2014年3月3日より、香港において新会社条例(第622章)が発効しています。その内容はコーポレート・ガバナンスの強化、規則の内容改善、事業活動の促進並びに法体系の近代化などを目指したもので、これにより、2015年3月期からの決算書作成時に影響を受けることとなるため、今回その中から合併(Amalgamation)について取り上げます。

合併とは、2つ以上の会社の事業、資産及び負債すべてが結合され、元々存在する会社の何れか1社、もしくは新設会社へ統合される法的手続を指します。従前の会社条例(第32章)では、合併という文言こそ含まれていたものの、合併制度の具体的な法規がなく、裁判所の認可の下、存続会社への資産負債及び資本を含めた事業譲渡と、消滅会社の解散を個々に進める、または、存続会社へすべての資産負債を譲渡し、消滅会社の清算もしくは登記抹消の組み合わせで吸収合併や新設合併と同様の効果を得る、というのが、香港でのグループ内組織再編時に用いられる主たる手法でした。

しかしながら、2014年3月3日以降、裁判所の干渉を受けず、合併を進めることが可能となっているため、合併における会計及び税務上の取扱いで留意すべき項目について整理しています。

1.主な合併手続の内容

<図1> グループ内組織再編 – 垂直合併と水平合併
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新会社条例の下、グループ内の組織再編時の親会社による100%子会社の垂直合併及び100%子会社同士の水平合併は、裁判所の認可なく実施することが可能となります。合併会社(Amalgamated Company)と被合併会社(Amalgamating Company)での手続の内容については下の表1の通りです。

<表1> 垂直合併と水平合併の手続の流れ
手続内容垂直合併水平合併
株主による承認- 吸収合併する親会社の株主は、株主総会にて特別決議が必要(決議書のみでは不可で必ず総会の開催が要求される)
- 吸収合併される子会社の株主は、株主総会にて特別決議が必要(決議書のみでも可)
- 吸収合併する子会社及び吸収合併される子会社の株主は、株主総会にて特別決議が必要(ともに決議書のみでも可)
支払能力報告書- 存続会社の取締役は、存続会社が如何なる債務も履行可能であること、解散会社の直近12カ月間以内に決済期限が到来するすべての債務(偶発債務や将来発生すると考えられる債務含む)を履行可能であること、並びに存続会社による浮動担保やその他担保がないこと(万が一存在する場合は、すべての担保権受益者の合意書も必要)、を報告し、その要件と根拠を記した証明書を発行しなければならない。
公告- 各々の合併対象会社の有担保債権者すべてに書面にて通知しなければならず、垂直合併の場合は、株主総会の21日以上前までに、水平合併の場合は、株主による決議書が持回りされる日までに英語及び中国語の新聞で正式に発表しなければならない。
登記- 株主による特別決議後15日以内に会社登記処へ合併登記関連申請書類を提出しなければならない(以後、5週間の債権者異議申立期間有)。
※関連規定 – 香港新会社条例第680~686条、他

なお、ここで議論となる事項の1つとして、無担保債権者の保護が挙げられますが、合併が原因で不当にそれら債権者に悪影響があると判断される場合は、裁判所が干渉することもあり得ますので、注意が必要です。

2.合併時の会計上の取扱い

合併会計の概要については、現在のところ、香港会計士協会(HKICPA)から会計上の取扱い詳細に係る基準について改めて発表されているわけではなく、香港会計ガイドライン第5号の「共通支配下の企業結合に関する合併会計(MERGER ACCOUNTING FOR COMMON CONTROL COMBINATIONS)」を適用することが、適切と考えられます。

<表2-1> 合併前の各社財務諸表
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先述の図1及び表2-1に基づき、垂直合併及び水平合併後の各社単体及び連結財務諸表イメージは下記のようになります。

<表2-2> 垂直合併後の各社財務諸表
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垂直合併後の親会社の財務諸表上、被合併子会社Lへの投資勘定とその資産負債とが入替わりますが、ここでは被合併子会社Lが、親会社からの出資金100と未処分利益25からなる純資産を保有しており、その結果、親会社の純資産及び未処分利益は、合併前と比較し、ともに25増加することとなります。

借方)現預金及びその他資産 125
   貸方)子会社投資(L社) 100 + 未処分利益 25

一方で新会社条例第678(2)条では、合併による株式消却は減資ではない、と規定しているため、子会社Lの資本金100も認識し、合併後の親会社資本金額を300とすることを要求しているように一見考えられますが、同条例第680条(2)(a)において、被合併会社の株式は、支払や対価無しに消却される、と規定されているため、結論として、子会社Lの資本金100は、親会社へ移転することなく消却されると推定できます。

<表2-3> 水平合併後の各社財務諸表
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水平合併後の親会社の子会社投資勘定は、被合併子会社Lを吸収合併した合併子会社Mの資本金額合計と合致し、未処分利益についても然り、と一見なりそうですが、先述の垂直合併時の際にも触れたとおり、新会社条例第678(2)条及び水平合併の場合は同条第681条(2)(a)において、合併子会社Mの発行済株式は5株で、被合併子会社Lの発行済株式10株は消却され、会計上の取扱いも原則として、それに従う必要があると考えられます。

借方)現預金及びその他資産 125
   貸方)未処分利益 125(方法1)
   貸方)資本金 100 + 未処分利益 25(方法2)

これを素直に取り入れると、上記の方法1の会計処理となりますが、一見すると方法2のほうが単純に合算するだけで、連結時の会計処理を考慮しても合理的かつすっきりする感があります。従って、香港における償還義務を有する優先株式の登記上の取扱いと、会計上の取扱いに差異(登記上は株式資本ですが、会計上は負債として認識される)が出るのと同様に、たとえ新会社条例上は株式の消却とみなされようとも、会計上の取扱いは実質的な資本金として、方法2の適用の可能性もまた、否定できないと考えられます。

3.合併時の税務上の取扱い


香港の新会社条例上、合併手続に関連する税務上の取扱いについては特に言及されておらず、税務条例上も、未だこれに対応する法規・実務解釈指針が制定・明文化されていません。納税者としては、被合併会社の税務上の繰越損失が、そのまま合併会社に引継がれるのかどうか、資本性資産負債と営業性資産負債の移転に伴い、税務上どのような影響を受けるのかなど、非常に気になるところです。

◇ 合併時の税務上の取扱い検討項目例:
a. 被合併会社の税務上の繰越損失が合併会社に引継がれるか否か;
b. 被合併会社が合併会社に、税務上減価償却費が認められる無形資産や固定資産を移転する際、時価で譲渡として見なされ、被合併会社として当該時価を上限とした、過去に控除した税務上の減価償却費の戻入れ(Balancing Charge:結餘課税)が発生するか否か(※);
c. 例えば、事前裁定(Advance Ruling: 事先裁定)やオフショア所得(Offshore Profits: 海外利潤)など、被合併会社が従前より特殊な税務処理及び税務局の合意を得ている場合、合併会社で当該申告が継続して認められるか否か;
d. 被合併会社が資本性資産を有し、キャピタルゲイン非課税として認められ得る期間保有していた場合で、合併後に合併会社が当該資本性資産を売却した場合、被合併会社での保有期間も考慮した形で税務局の判断を受けることができるか否か;
e. 合併するための資金調達のために借り入れた借入金利息や、合併手続きを進めるために支払った専門家への報酬が、税務上損金として扱われるかどうか;及び
f. 被合併会社が所有する香港株式や香港不動産が、合併会社へ移転する際、従前のグループ内組織再編時の印紙税免除規定が認められるか否か(※)、など。
※詳細は2013年掲載の香港における組織再編時の心得其の一並びに其の二参照。

4.合併時のその他の検討事項


その他新会社条例上、被合併会社が締結していた如何なる契約事項については、その契約に特段の定めがない限り、合併会社に対して効力を有するとあるため、香港内における雇用条例上の取扱いについては、被合併会社の雇用契約をそのまま引継ぐことが必須と解されますので、合併時点での特段の更新は不要と考えられるものの、各従業員の雇用条件の明瞭な管理のためにも、被合併企業で付与されるべき権利はもちろん保ちつつ、合併企業側で更新締結することも検討が必要と考えられます。

さらに、外国法に関連する契約、登記及びライセンスなどについては、被合併会社の名義であれば、合併会社としてそのまま引継ぐことができるわけではなく、①契約の更改、②外国での登記の変更や③ライセンスの更新などが必要となる可能性があります。

例えば①の場合、被合併会社から外国企業への貸付金や外国企業からの被合併会社への借入金について、香港法だけを考慮すると、そのまま引継げると解される一方で、外国法下での解釈として、契約の更改を求められるケースが推測できます。次に②の例として、被合併会社が中国子会社持分を保有している場合、合併時に当該持分の直接もしくは間接譲渡として見なされ、中国税務上の影響が発生し、中国国内での登記変更手続が必要となると考えられます。さらに③の例としては、被合併会社が中国子会社とのCEPAライセンスを登録している場合、合併会社名義への登記更新(名義変更)が必要となるでしょう。

以上、香港新会社条例下で、2014年3月3日以降、グループ内組織再編に採用できる合併手続について、勘案すべき項目を要約し列挙しました。グループの規模によって考慮すべき項目は多岐に渡ると予想されますが、それに伴い、会計上の処理の複雑性及び税務上の取扱いの不明瞭性といったリスク要因も存在する上に、さらに香港のみならず、日本や中国、その他外国の法規が複雑に絡む可能性がある事象であり、留意点は多分にあることをご理解頂ければ幸甚です。従い、合併手続を進めていかれる際は、専門家の意見を取り入れながら、慎重に進めて頂ければと存じます。

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