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[クロスボーダー’s TAX] 第12回 ケーススタディ(4)―中国での居住期間による課税範囲の違い―

クロスボーダー’s TAX ~港・中・日の個人所得税を解説~

第12回 ケーススタディ(4)―中国での居住期間による課税範囲の違い―

今回は、中国での居住期間によって申告しなければならない所得の範囲がどのようにかわってくるかについて説例をとおして確認しましょう。特に長期勤務が予定されている方は、滞在年数が5年を超えると課税の範囲が一挙に広がりますので、事前に十分な対策が望まれます。

事例7
日本人A氏は、広州市にある日系現地法人の品質管理担当者として派遣されてきた。A氏には、中国現地法人からの毎月の給与25,000元のほかに、日本での自己所有マンションの賃貸収入が月額10万円ある。次の場合での中国での取扱いはどうなるか?

a. 中国赴任の初年度で200日間
b. 中国での居住が連続3年
c. 中国での居住が連続5年と半年

所得が複数国・地域にまたがって課税関係が複雑になっている場合には、図表にあるように、それぞれの国・地域での「居住・非居住者区分」と、「国内・外の源泉所得区分」の2つ の側面から解きほぐすとわかりやすくなります。図表では、中国におけるそれぞれの関係を示しています(日本での取扱いは紙面の都合上省略しますが、基本的 に同じように検討できます)。源泉所得区分では、中国現地法人からの給与は中国国内源泉所得、日本での家賃収入は中国外(日本)源泉所得となります。

a. 中国居住期間が1年未満の場合は、税務上非居住者として中国国内源泉所得のみが中国での課税対象となります。したがって、中国では毎月の給与25,000元分だけを申告することになります。なお、183日というのが短期滞在者の一つの基準としてありますが、この事例で仮に滞在日数が183日以内であったとしても、給与を中国法人が支給(負担)しているため免税規定の対象とはなりません。

b. 中国居住が連続1年以上となると、本来であれば税務上居住者として全世界所得課税になるところですが、5年未満までは税務局承認により国外源泉所得のうち中国国内の企業や個人から支払われたものに限定できます。よって、この事例のケースでは結果的にa と同様の結論になります。

c. 中国滞在が連続5年を超えると、所得の源泉地にかかわらず中国居住者として全世界の所得を申告する義務が生じます。したがって、日本での所得である家賃収入についても中国で申告しなければなりません。

なお、連続して居住しているというのは、その年度に連続30日か合計90日以上の期間を中国から離れていないことをいいます。逆にいうと、その期間を超えて中国国外に滞在した場合には、居住期間の連続性がとぎれますので、また別途新たに、次の中国入国から居住期間の計算を開始することになります。

図表 居住期間と課税範囲(中国)

所得の源泉地による区分
居住区分 居住期間(注) 中国国内 中国国外(日本、香港など)
非居住者 1年未満
短期滞在者免税規定有
×
居住者(非永住者) 1年~5年 ○国内払、×国外払
居住者(永住者) 5年超

(注)本図表では、通常の日本人駐在員・現地採用の方(中国に住所なし)を前提としております。将来にわたって習慣的に居住する方は、居住期間にかかわらず、居住者(永住者)としての取扱いになります。

さて、この事例では賃貸収入とい うことで国外源泉所得としての取扱いも明確ですが、これが国外払いの給与手当などでは、その具体的計算の方法が実務上地域や担当によって異なるケースもあ りました。今般「中国国内に住所を有さない個人の租税協定及び個人所得税法執行の若干の問題に関する通知」(国税発〔2004〕97号)において、滞在期間別の計算式が明示されていますので、これについては次回以降とりあげたいと思います。

以上
文・中小田聖一(NAC代表)