国際会計税務・相続

[クロスボーダー’s TAX] (番外編)究極の節税法PT

第16回 (番外編)究極の節税法PT

このシリーズも前回の「香港・中国・日本、納税するならどこが有利?」で一応終了しましたが、今回は番外編として、究極のクロスボーダーともいえるPTを取り上げてみます。PT(Permanent Traveler永遠の旅行者)という言葉が皆さんにどの程度知られているかわかりませんが、私が最初に耳にしたのは、10年程前、まだ日本での監査法人勤務時代だったと記憶しています。当時は、理屈としては理解できても、現実には机上での話で、PT実践者はよほどの変わり者か、特殊なやむを得ない事情を抱えた人だろうくらいに思っていました。ところが、香港にきてみてその考えを改めました。欧米人を中心に何人ものPTを積極的に実践している人たちに出会ったのでした。

PTとは?

もともとPTと は、生活する場所として複数の国々を使い分けて、人生上の種々のリスクを分散するとともに各地での生活をエンジョイしていこうとするライフスタイルの人た ちのことをいいます。カナダ・オーストラリア・日本など季節に応じて廻っている大橋巨泉さんをイメージしてもらえばいいでしょう。そのうち特に税金対策の 観点から、定期的に滞在する国をかえて、いずれの国においても税務上「居住者」に該当しない人々を指してPTと呼ぶことも多くなってきました。A国に滞在していて、その滞在日数からA国の「居住者」に該当して納税義務が生じそうになったらB国に移り住み、またB国でその「居住者」になりそうになるとC国に移るといった具合です。

多くの国では「居住者」に該当しない場合、すなわち「非居住者」では、そこでの源泉所得を除き納税義務はありません(図表参照)。例えば、日本の非居住者Aさんは、日本で所有する不動産からの賃貸収入などは日本で課税対象となりますが、海外に源泉がある所得までは日本の税金は課されません。そこで、Aさ んがその日本の不動産を売却して、その資金を金融資産としてタックスヘイブンの国で運用したとしましょう。さらに、滞在するいずれの国でも「居住者」に該 当しないよう、あたかも永遠に旅行し続けているように居住する場所をかえていったとしたら、結果的にどこにおいても税金を納める必要がなくなってしまいま す。

代替策は香港居住者

とはいえPTを 実践するとなると、普通の感覚では、転々とする面倒さやコストにやはり二の足を踏んでしまうことでしょう。しかし、実はもっと身近に非常に簡単な方法があ るのです。それは、生活の本拠を香港に移してしまうことです。香港は、他の多くの国と違い、居住者であっても全世界所得課税ではなく、海外での所得は課税 対象とはなりません(図表※印)。さらに、受取利息や配当金、キャピタルゲインについても非課税となっています。さきほどのAさんのケースでは、日本を離れ香港に移り住んで香港で金融資産を運用したとしたら、永遠に旅行をしなくとも税務的にはPTと同様な効果を得ることができるのです。

多くの読者の方からは、香港に住 んでいるのにそんなメリットの実感がない、税金は年一回しっかり払っているとの声が聞こえてきそうですが、香港でも給与所得については低税率とはいえ課税 対象ですので、将来財産の運用だけで生活できるようになってからのことを想定していただければと思います。

最後に、日本人の方の場合、PTになるにしても香港居住者になるにしても、日本の非居住者になるのが一番のポイントになりますが、日本から住民票を抜けばいいとか、香港でマンション購入や、香港IDを取得さえすれば大丈夫などと安易に考えると後々大きな問題になりかねませんので、事前に日本の税務専門家に相談するなどして十分に注意しておく必要があります。

図表

日本・中国など 国内源泉所得 国外源泉所得
非居住者 ×
居住者 ○全世界所得課税

(※)香港ではこの部分も非課税