中国 M&A

[M&Aは今] (5)委託先工場買い取りについて2/2

リスクの確定

前回に引き続き、委託先工場の買い取りケースについて紹介します。このケースでは、従来の取引相手との交渉は進めやすい面もあるが、「親しき仲にも」基本合意契約によるお互いの意思確認と、買収監査による潜在リスクの洗い出しが大事、といったことを説明しました。

買収監査を通じ、買い手は買収時のリスクは何か、リスクの大きさはどれくらいかを確定していきます。リスクの確定によって、最悪の場合を想定し たり、万が一問題が起きた時の対応策や費用の負担について契約書に盛り込んだりします。隠れた債務などの可能性が大きい場合、株式買収ではなく資産買収に よるリスク回避も検討されます。

リスクは企業によって様々で、リスクの内容にふさわしい調査・監査を行います。以下に一般的なリスクを列記します。

  • 簿外負債:決算書に載っていない負債がある場合。
  • 保証債務:会社として他社の連帯保証をしている。
  • 税務リスク: 脱税、申告漏れなどがある場合。
  • 環境汚染:廃棄物の処理上問題がある。
  • 贈収賄:政府機関などに対し、絶えず行っている場合。
  • 背任行為:従業員の不正など。
  • 瑕疵:製造製品の品質問題(リコールなど)
  • 人材流出:人が辞めるリスク。

中国事情特有のリスク

中国国内の事情に特有で製造拠点に関わるリスクとしては、土地登記上の問題もあります。買収先企業が土地の使用権を有する場合、譲渡可能な土地かどうか、また工場棟を賃借している場合でも、土地及び建物を含む不動産登記状況が適正で手続きに漏れがないか、或いは当該土地が住宅や商業用途に転換される可能性などを調査します。

税務リスクにおいては、複数の帳簿が作成されていることにより隠れた債務や、申告されていない収入や資産などが無いかどうか。税務規定に違反していることを知らずに、或いは当局に指摘されないまま過ごしているような活動があれば、買収後当局から指摘され追徴される潜在的なリスクとなります。前回に述べた通関業務に関しても同様です。

経営範囲について、中国における外商投資企業の事業活動は認可制で、必要な許可を得て証書の発行を受けなければなりません。営業許可証や定款に記された経営範囲を超えて活動することはできません。但し、中国の開放政策に伴い外資規制は緩和されており、以前の厳しい規定通りに作成された定款が未修正であるなど法的手続きが漏れているだけの場合もあります。修正や追加手続きが可能であれば買収時のリスクとしては大きい問題とはならないでしょう。

最終条件交渉へ

買収先企業のリスクを洗い出し、適切な調査を行って、対応策を見出すか或いは契約書に盛り込むなどのステップを経て、最終条件交渉に入っていきます。一般的に、○株式価値の決定 ○従業員の処遇の決定 ○社長の処遇の決定 ○譲渡代金の支払方法の決定 ○連帯保証・担保提供の解除方法の決定 ○罰則規定 などの項目を盛り込みます。他にケースに応じて、細目事項を決定します。譲渡後のいざこざを防ぐためにも、事前にきちんと交渉条件に盛り込み決定しておくことが重要です。

出資者変更登記手続き

委託先工場の買い取りに際し、当該工場の登記に関しては株主変更の手続きが必要となります。手続きステップは図の通り、認可を経て各種登記の変更手続きとなります。株主間の譲渡契約書、譲渡・譲受け双方の会社の登記証明、定款の修正などが必要です。資産譲渡の場合はこれらの各種登記手続きは不要となりますが、譲渡する資産の特定が詳細に渡ると双方の契約としては複雑になります。

(以上)