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[全訳] 従業員福利費の財務管理政策に関する記者質疑応答

財政部企業司の関係責任者による企業従業員福利費の財務管理政策に関する記者質疑応答(原文

2009年11月12日、財政部は≪企業における従業員福利費の財務管理を強化することに関する通知≫(財企[2009]242号、以下、≪通知≫とする)を公布した。先日、財政部企業司の責任者が記者の質問に対して回答を行った。

目次

質問:《通知》を公布した背景は主として何か。

回答:企業が一律に低賃金方式を実施していた計画経済期には、各種の福利厚生を設けることで低賃金を補っていた。賃金総額に対する一定の比率での従業員福利費の拠出は、賃金総額管理制度と並行して古くから実施している分配方式であった。経済体制の改革の深化につれて、社会保障・公的扶助の欠如と「低賃金」を背景として確立されたこのような「高福利」方式は、わが国の企業改革の進展による需要の変化に合致しなくなってきた。そのため、2006年に新たに改訂した≪企業財務通則≫(財政部令41号)からは従業員福利費の拠出額の基準に関する政策を削除し、実情に応じて支出を行うように改めた。現在、従業員福利費の財務管理に関する問題点は主に下記の2点である。

  1. 従業員福利費と賃金その他の原価費用とが明確に区分されていない。従業員福利費支出の範囲と基準を恣意的に調整している企業もある。人件費の無秩序な増加により国家の税基盤や出資者の利益が損なわれている場合もあれば、支出の不当な削減により従業員の利益が侵害されている場合もある。
  2. 一部の企業による不合理的な従業員福利費支出は、社会全体の収入格差の拡大を招いた。2008年の全国の国有企業の財務決算によると、中央の企業の1人当たりの平均福利費支出額は3,387元で、賃金総額に占める割合は7%となっている。そのうち支出が最も大きい企業では1人当たり支出額が4.46万元、賃金総額に占める割合が26%であるのに対して、支出が最も小さい企業では1人当たり支出額が149元、賃金総額に占める割合が0.6%となっている。

従業員福利費は人件費の重要な構成部分であり、国家、企業、個人の間での利益分配に直接関係してくる。従業員福利費の財務管理について規範を設け、収入分配を正常に保ち、各者の利益を保全しなければならない。

質問:≪通知≫が示す従業員福利費制度改革の方向性はどのようなものか。

回答:≪企業財務通則≫により従業員福利費制度を実質的に改革していく上で、≪通知≫は改革の方向性を明確にした。

  1. 従業員の総収入に占める従業員福利費の比率をコントロールする。賃金給与と比較すると、福利厚生は従業員の労働に対する補償の補助形式であるといえる。企業は、過去の一般的な水準に照らして、従業員の総収入に占める従業員福利費の比率を合理的にコントロールし、福利性の収入が無秩序に増大することによって社会の労働力の真のコストと市場価格(すなわち賃金)をゆがめてはならない。
  2. 市場化によって従業員福利厚生問題を解決する。国有企業の社会的な負担を軽減し、市場において独立の主体たらしめるために、わが国は近年、企業内の主要・補助部門の分離、社会的職能の分離を推進している。集団的な福利職能を担っている企業は、内部の福利部門の分離を進め、市場化方式によって福利厚生問題を解決しなければならない。
  3. 従業員福利費を賃金給与の総額管理に組み込む。企業は賃金給与制度の改革に結びつけて人件費管理制度を整備し、従業員福利費を賃金給与総額へ組み入れて管理しなければならない。

質問:従業員福利費の支出範囲はどのようになるのか。

回答:人件費は、賃金(年給、賞与、手当、賃金総額へ入れて管理される補助金を含む)と福利の2つに大別される。このうち、福利は企業による従業員の労働に対する補償の補助形式であり、賃金との関係によってさらに2種類に分けることができる。一つは、賃金に一定の比率を乗じた金額を納付・拠出する社会保険費、住宅積立金、補充養老保険費(企業年金)、補充医療保険費、従業員教育経費である。もう一つは、賃金とは比例しない福利費であり、≪通知≫で規定する従業員福利費はこちらに該当する。具体的には、従業員に支給し、または従業員のために支払う以下の現金手当と非貨幣性集団福利を指す。

  1. 従業員の保健衛生・生活等のために支給し、または支払う各種の現金補助と非貨幣性福利(出張先での医療費、従業員の療養費、食堂経費補助または統一的に支給する昼食補助、関連規定に合致する暖房手当、高温手当等)
  2. 企業から未分離の内部の福利部門で発生した設備・施設の減価償却費、維持補修費用、人件費
  3. 従業員の困難補助金、または企業が統括管理する困難救済のための基金への支出
  4. 退職者への年金計画外の費用
  5. 規定により支出するその他の従業員福利費(葬儀補助費、弔慰費、赴任手当・一人っ子手当、帰省費、従業員福利費の定義に合致するが≪通知≫の各条項に含まれていないその他の支出)

質問:従業員福利費の支出範囲に関する≪通知≫の規定では、以前の財務規定と比較して何が変更されたか。

回答:従業員福利費の支出範囲に関する≪通知≫の規定では、以前の財務規定から主に以下の5点が変更されている。

  1. 従業員の基本医療保険費、補充医療保険費、補充養老保険費は、既に賃金総額の一定の比率により納付・拠出されているため、原価費用へ直接計上することとし、従業員福利費として管理しない。
  2. 福利費の支出範囲に属するその他の項目(従業員の出張先での医療費用、医療計画のない企業の従業員医療費用、従業員扶養直系親族への医療補助、弔慰費、赴任手当、一人っ子手当、帰省費、従業員の困難補助金、福利部門人件費等)は、引き続き従業員福利費として管理する。
  3. 退職者の年金計画外の費用、従業員の療養費、冷房費、企業から未分離の内部の福利部門の設備・施設の減価償却費・維持補修費用、関連規定に合致する暖房手当は従業員福利費の範囲へ含める。
  4. 企業が負担する交通、住宅、通信に係る費用について、以前は従業員福利費の範囲に含めるかを明確に規定していなかったが、≪通知≫の公布後に貨幣化改革(毎月の住宅手当、交通手当、通信手当の支給への切り替え)を実施している場合には「各種手当・補助金」として賃金総額に算入して管理することを明確にした。貨幣化改革を実施していない場合には関連する支出を従業員福利費に含めて管理する。
  5. 企業が従業員に支給する節句手当、食事提供の代わりに毎月支給する昼食手当を賃金総額に算入して管理することを明確にした。

質問:企業が従業員に各種の商品券を配布する行為に対しては何度も禁止命令が出ているが、いっこうに止まない。≪通知≫では、商品券の配布についてどう考えるか。

回答:従業員福利費は「従業員に支給し、または従業員のために支払う現金手当と非貨幣性集団福利」であると明確に定義した。≪通知≫は従業員福利費の各項目を列挙しているが、全てを列挙しているわけではない。従って、≪通知≫の規定に基づき、「従業員福利費の定義に合致するが本通知の各条項に含まれていないその他の支出」も従業員福利費に含めて管理しなければならない。

質問:≪通知≫の規定に従えば、企業が従業員に支給する交通、住宅、通信手当はどう管理すべきか。どのような問題を注意すべきか。

回答:企業が負担する交通、住宅、通信に係る費用について、貨幣化改革を実施した場合には、毎月の交通手当や車輌手当、住宅手当、通信手当は、労働コストに係る「普恵制」(一定の基準に従って定期的に補償を行う仕組み)を形成し、賃金の性質を有しているため、直接支給するか精算の形で支払うかを問わず、賃金総額に算入し、従業員福利費に含めずに管理しなければならない。これは国家統計局が定める賃金総額の構成に関する規定にも合致している。
貨幣化改革を実施していない場合には、企業が負担する交通、住宅、通信に係る支出、例えば通勤バスや寮等に係る費用は、従業員福利費として管理する。ただし、以下の点について注意する。

  1. ≪企業財務通則≫第46条と企業住宅制度改革政策に関する国家の統一規定に基づき、企業は従業員のために住宅の購入・建設、不動産管理費の支払を行ってはならない。
  2. ≪企業財務通則≫第46条規定に基づき、従業員個人の娯楽、フィットネス、観光旅行、招待、買物、贈与等による支出は、企業が負担してはならない。
  3. 企業の営業活動や管理活動において発生する日時や金額が一定でない実費精算の市内交通等の費用は、賃金の性質を備えず、従業員福利費にも属さないため、従来の規定に従い原価(費用)として計上する。

質問:≪通知≫の公布後、交通、住宅、通信手当が賃金に計上されることになった場合、企業または従業員の税金負担は増加するのか。

回答:≪通知≫では、交通、住宅、通信手当について、賃金総額と従業員福利費のいずれかに算入すると規定しているが、これは企業財務に関する規則であって、徴税政策ではなく、企業または従業員個人の所得税について規定するものではない。所得税の納付については税法規に従う必要がある。

質問:≪通知≫は、なぜ退職者の年金計画外の費用を従業員福利費の支出範囲に含めたのか。また企業の再編に当たっては、退職者の年金計画外の費用に関する財務管理について何か特別な要求はあるのか。

回答:退職者の年金計画外の費用は退職者の医療費その他の年金計画外の費用を含む。退職者は企業に役務を提供することはなくても、社会保障制度の下で保障を受ける必要はあるが、わが国の社会保障の水準は未だ低い。企業が支払う年金計画外の費用は実質的には福利費の延べ払いであるため、正常な状況の下で、企業が退職者に支払う年金計画外の費用は、従業員福利費へ含めて管理しなければならない。
企業再編時には、退職者の年金計画外の費用は、≪企業再編による従業員配置費用の財務管理問題に関する財政部の通知≫(財企[2009]117号)に従って処理する。特別な要求は主に以下の点である。

  1. 再編前の企業純資産から退職者の年金計画外の費用を拠出して未払計上する。人員管理責任を承継する再編後の企業が退職者の年金計画外の費用を支払う際には、未払費用を減額し、従業員福利費は計上しない。
  2. 会社分割によって退職者の管理を存続企業または親会社へ移管し、未払計上した年金計画外の費用を貨幣により管理企業に支払い、管理企業により退職者の年金計画外の費用の支払が行われる場合、管理企業は専用の勘定を設けて支出を行い、従業員福利費には計上しない。
  3. 企業が財政部財企[2009]117号の施行前に再編を完了し、再編後の企業が退職者の管理を親会社へ移管したが、相当の資金を未払計上により積み立てなかった場合、再編後の企業が定期的に親会社へ納める費用は、従業員福利費に含める。親会社が支払を代行した退職者の年金計画外の費用は、親会社の従業員福利費には含めない

質問:≪通知≫は、企業責任者に対する福利性貨幣手当と公益企業が自社の製品とサービスを福利厚生として利用することについて、政策上どのように考えているのか。

回答:この2つの問題に関する財務規定は、収入分配の秩序の規範化に対する社会の関心に応え、収入分配の調整により公平な社会の実現を図るという財政部の職責を体現するものである。

≪通知≫の要求に基づき、年俸制等に移行した企業責任者については、国家規定に合致する各種の福利性貨幣手当は賃金体系の下で統一管理し、支払に当たってはその個人の未払賃金を減額する。年俸制実施後の企業責任者が受け取る報酬は、管理者としての貢献度や業務量、福利厚生等の要素が全て考慮されている。すなわち福利性貨幣手当はすでに年俸に含まれているため、別途支給してはならない。

≪通知≫の規定に基づき、国が出資する通信、電力、交通、熱エネルギー、水道、ガス等の企業は、自社の製品やサービスを従業員の福利として提供する場合、商業化原則に従って公平な取引を実行しなければならず、従業員及びその親族に無料または低価格で直接供給してはならない。これらの製品やサービスは生活必需品であり、福利厚生として従業員に現物支給するという行為自体は禁止しない。しかし商業化原則に従わずに取引を行わず、従業員及びその親族に無料または低価格で供給すると、内部の従業員と一般大衆との間に不平等を生んでしまう。また交通、熱エネルギー、水道等の公益企業は国家財政から補助を受ける必要があることから、福利厚生として従業員に支給する製品やサービスを一般大衆に販売する製品やサービスと区別して扱うと、財政負担を不当に増大させてしまう。従って、従業員への本企業の製品やサービスの支給については、市場価格によって営業収入と福利費を計算しなければならない。

質問:企業従業員福利費の財務管理は何の原則と要求を遵守すべきか。

回答:≪通知≫第6条では、従業員福利費の財務管理が遵守すべき原則と要求を明確にしている。

  1. 制度の健全性の確保。新しい≪企業財務通則≫を主体とする企業財務制度体系は、利害関係者の利益の保全と企業の財務行為の規範化を趣旨としている。それゆえ≪通知≫では従業員福利費の支出項目の具体的な基準を定めず、企業が国家の要求に従って具体的な管理制度を制定するように要求し、従業員福利費の支出項目、基準、決裁手順、監査監督を明確にしている。関連する制度の制定に当たっては、法律と定款の規定に従い株主総会または董事会の承認が必要である。
  2. 合理的な基準の制定。法に従業員福利費の支出について明確な規定がある場合、企業はそれを執行する。法に明確な規定がなく企業が自ら定める必要がある場合は、所在地の物価水準、従業員の収入の状況、企業の財務状況等を勘案して、福利厚生の各項目について合理的な基準を定めなければならない。
  3. 科学的な管理。予算は原価を有効にコントロールするための財務管理上の手段である。企業は従業員福利費の支出の計画に対して、予算統制と管理を実施しなければならない。従業員福利費の予算は、従業員代表大会において審議した後に財務予算に計上し、規定に従って承認し、かつ従業員に対して関連する情報を公開する。
  4. 規範的な会計処理。発生した従業員福利費は≪企業会計準則≫等の関連規定に従って会計処理を行い、支出項目と金額を正確に記録し、年度の財務会計報告において開示しなければならない。

質問:企業はいつから≪通知≫を執行すればよいのか。賃金総額、従業員福利費の算定基準が変化し、その他の管理要求と合致しなくなった場合にはどのように処理するのか。

回答:≪通知≫は公布日から施行し、遡及はしない。2009年10月末までに支出した賃金と福利費は≪通知≫に従って調整する必要はない。2009年11月からは≪通知≫を厳格に執行し、従業員福利費の財務管理を規範化させなければならない。

貨幣化福利手当の賃金総額への算入により、従業員福利費の支出内容の調整は必要になるが、企業が負担する人件費コストの総量は変化しない。現在、国有企業の多くは賃金総額を利益に連動させているため、賃金総額の算定基準を財務規定と整合させる必要がある。≪通知≫は2009年度の途中で施行するため、施行前に確定していた賃金総額やその他の財務指標に影響がある場合には、財務諸表注記や管理書類において説明を加えることができる。