中国 粤港澳大湾区

中国・横琴粤澳深度合作区の多機能自由貿易口座について

中国の外貨管理制度は資本取引と経常取引に分けて厳格に管理が行われており、中国の現地法人にとり外貨の入送金にはとかく制限が多いのが現状ですが、上海等の自由貿易試験区では自由貿易口座(Free Trade Account)の導入が先行されていました。広東省ではまだあまりなじみがないのですが、南沙及び横琴では2019年から試行開始されていたものです。今回、中国人民銀行広東省分行より《横琴澳粤深度合作区の多機能自由貿易口座業務管理弁法》が発布されており、2024年5月6日施行とのことなので、以下に簡単に紹介します。

1.適用範囲

横琴澳粤深度合作区(以下、“合作区”と称する)の銀行が展開する多機能自由貿易口座取扱業務に当該弁法を適用。多機能自由貿易口座取扱業務とは、ハイレベルの貿易投資自由化・利便化ニーズに適応して、条件を満たす経営主体に提供する越境資金決済、為替、投融資等の金融サービスを指す。

2.多機能自由貿易口座とは

銀行が多機能自由貿易帳簿分別計算取扱業務規則に基づき取引を提供する人民元・外貨一本化口座である。現金業務は原則的に取り扱うことができない。多機能自由貿易口座は、従前に展開されていた自由貿易口座の更新版であり、銀行は顧客のニーズに従って多機能自由貿易口座を開設できるが、元の自由貿易口座がある場合、これを保留することはできない。

3.口座の種類

合作区銀行は、条件を満たす経営主体に多機能自由貿易口座を開設し、口座番号の前に以下4種の標識による区別を行う。

(1)EFE:(区内機構:合作区内の企業、事業単位、社会団体、その他組織)

EFE口座の区内機構は以下の条件を満たすものとする。

①合作区登記設立後半年(含む)以上

②クロスボーダー人民元業務の重点監督管理リスト対象ではない。

③貨物貿易外貨収支企業名簿等級がB類或いはC類ではない。

④直近3年間に重大な違法・違反行為が無い。

⑤その他

目下のところ対象企業は貿易等の業務がある、経営・人員・財務などの実態がある企業で経営状態が安定しており、クロスボーダー決済の合法性要求を満たすことができる企業で、経営範囲が研究開発、ハイエンド製造業、中医薬等マカオブランド工業、文化・観光・展示会・商業領域、現代金融産業等の合作区の誘致産業には口座開設条件を適宜緩和できるとされている。

(2)EFN:(香港・マカオ・台湾を含む、国外で合法に登記設立した法人及びその他組織)

EFN口座を開設する国外機構は以下の条件を満たすものとする。

①登記設立して1年(含む)以上

②マネーロンダリング或いはテロ融資高リスクの国家と地域、或いは賭博等業種の機構は個別に身分識別措置を採る。

③マカオ登記設立法人及びその他組織、中資“走出去”(中国資本の国外投資)企業及び、”一帯一路“プロジェクト関連国外企業の登記後年数は適宜緩和できるとされている。

(3) EFF: (国外個人=国外身分証を有する自然人)

EFF口座を開設する国外個人は以下の条件を満たすものとする。

①合作区において学習、就業、生活する非居住者個人。

②連合国安全保障理事会の制裁リストに記載がない。

③マネーロンダリング及びテロ融資高リスク国家或いは地域の国外個人に対してはデューデリジェンス強化措置を採る。

目下のところEFF口座を開設する国外個人は原則として香港・マカオ個人、国外ハイエンド人材と不足人材認定対象者となっており、業務の展開情況に応じてリスク統制の下、次第に範囲を拡大するとしている。

(4) EFU (同業種の区内及び国外金融機構)

EFU口座開設の対象は、国外金融機構或いはその他の、帳簿分別計算条件を満たす国内金融機構。

4.取扱業務

①国外口座、OSA口座(Offshore Account オフショア口座。中国の非居住者口座経営主体が人民銀行・外貨管理局の許可を経て国外に開設した口座)、NRA口座(NRA口座:Non-Resident Account 非居住者口座。国外企業の中国国内開設口座)、他の多機能自由貿易口座との取引は請求証憑に基づき、自由に入送金できる。口座の経営主体は取引の真実性と合法性の承諾を行う。

②国内居住者決済口座との間の取引は越境取引として管理、人民元を使用するものとし、銀行より真実性の審査を行う。

③EFE口座と国外口座との間の証券投資以外の資本取引について、投注差外債、マクロプルーデンス融資、国外預金限度額等の審査制限を受けず、外貨管理部門の事前業務登記、備案或いは専用口座の開設は不要とする。

④国外投資については合作区銀行機構は定期的に実行中・実行後の抜取調査で企業の国外投資備案手続きを確認する。

⑤5万米ドル以上のサービス貿易について、初回・二回目の対外支払時、合作区銀行は《サービス貿易対外支払税務備案表》の事後確認を行う。

⑥EFE口座と国内居住者で異なる名義の決済口座との間の取引は、税関が輸出入として見なす貨物貿易資金決済に限られる。合作区銀行は顧客のリスク情況に応じて適宜手続き手順を簡素化することができる。上述の取引を除き、区内機構と国内区外機構・個人との間の取引は、国内決済口座を用いて行うものとし、EFE口座を用いてはならない。

⑦EFF口座は国外個人の賃金報酬、医療、旅行等の資金決済をEFF口座と国外口座或いは合作区口座との間で行うことができ、請求証憑に基づく送金指示により取扱、人民元で決済するものとする。