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[実務入門] (11) 個人所得税法修正案 (草案)

4月20日、全国人民代表大会常務委員会にて、個人所得税法修正案に関する審議が行われ、「中華人民共和国個人所得税法修正案(草案)」(以下、草案と略)および草案の説明が公布されました。

低中所得者の税負担は軽減し、高所得者の税負担が重くなる内容となっており、外国籍従業員も含め影響は少なくありません。この草案に対する意見公募を、5月31 日まで、全国人民代表大会のホームページ(www.npc.gov.cn)と郵便にて受け付けており、その後調整を経て正式公布される見込みです。

修正案は次の通りです。
本記事は、現在NNA.ASIAで連載中の「ここに注目!中国会計・税務実務入門」を転載したものです。

(1)基礎控除額を3,000 元に増額

給与・賃金所得につき、課税所得額を求める際に毎月の給与額から控除する基礎控除額を、現行の2,000元から3,000 元に変更する。
基礎控除額はこれまで、2006 年1月1日にそれまでの800 元から1,600 元に、2008 年3月1日には2,000元に増額されていました。生活に必要な基本的な支出額に相当する収入については納税を不要とする原則から基礎控除額が設けられていますが、国家統計局の資料による2010年度の都市生活者の消費支出額や、今後の消費性支出の予想増加率などを基に、基礎控除額を月額3,000 元としています。
なお、外国籍人員の基礎控除額については言及されておらず、現在の4,800 元の基礎控除額が変更されるかについては分かりません。

(2)累進課税を9段階から7段階に

給与・賃金所得の累進課税につき、現行9段階としている課税所得額の範囲を7段階とし、15%と40%の税率区分をなくしている。
表1は、給与・賃金所得の税率表につき、現行と草案を比較したものです(草案の速算控除額は筆者が推算したもの)。この表からも分かるように、低中所得者の税負担が軽減され、高所得者の税負担が重くなるような修正案となっています。例えば、総支給額が6,000元の中国人従業員と、総支給額が5万元の外国籍従業員では、納税額が次のようになります(個人が負担した社会保険費用などは考慮しておらず、外国籍従業員の基礎控除額は現行の4,800 元として計算しています)。
 ・総支給額が6,000 元の中国人従業員の個人所得税額
 (現行) (6,000 元-2,000 元)×15%-125 元= 475 元
 (草案) (6,000 元-3,000 元)×10%-75 元= 225 元
 ・総支給額が5万元の外国籍従業員の個人所得税額
 (現行) (5万元-4,800 元)×30%-3,375 元=1万185 元
 (草案)(5万元-4,800 元)×30%-2,725 元=1万835 元

(3)申告納税期限を翌月15 日に

現行の個人所得税法では、源泉徴収義務者および納税者の申告納税期限は翌月7日までとされていますが、草案ではこれを翌月15 日までとしています。これは、他の税目である企業所得税、増値税、営業税の通常の申告納税期限が翌月15 日となっていることに合わせたものです。

(4)その他1部の所得の税負担を軽減

 個人事業者の生産・経営所得と請負経営・リース請負経営所得の2つの所得に関し、現行の累進税率である5%から35%の税率区分は変更せず、各税率区分の課税所得額を引き上げることにより、全体的に税負担が軽減される修正案となっています。