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[実務入門] (17) 長期前払費用

前回は、棚卸資産のポイントについて説明しました。今回は長期前払費用のポイントを説明したいと思います。

(1) 長期前払費用とは

長期前払費用とは、会社がすでに支出したが償却期間が1年を超える費用のことをいいます。費用と収益を対応させるという観点から、支出した費用を一会計期間の費用とせずに、翌期以降に繰り延べて収益と対応させる形で費用化していきます。そのため、支出時はいったん資産として全額計上され、受益期間内に均等償却することになります。以下においては、長期前払費用として計上されるもので、特に重要となる開業準備に関する費用・固定資産の改良支出・オペレーティングリースにより借り入れた固定資産の改良について取り上げます。

本記事は、現在NNA.ASIAで連載中の「ここに注目!中国会計・税務実務入門」を転載したものです。

(2) 開業準備に関する費用

開業費とは、設立の批准取得から生産経営開始までに発生した費用で、具体的には、人件費・事務経費・出張旅費など(固定資産の購入・建設を除く)のことをいいます。開業費は、旧会計基準・新会計基準(注)・税務上の取り扱いが異なるので注意が必要です。

まず、旧会計基準においては、いったん長期前払費用に集計し、会社が生産を開始した月の損益に一括して管理費用として計上することになります。ここで、いつの時点をもって生産を開始したかを判断する必要がありますが、実務上は最初のインボイスを発行した時点を生産と開始とみなします。

一方、新会計基準においては、実際発生時に管理費用として計上します。よって、長期前払費用勘定は使用しません。

また、開業費の税務上の取り扱いですが、実務上は、生産開始の日に年度に一括償却しているのが、一般的です。また、長期前払費用として3年以上にわたり償却することも可能です。ただし、一度処理方法を選択したら変更できないので注意が必要です。

(3) 固定資産の改良支出

固定資産の改良支出とは、家屋、構築物の構造の変更、使用年数の延長等のために発生する支出のことをいいます。改良支出は、通常、会計上・税務上ともに、固定資産の帳簿価額に算入し、固定資産の耐用年数が延長された場合には、減価償却耐用年数を適切に延長し償却していくこととなります。

ただし、既に減価償却済みの固定資産の改良支出については、税務上、長期前払費用として、見積耐用年数に基づいて償却していくことになります。一方、会計上は、既に減価償却済みの固定資産の改良支出についての詳細な規定がないですが、固定資産の帳簿価額に算入し、見積耐用年数に基づいて償却していくのが一般的です。

(4) オペレーティングリースにより借り入れた固定資産の改良

旧会計基準においては、別途、リース固定資産改良勘定を設けて、契約に約定された残存リース期間とリース資産の残存耐用年数のいずれか短い方で、償却していくことになります。
一方、新会計基準・税務上においては、長期前払費用として契約に約定された残存リース期間に基づき償却します。

(注)現在、中国では2種類の会計制度が併存しています。2000年に制定された「企業会計制度」(旧会計基準)と2006年に制定された「企業会計準則」(新会計基準)です。新会計基準については、中国において上場している会社にとっては強制適用となっていますが、その他の会社は適用が推奨されるにとどまっています。よって、日本企業の現地法人は、旧会計基準・新会計基準のうち、どちらか一方を適用することになります。

以上、長期前払費用の扱いは、旧会計基準・新会計基準・税務上で取り扱いが若干違ってきますので、会計処理マニュアルにおいて、方針・処理方法を明確に定めておく必要があります。