![[香港における確定申告] 給与(個人)所得税の申告と計算について (2025年版)](https://www.nacglobal.net/wordpress/wp-content/uploads/2025/04/calc-hongkong-scaled.jpg)
香港
香港・企業本拠地移転制度
香港は、ビジネスと投資に最適な主要拠点であり、法のよる支配という強固な伝統を基盤としたビジネスのしやすさで知られている。香港政府は、香港の国際的なビジネス及び金融センターとしての地位を強化するため、香港以外を拠点とする、他国や他地域で登記されている企業が、香港に本拠地を移転することを可能にする、香港における企業本拠地移転制度(以下「本制度」)の導入を提案している。
この制度の下、香港以外で設立登記された会社が会社条例(第622章)(Companies Ordinance、以下「CO」)に基づき、本店所在地を香港に移転した会社として登記を完了した場合、その法的アイデンティティを保持しつつ、事業の継続性を維持することが可能である。2025年会社(改正)(第2号)条例(以下「改正条例」)は、CO及び税務条例(第112章)(Inland Revenue Ordinance、以下「IRO」)を含むその他の関連する条例を改正し、香港に本制度を導入するため、2025年5月23日に官報に掲載された。
香港は居住地または法人設立登記地に基づいて課税しない。IRO第14条に基づき、香港で商取引、専門業の提供もしくは事業を営む、法人、パートナーシップ、信託または組合を含むすべての人格は、当該商取引、専門業の提供もしくは事業活動から、香港で創出または香港から得られるすべての利益(資本的資産の売却による利益を除く)に対して課税される。
香港以外で設立登記された会社が、香港に本拠地を移転する前に、香港で商取引、専門業の提供もしくは事業を営んでおり、移転前に当該香港で商取引、専門業の提供もしくは事業活動から課税所得を稼得していた場合、その会社は当該利益に対して法人利得税(法人所得税)が課される。本拠地移転によって、会社は当該移転前の期間に係る税債務から免除されることはない。
しかしながら、香港以外で設立された会社が、香港に本拠地を移転する前に、香港でいかなる商取引、専門業の提供もしくは事業も行ったことがない場合は、香港で事業を開始する前の期間について、その会社に法人利得税は課されない。
IROの立法改正は、本拠地を移転した会社が移転前と移転後に、香港において同一の商取引、専門業の提供もしくは事業を営んでいた場合には適用されない。本改正は、その会社が移転前に香港外で商取引、専門業の提供もしくは事業を営んでおり、移転後に香港において同一または別の商取引、専門業の提供もしくは事業を営み始める場合にのみ適用される。IROの立法改正の主な内容は以下のとおりである─
(a) IRO第2条に、同条例中の「香港で設立された」会社には本拠地を移転した会社が含まれ、「香港以外で設立された」会社には本拠地を移転した会社は含まれない、とする一般解釈規定を追加する。
一般的に、香港特別行政区(Hong Kong Special Administrative Region=HKSAR以下「香港」)とその他の税管轄区域の間で締結された包括的二重課税防止協定(Comprehensive Avoidance of Double Taxation Agreements or Arrangements以下「CDTA」)においては、CDTAにおける香港居住者とは、香港内で設立された会社、または香港外で設立された会社であっても、通常香港内で管理または支配されている会社などを指すものと定義されている。上記の一般解釈規定をIROに追加することにより、CDTAにおける「香港居住者」の解釈において、香港に移転した会社も香港で設立された会社とみなされ、ひいては香港居住者とみなされることになる。
(b) 移行税制及び二重課税の排除に関する事項に対処するため、IROに新しい附表17Lを導入する:
移行時の税制措置
経費または支出の所得控除に関する一般条件
- 本拠地移転した会社が課税所得を創出するために要した費用または支出は、以下のいずれの所得控除も認められない範疇に該当する場合において、所得控除対象となる。
- (i) 当該費用もしくは支出について、IROの他の規定に基づき、法人利得税の目的上、所得控除が認められていないこと。並びに
- (ii) 当該費用もしくは支出について、香港以外の地域の法律に基づき課される同様の税に関して、所得控除が認められていないこと。
- IRO第4部第4項の他の規定により課せられる所得控除基準を制限することなく、一般条件は、本拠地移転前に当該移転した会社が負担し、法人利得税の目的において所得控除可能なすべての費用または支出に適用される。
特定の種類の費用または支出の所得控除に関するその他の条件
商品在庫 | – IROの第15BA条及び第15C条を制限することなく、本拠地移転前に本拠地移転した会社によって取得され、本拠地移転後に香港での取引または事業に使用される商品在庫に対する控除額は、本拠地移転日(つまり、COに基づいて当該移転した会社に本拠地移転証明書が発行された日)の取得原価または正味実現可能価額のいずれか低い方となる。 |
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知的財産権の登録、建物の改修、研究開発(R&D)に関する支出 | – 移転前に本拠地移転した会社が負担した以下の費用─ (i) IRO第16条(1)(g)項に基づく商標もしくは意匠の登録、特許もしくは植物品種権の登録または付与のために支払われた金額; (ii) IRO第16F条に規定される建物もしくは構造物の改修または改築にかかる支出; あるいは (iii) IRO第16B条の目的における研究開発活動に関連する研究開発費、 当該資産あるいは権利を香港での商取引、専門業の提供もしくは事業(香港事業)のために使用し始めた、または関連活動が香港事業に関連する研究開発活動となった課税年度の基準期間に、本拠地移転した会社によって発生したものとみなされる。 |
知的財産権の購入または所定の固定資産もしくは環境保全施設(特定資産あるいは権利)の整備に係る支出 | – 移転前に本拠地移転した会社が負担した以下の費用─ (i) IRO第16E条(4)に規定される特許権またはノウハウの購入にかかる支出; または (ii) IRO第16EA条、第16G条、または第16H条に規定される特定の資本的支出 本拠地移転した会社が香港事業のために、特定の資産あるいは権利を使用し始めた課税年度の基礎期間に当該移転した会社によって発生したものとみなされ、所得控除額が以下の(A)または(B)のいずれか低い方である─ (A) 移転日までの特定資産または特定権利に係る償却累計額及び減損損失累計額を控除した特定支出の実際の額の合計額; (B) 移転日における特定の資産または権利の市場価格。 |
機械設備の減価償却費
- 本拠地移転した会社は、以下の条件を満たす場合、当該機械設備について、税務上の減価償却費を所得控除することが可能である─
- 本拠地移転した会社が課税所得を創出するために要した費用または支出は、以下のいずれの所得控除も認められない範疇に該当する場合において、所得控除対象となる。
- (i) 移転日前に香港外で営まれている商取引、専門業の提供もしくは事業に関連して、機械設備の提供対し資本的支出を行った場合で; かつ
- (ii) 移転日以降、当該機械設備を香港における事業に使用している場合。
- 本拠地移転した会社が移転日前に、機械設備を供するために資本的支出を行った場合、当該移転した会社は香港の事業のために当該機械設備の使用を開始した課税年度の基礎期間中に、IRO第4部に基づき課税対象となる利益の創出に使用されたものとみなされる。
- IRO第37条、第37A条、または第39B条に基づく減価償却費の計算における資本的支出額は、以下のとおり算定される─
機械または設備は、割賦購入契約に基づき取得されたか。 | 資本的支出額 |
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いいえ | 以下の(C)または(D)のいずれか低い方の金額─ (A) 機械または設備の実際の取得価格から、当該機械または設備が取得後に本拠地移転した会社によって課税対象となる利益の創出に使用されていたとした場合に、第37条(2)もしくは第39B条(2)に基づいて支払われるべきであった年間所得控除額の想定額を差し引いた金額。 (B) 移転日における当該機械または設備の市場価格。 |
はい | 本拠地移転年の課税年度(すなわち、本拠地移転日を含む課税年度)について: – 次の式により算出される金額:
EF×G ただし、Eは、本拠地移転年の基礎期間末までに会社が行った各分割払いの資本部分の合計額を指し; Fは、割賦購入契約に基づき会社が支払うべき各分割払いの資本部分の合計額であり; そして、 Gは、上記(C)または(D)のいずれか低い方の金額となる。 移転年度後の課税年度については、以下の式に従って算出される金額: – 次の式により算出される金額: HI×J ただし、Hは、当該課税年度の基礎期間中に会社が支払うべき各分割払いの資本部分の合計額を指し; Iは、割賦購入契約に基づき会社が支払うべき各分割払いの資本部分の合計額であり; そして、 Jは、上記(C)または(D)のいずれか低い方の金額となる。 |
保険事業
– IRO附則第17L条に基づく保険法第23条(生命保険事業)または第23AAA条(損害長期保険事業)の補足規定は、保険業条例(第41章)第3BA条もしくは第3BB条の意味における本拠地移転保険業を営む会社に対し、以下の条件を満たす場合に適用される─
本拠地移転保険会社となる日(確定基準日)の直前に指定保険会社ではなかった香港外の保険会社 |
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確定基準日以前に認可保険会社ではなかった香港外に設立された会社 |
– 本拠地移転保険会社が、香港外において営む生命保険事業もしくは損害保険事業に起因する、確定基準日直前の時点における損失または利益(以下「損失」または「特定利益」という)は、当該本拠地移転保険会社の調整後の利益を、確定基準期間(すなわち、確定基準日が含まれる税務上の基準期間)に生じたものとみなす際に、以下のとおり考慮しなければならない─
- (i) 確定基準期間の直前に終了する期間について、第23条(2)に基づく報告が行われた場合─
- 特定損失は、第23条(4B)(a)(i)に規定する欠損金に加算される; あるいは
- 特定利益は、第23条(4B)(b)(i)に規定する剰余金に加算される。
- (ii) 報告が行われていない場合─
- 特定損失は、第23条(4B)(a)(i)に規定する欠損金とする; あるいは
- 特定利益は、第23条(4B)(b)(i)に規定する剰余金とする。
二重課税の排除
– 法人が本拠地移転に伴い、その未実現所得または利益(特定所得)について、設立地において利得税(特定税額)と実質的に同一の性質を有する税金を納付しており、かつ、本拠地移転後、当法人が実際に得た所得または利益に対しても、IRO第4部に基づく利得税が課せられる場合、当法人は、本拠地移転年度またはその後の課税年度において、二重課税の排除のために、片務的税額控除を享受することができる。
– 対象となる課税年度における実際の所得または利益の額は、特定所得(関連所得)を超えてはならない。また、当該課税年度における税額控除の額は、納付された特定税額と関連所得に係る利得税額のいずれか低い方に上限が設定される。
– 税額控除の限度額を超える特定税額は、当該課税年度における本拠地移転した会社の課税所得の算定において所得控除が認められる場合がある。
例1
A社は設立地(税管轄区域A)で事業を営んでおり、香港への本店移転前に、売買目的で100万ドルの金融商品を取得した。
本店移転日現在、当該金融商品は未売却のままで、本店移転日時点で110万ドルと評価されており、A社は未実現利益10万ドルに対し、税管轄区域Aの法人所得税を20%の税率で課せられた。税管轄区域Aの法人所得税は、香港の法人利得税と実質的に同じ性質を有する。
香港への本店移転後、A社は本店移転年度(1年目)に、同一の金融商品を120万ドルで売却した。
A社が1年目に金融商品の処分から得た実際の利益は20万ドルであるが、A社に認められる税額控除額の算定における関連所得の額は10万ドルが上限となる。
A社に1年目に認められる税額控除額は、以下のとおりである:
(a) 納付済みの特定税額: 100,000ドル × 20% = 20,000ドル
(b) 納付すべき利得税額: 100,000ドル × 16.5% = 16,500ドル
税額控除額の上限は16,500ドルとなる。
超過額の3,500ドル(20,000ドル - 16,500ドル)は、A社の1年目の課税所得を算定する際に控除することが可能である。
例2
例1と同じ前提で、A社は移転年度(1年目)に当該金融商品の60%を70万ドルで売却し、残りの株式持分を翌課税年度(2年目)にそれぞれ60万ドルで売却した。
関連所得の額:
1年目
(a) 特定所得額: (1,100,000ドル - 1,000,000ドル) × 60% = 60,000ドル
(b) 実際の利益: 700,000ドル - (1,000,000ドル × 60%) = 100,000ドル
関連所得額の上限は60,000ドルとなる。
2年目
(a) 特定所得額: (1,100,000ドル - 1,000,000ドル) × 40% = 40,000ドル
(b) 実際の利益: 600,000ドル - (1,000,000ドル × 40%) = 200,000ドル
関連所得額の上限は40,000ドルとなる。
A社に認められる税額控除額:
1年目
(a) 納付済みの特定税額: 60,000ドル × 20% = 12,000ドル
(b) 納付すべき利得税額: 60,000ドル × 16.5% = 9,900ドル
税額控除額の上限は$9,900となる。
超過額2,100ドル(12,000ドル – 9,900ドル)は、会社Aの1年目の課税所得の算定において控除可能である。
2年目
(a) 納付済みの特定税額: 40,000ドル × 20% = 8,000ドル
(b) 納付すべき利得税額: 40,000ドル × 16.5% = 6,600ドル
税額控除額の上限は6,600ドルとなる。
超過額1,400ドル(8,000ドル – 6,600ドル)は、会社Aの2年目の課税所得の算定において控除である。
原文:Company Re-domiciliation Regime、2025年5月23日再更新
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