理のポイント-1

漠然としている「経理」という表現ですが、要は「お金の管理」ということです。前回はまず現金・預金の管理のポイントについてお話しました。

おそらく「経理」と言えば現金・預金の管理が重要な仕事の一つだろう、ということは容易にイメージできますので、内容も違和感なく理解できた ことかと思います。ただ逆に言えば、他にどのようなイメージをお持ちでしょうか?請求書などを集めて入出金の記録をする、というイメージが強すぎて、その 他についてはイメージがわかない方も少なくないのではないでしょうか?

ここで「お金の管理」として捉えてみて下さい。現金・預金の管理は「現在あるお金を正確に安全に」管理することを目的としていますので、確か にとても重要な管理なのですが、それ以上のものではありません。会社として、つまり総経理としての最大の目的は「お金を増やす」ことですよね?そう考えれ ば、他にやらなければならない「お金の管理」が頭の中に浮かんでくるかと思います。

今回から2回に分けて、その中の一つの為替管理を取り上げたいと思います。特にこの1年の間、為替を取り巻く環境は大きく変わりました。その 結果、利益が出ていると思っていたのに決算をしてみたら多額の為替差損が計上されていて、思っていたよりもずっと利益が少なくてビックリした、というよう な経験をされてはいませんか?なんとなく為替レートの変動が影響しているということを理解していても、ただ為替差損という表示で多額の損失が計上されてい ることに釈然としない思いをしておられる方が多いのではないでしょうか?特に華南地域では多通貨での取引が前提となりますので、総経理としては為替差損の 原因に対する理解を避けては通れません。為替差損は会社の営業とは関係ないにも関わらず会社の「お金が減った」ということを表しているのですから、この 「為替差損を減らす」ための管理が求められるわけです。

為替差損益の発生原因には、大きく分けて、(1)外貨建取引を行った場合、取引時点の為替レートと決済時点の為替レートの差、(2)期末時点の外貨建債権債務について、計上時点の為替レートと期末時点の為替レートの差、の二種類あります。今回はまず(1)について、その計算方法とその対策を話していきたいと思います。

(1) 外貨建取引を行った場合、取引時点の為替レートと決済時点の為替レートの差

ここでは円建ての仕入をUS$建てで記帳する場合をもとに説明します。
(図表1)

  仕入時点(3月) 支払時点(6月)
仕入金額(円建て) 1,200,000円 1,200,000円
社内レート(記帳レート) 120円/US$ 120円/US$
銀行レート(決済レート) 110円/US$ 100円/US$
仕入金額(US$建て) 10,000US$  
支払金額(US$建て)   12,000US$
為替差損(US$建て)   2,000US$

まず仕入時点で記帳するためには、円建ての金額をUS$建てに換算しなければなりません。しかし実際にUS$建ての取引があったわけではないので、換算するためにはなんらかの仮定を置く必要があります。そこで、この場合の為替レートは原則としてその日の為替レートを用いることになっていますが、実際に毎日変更するのは実務的に非常に大変な作業なので、ある一定のレートを記帳レートとして社内的に設定することが一般的です。ここでは120円/US$だったとします。この場合の仕入金額は1,200,000円÷120円/US$=10,000US$に換算されます。つまり、この時点では買掛金は10,000US$として認識されることになります。

そして支払時点では、通常は銀行にあるUS$を実際に円に換金して支払われます。この仮定では仕入時点より円高に進んで100円/US$となっていますから、1,200,000円を送金するためには1,200,000円÷100円/US$=12,000US$必要です。仕入時点では買掛金10,000US$を想定していたにも関わらず、決済時点では12,000US$が実際に必要になったのですから、その差額の2,000US$は為替差損として認識されます。

さあ、これで計算方法自体は理解できました。それでは「為替差損」を減らすためにはどうしたら良いでしょうか?記帳レートと実際の決済レートとの差がなければ為替差損は発生しない、という切り口で考えてみて下さい。

①社内レートをその日の為替レートに近づける(=社内レートとして月末レート使用を推奨)

まず社内レートに注目してください。これは前述のとおり、その日の実際のレートではなく、社内的に設定したある一定のレートです。ある一定のレートとしては、月末レートや年末レートを使用することが実務上認められています。あまり変更しない方が記帳する上では楽なので、年末レートを使用しているところも結構あるのではないでしょうか?

しかし為替差損を減らすためには、年末レートでは望ましくありません。月末レートを使うべきです。その理由は単純明快で、毎月直近の為替レートに変更しておけば銀行レートとの差が少なくなるからです。さきほどの例で確認してみてください。仮に社内レートを110円/US$に設定していた場合には、為替差損は以前の2,000US$から1,091US$へと減少します。

(図表2)

  仕入時点(3月) 支払時点(6月)
仕入金額(円建て) 1,200,000円 1,200,000円
社内レート(記帳レート) 110円/US$ 100円/US$
銀行レート(決済レート) 110円/US$ 100円/US$
仕入金額(US$建て) 10,909US$  
支払金額(US$建て)   12,000US$
為替差損(US$建て)   1,091US$

ただこの場合に注意して欲しい点は、費用の総額は変わらない、という点です。図表1の場合の費用総額は、仕入金額10,000US$+為替差損2,000US$=12,000US$ですし、図表2の場合の費用総額は仕入金額10,909US$+為替差損1,091US$=12,000US$となって一致しています。

しかし、為替差損という漠然とした費用として認識されるのではなく、為替の上昇による売上原価の上昇として認識されることは、会社の営業損益管理上、有益です。なぜなら為替圧力で原価が上がっていることが分かれば、売値に転嫁するなり別にコスト削減努力をするなり、素早く改善策を打つことができるからです。

②仕入時点と支払時点のタイムラグを短くする

図表2では社内レートをその日の銀行レートに完全に一致させましたが、それでも為替差損が計上されてしまいます。これは仕入時点と支払時点が異なる限りやむを得ないのですが、このタイムラグをできるだけ短くすることで、為替差損を減らすことが可能です。時にはたった1週間で何%も変動することもあったり、長期的にはまた戻ったりしたりしますが、一般的にはこのタイムラグが短いほど仕入時点と支払時点の銀行レートの差は少なくなります。

(図表3)

  仕入時点(3月) 支払時点(4月)
仕入金額(円建て) 1,200,000円 1,200,000円
社内レート(記帳レート) 110円/US$ 105円/US$
銀行レート(決済レート) 110円/US$ 105円/US$
仕入金額(US$建て) 10,909US$  
支払金額(US$建て)   11,429US$
為替差損(US$建て)   520US$

この場合には①の場合と異なり決済レート自体が変わることから、費用の総額が変わってきます。図表1の場合の費用総額は、仕入金額10,000US$+為替差損2,000US$=12,000US$ですが、図表3の場合の費用総額は仕入金額10,909US$+為替差損520US$=11,429US$となって費用総額が少なくなっています。

しかし、この例では円高局面ですので支払を早めることによって費用総額が減少しましたが、逆に円安局面では支払を早めると費用総額が増えてしまいます。現実にはどちらに動くか正確に予測はできませんので、結果的にどちらが得になるかは分かりませんが、少なくとも為替レートの変動の影響を排除したい場合には、このタイムラグを短くすることが有効な対策となります。

今回は(1)の内容を仕入の円高局面における為替差損を例にとって説明しました。円安局面だとどうなるのか?売上の場合はどうなるのか?など次回はさらにこの応用編をお話した後、(2)の為替差損益の計算方法とその対策についてお話しする予定です。

<まとめ>
・為替の変動も会社のお金を増やしたり減らしたりするので、管理が必要である。
・為替差損益の発生原因には、大きく分けて、
(1)外貨建取引を行った場合、取引時点の為替レートと決済時点の為替レートの差、
(2)期末時点の外貨建債権債務について、計上時点の為替レートと期末時点の為替レートの差、の二種類がある。
・(1)の為替差損益を小さくするためには、
①社内レートをその日の為替レートに近づける(=社内レートとして月末レート使用を推奨)
②取引時点と決済時点のタイムラグを短くする
ことが有効である。