香港 源泉主義の名の下に

[源泉主義] 金融機関とオフショアクレーム

世界中の主要な国際金融センターの1つである香港では、金融サービスもまた4つの支柱産業の1つとして数えられており、金融機関による金融取引は非常に複雑かつ多様であるため、今日に至るまで税務上様々な取扱いが規定されています。

1978年に修正された香港税務条例(IRO, Inland Revenue Ordinances)の第15条(1)(i)をきっかけに多くの論争が繰り広げられましたが、1986年には、香港税務局(IRD, Inland Revenue Department)は、特定の利息収入と関連する手数料の税務上の取扱いについて、経営者や金融機関顧客との合意に至り、それまで繰り広げられていた論争が落ち着いた感があります。

その後Hang Seng Bank及びOrion Caribbean Limitedの案件の判決を経て、ある側面において問題点が提起されたものの、香港税務局解釈実務指針(DIPN, Departmental Interpretation and Practice Notes)21号「利益の源泉地(Locality of Profits)」は、現在も上述した合意に基づいた税務上の取扱いを原則として適用するとしています。

1. 金融機関による金銭貸借から発生する利息収入

オフショアローン(Offshore Loan)、いわゆる香港域外へ拠出する貸付金については、Hang Seng Bank及びOrion Caribbean Limitedの案件の判決より、次の4つの状況における税務上の取扱いがDIPN21号に明記されています。

  • 香港域外の関連会社によって、企画提案、交渉、承認及び文書作成が実行され、かつ香港域外で資金供給されるオフショアローンから発生する利息収入については、100%非課税となります。詳しく例示しますと、たとえ香港の金融機関の名義で貸付が執行されたとしても、海外本社、海外支店または海外法人を含む香港非居住者によって、貸付資金の調達及び直接借り手に貸し付けられた場合、原則として香港で100%非課税となります。
  • 香港の金融機関によって、企画提案、交渉、承認及び文書作成され、かつ香港でその金融機関によって資金供給されるオフショアローンから発生する利息収入は、原則として香港で100%課税となります。
  • 香港域外の関連企業によって、企画提案、交渉、承認及び文書作成され、かつ香港の金融機関によって資金供給されるオフショアローンから発生する利息収入は、原則として香港で50%のみ課税となります。
  • 香港の金融機関によって、企画提案、交渉、承認及び文書作成され、かつ香港域外の関連会社によって資金供給されるオフショアローンから発生する利息収入は、原則として香港で50%のみ課税となります。但し、この税務上の取扱いは、その金融機関がまだ市場における存在(Market Presence)を確立しなければならない立上げ段階でのみ、適用されることとされています。

ここでいう「香港域外の関連会社によって資金供給されるオフショアローン」として承認されるためには、香港の金融機関がそのオフショアローンの資金源を決定する権限を有しておらず、かつ、たとえその資金が香港で別の手段を通じて送金されたとしても、資金が香港域外の関連会社によって直接提供されたことを示す書面による証憑がなければなりません。言い換えますと、香港の別の企業グループによって恣意的に資金供給された場合は、この条件に当てはまりません。また、「企画提案」とは、オフショアローンの売込み勧誘、交渉及び構築を含む、特定の事業を獲得するための一連の取組みを指します。オフショアクレームが承認されるには、香港域外の関連会社による営業活動の直接の成果として、香港の金融機関に事業委託され、かつ事業参加を招請されることを実証できなければなりません。

2. 譲渡性預金証書(CDs, Certificates of Deposit)から発生する利息収入

譲渡性預金の取得は、銀行預入と似た取扱いを受けることとなり、その利息収入は原則香港で100%課税となります(2010年6月現在銀行預金利息自体は非課税となっています)。この取扱いは、香港の金融機関が、利用している大手銀行及び信用限度に関して、以前に承認された取引条件の範囲内で取引を行うという事実に基礎を置いています。言い換えますと、譲渡性預金と金銭貸借とは、明確に区分され、取り扱われることとなっています。

3. 譲渡性預金以外の有価証券から発生する利息収入

上述した金銭貸借から発生する利息収入と同じ取扱いを受けることとなります。発生した利息収入が、オフショア市場介入に帰属するものである場合、香港の金融機関の役割は、如何なる決定権も持つことなく、単なる有価証券の売買仲介人でなければなりません。香港の金融機関が、自社で有価証券を取扱う能力を有しており、それを行使している場合、如何なる免税申請の享受も受けることはできません。

4. 参加手数料(Participation Fee)や約定手数料(Commitment Fee)等

関連する金銭貸借と合わせて、上述する金銭貸借から発生する利息収入と同じ税務上の取扱いが適用されます。

5. 業務手配料(Active Fee)

いわゆる実際の積極的な役務提供に係る手数料で、「活動テスト(Activity Test)」により判断されます。すなわちその対価を稼得するために役務が提供された場所に源泉があるものと考えられますが、個々のケースの特定の要素により判断されます。

6. 保証または引受業務手数料(Guarantee/Underwriting Fee)

源泉の決定に係る主要な概念は、香港の金融機関が、保証または引受業務契約のリスクを見積り、かつ負担するかどうかに起因します。香港の金融機関が、オフショアでの指示の承認及び否認の決定権、並びにリスクを有していない場合、保証または引受業務手数料は、単に会計上計上されるのみで、税務上非課税となります。

※ オフショアクレーム(Offshore Claim)の手続

ここでは、金融機関に限らず、個人や金融機関以外の法人にも適用される可能性があるオフショアクレームについて、少し触れたいと思います。

納税者によるすべての営業活動が、利益の源泉の決定に関与するわけではありません。利益の源泉に係る調査手続は、問題となっている取引の種類やその取引が発生している状況によって多岐にわたります。

納税者は、税務申告の際、ある取引の利益が香港域外に源泉があることを、証憑をもって証明するための準備が必要となります。査定官は、査定を行使し、調査を行う法的義務があり、香港税務条例第51条(4)の下、如何なる人の債務、責任または義務に影響を与える可能性のある、あらゆる問題に係るすべての情報を捜索する権限を付与されています。問題となっている取引の営業活動に係る詳細情報の要求は、公益を求める上でも妥当と考えられており、その権限の範囲は原則として制限されないものとされています。

また、香港税務局は、利益を創出する最終段階の活動が必ずしも利益の源泉地の決定要因とはならないとしています。ここでは、オーストラリアの高等裁判所での判決が引用されており、ある納税者が受取る収入は、異なる国々で実施された個々の営業活動の結果となり得るとされており、第一段階から最終段階まで、すべての事象が考慮されるとしています。

香港に主たる事務所を構えている納税者が、香港域内で課税対象とならないのは、非常に稀なケースです。オフショア利益としてスキームを細工することに対し、香港税務局は厳しく見張っており、租税回避防止条例の下、適切と考えられる場合は、見え透いた隠蔽に対し重い罰則を課すこともあります。

今回は金融機関取引の一部に触れているので、一般的にはあまり馴染みはないトピックかも知れませんが、複雑かつ多様な金融取引を可能な限り税務上区分していることは、DIPN21号の概念をさらに理解する上で重要な内容であるため、前回までのトピックとも比較しながら、ご参考頂ければと思います。次回は長く香港に居住されている方々にとっては身近な項目も含まれていると考えられる「その他利益」の税務上の取扱いについて触れていきます。