
中国
組織再編
中国・組織再編の実務
中国各地に進出した日系企業が、拠点の整理統合について検討することが多くなっている。実務上の各ポイントについて以下に紹介する。
目次
1.組織再編が進む背景
中国経済の減速が続くなか、中国に進出している日系企業の黒字割合低下傾向が進んでいると言われている。また、中国の外貨管理局による統計でも、資本の流出が流入を上回る、対中投資フローがマイナスになる状況が続いている。このような環境の中で、日系企業の中国事業展開では、拡大意向が2割ほどある一方、現状維持が6割、縮小2割弱というアンケート結果がある。コロナ禍以降、外部環境の不透明感が増す中、現状維持・縮小の場合のいずれも、コスト削減、組織や拠点の整理統合、資本の増減や変更、事業内容の見直しを進めることにより、事業活動をより慎重に、確実に進めていく動きが見られる。
2.広東省における事業再編・組織再編関連のご相談事項
2020年代に入り広東省の周辺で日系企業からご相談のある以下のいくつかのケースについて紹介する。
2.1 複数の製造拠点の統合
日本企業の中には、元は珠江デルタ、今は大湾区の各都市に複数の製造拠点があることもよく見受けられる。香港会社からの投資で出張・商流・管理には便利に機能してきた。昨今では、事業内容により競争激化や需要減少で事業業績が悪化した拠点や、商流の変化で東南アジア拠点に生産ラインが移管されるなどにより、2拠点を1拠点に統合するケースがある。その場合、主に次の2つの方法が検討される。
(1) 資産譲渡、人員の移管等をして、一方を抹消する
2拠点のうち、資産や経営資源のより多い方を継続させ、そうではない拠点の固定資産、棚卸資産、人員、商流等を移管した後に抹消する。人員の移管については労働契約名義、労働条件が変わるため、法的には経済補償金の支払い対象となる。移管後の会社の資産負債処理後、会社登記抹消手続きを進めることになる。継続企業には行政手続きは特に発生しない。
(2) 吸収合併する
2拠点のうち、資産や経営資源の多い方を存続企業としてもう一方を吸収合併する。被合併企業の資産売却は(1)と同様に行う。人員の移管に対し、吸収合併事由となり、労働条件に変更がなければ労働契約は形式的な変更であり、経済補償金を支払わないことが法的には支持される。吸収合併の行政手続きはまず被吸収側の資産負債処理後、吸収合併のための抹消を行い、抹消後に、吸収側の登記変更手続きを行う。被吸収側の事業活動が抹消手続きにより中断されないよう、商流は先に移管しておく必要がある。
2.2 製造拠点が製造活動を止め、貿易会社となる。
製造事業活動が、工場家賃や人件費の高騰等により不採算化したものの、顧客への対応は維持する必要があるといった状況により、製造活動を第三者に委託し、自社は製造業から貿易業に転換するというケースがある。会社登記上、製造の経営範囲を消去、場合によっては名称に「貿易」等の職種表記を加筆する。
製造リスクやマネジメントコストの削減につながる一方、製造輸出から貿易輸出への変更は増値税還付申請ハードルが高くなるため注意が必要である。製造の輸出還付は「免除・控除・還付」であり、仕入税額は控除可、控除しきれない部分は還付か次月以降への留保となっているが、貿易の輸出還付は「免除・控除」で仕入税額に対する還付率で還付されるのであり、仕入貨物と輸出貨物が1対1で対応する必要があり、審査ハードルが高く、初回還付が中々実施されないケースが見受けられる。
また製造活動の移管が、実際には社内人員が独立して行うような場合に、製造経費を一部負担継続するような状況があるが、製造活動を自社から切り離す以上、製造関連経費を続けて負担することは税務リスクになる。
2.3 駐在員事務所から、現地法人への組織変更
中国の駐在員事務所は「外国企業常駐代表処」と呼ばれる。営業活動を行わず、連絡業務・現地情報収集のみが活動範囲として認められる。これまで中国国内の決済に関わる必要がなかった業務が、顧客/サプライヤーから人民元決済を求められ、組織を現地法人に変更することを検討するケースがある。代表処の特徴としては、現地スタッフを自ら雇用できず、FESCO(フェスコ、労務サービス会社)からの形式的な派遣契約により採用すること、外国籍社員は首席代表者、一般代表者として代表証取得しこれに基づきビザを申請すること、本社からの費用送金を受け、経費から割り戻して企業所得税を計算する経費課税が行われている点がある。現地法人への組織変更検討時、まずは中国拠点で可能となる商流を確認する必要がある。外貨管理が厳しいため、所謂三国間貿易という、貨物が中国に輸出入されることなく、外国企業から仕入れ、外国企業に販売するビジネスモデルは、中国の一部地域内(保税区等)に登記しないと認められないケースがあるため取扱銀行に確認が必要である。
スタッフの代表処から現地法人の移管に際し、たとえ労働条件に変更がないとしても、契約名義はFESCOから会社自身となり明確に異なることになり、経済補償金の支払い義務がないとは言えない。FESCOは派遣契約上の雇用者だとしても、一般的には経済補償金の負担者は使用者である旨が明記されている。
このほか現地法人が代表処と大きく異なる点は、費用送金ではなく資本金を注入して自ら売上入金すること、毎月個人所得税、社会保険や住宅積立金に加入の上月次で源泉徴収申告/納付すること、増値税システムを操作し発票発行し仕入控除すること、経費課税ではなく財務諸表の利益に対し企業所得税を申告納付すること、等である。
行政手続き上は代表処の組織変更という手続きは無いため、現地法人を設立後、経営資源を移管し、代表処登記を抹消するという手続きとなる。外国籍管理人員のビザも転職手続きに準じて現地法人に移管する必要がある。
2.4 分公司(支店)の税務
複数の現地法人拠点を統合する時、1か所を総公司として継続し、そのほかの拠点を分公司とすることがある。現地法人を直接分公司に変更する手続きは無いため、分公司を設立後、法人拠点を抹消するという手続きになる。
分公司の持てる機能としては法人としての機能とほぼ同様で、分公司による税関登記・外貨登記も可能なので独自の輸出入業務や対外決済業務も可能であるが、民事責任を負う主体となる法人格が無いということだけである。事業採算や事業リスクを一体としてもよい、例えば同じ製品を取り扱う貿易会社の上海拠点、深圳拠点 ということであれば分公司拠点が検討しやすい。
分公司は、経営範囲として一般的に総公司と同様の経営範囲を有することもでき(特殊ライセンスは通常拠点毎に申請が必要である)、一方、売上入金をせず(収入計上・発票発行をせず)連絡業務のみを経営範囲にすることもできる。このような違いを、経営性/非経営性と呼ぶこともあり、税務登記上も、独立採算/非独立採算 の区別がある。但し、物流事業等の場合、分公司登記する倉庫は恐らくその現地に源泉の所得があると考えられることから、収入計上を求められるケースがある。貨物販売に関しては、増値税上は貨物の省を超える移動は増値税が発生すると考えられるため、在庫を有する等の分公司は経営性として税務局より収入計上を求められるケースがある。
経営性分公司には、更に、企業所得税を総公司と分担納税するか、分公司が単体で独立して納税するかの選択があり、一体として合算納税する税務上のメリットを享受するためには分担納税が良いことになる。企業所得税の計算時、課税所得額を総公司50%、分公司50%で分担し、分公司が複数拠点ある場合は50%を売上・従業員給与額・資産規模の比率で分担額を算出して各総・分公司所在地で分担納税する。
総公司は毎年確定申告の頃に、新年度の分担状況について税務局への届け出を行い、総公司の届出を以て分公司の届出を提出することになる。