香港 予算案

香港・2022-23年度香港予算案

2022/23年度予算案で財政司長は、下記の税制措置を提案した。当該措置の全ては施行前に、関連法規の修正を必要としている。

  • 2021/22年度の利得税(法人・個人事業)、給与所得税及びパーソナル・アセスメントの税額の軽減
  • 2022-23年度の商業登記費の免除
  • 2022/23年度より住宅家賃所得控除を導入

当該法案及び実施内容のハイライトは下段に示されている通りである。よくある質問に対する回答(FAQ)及び当該措置が実施された場合に、上記の各項目が如何に納税義務者の給与所得税及びパーソナル・アセスメントの税額を軽減するかを示す例示も併せて提供されている(※ここでは各FAQ及び各例示の日本語版は割愛)。

当該措置が実施された場合の給与所得税並びにパーソナル・アセスメントの税額を計算したい方は、香港政府によって提供されている納税額自動計算プログラムを使用することが可能。

2021/22年度の利得税(法人・個人事業)、給与所得税及びパーソナル・アセスメントの税額を軽減

財政司長は、2021/22年度の利得税(法人・個人事業)、給与所得税及びパーソナル・アセスメントの税額に対し、当該税年度に限定して、10,000ドルを上限とする100%の減税措置を提案した。当該減税措置の実施に当たり、立法会での可決承認が必要となる。

利得税(法人・個人事業)に係る税額控除上限額は、事業単位毎に適用可能である。給与所得税に対する控除上限額は、納税義務者毎に適用可能であるが、夫婦で共同申告(ジョイント・アセスメント)を行う場合は、夫婦単位毎に適用される(すなわち、合計で10,000ドルの控除上限額)。パーソナル・アセスメントを適用する場合は、原則納税義務者毎に適用可能であるが、既婚者の場合は必ず夫婦揃って適用しなければならず、夫婦単位で10,000ドルを控除上限とする当該減税措置を享受することとなる。

当該減税措置は、資産所得税には適用されない。賃貸収入がある個人は、パーソナル・アセスメントを適用できる場合、パーソナル・アセスメントの下で当該減税措置を享受することができる。

給与所得税及び利得税(法人・個人事業)それぞれに課税される納税義務者(パーソナル・アセスメントを適用できない場合)は、それぞれの税金に対して当該減税措置を享受することができる。事業収入や賃料収入のある個人でパーソナル・アセスメントを適用できる場合、パーソナル・アセスメントの下で当該減税措置を享受することができる。当該ケースの場合、パーソナル・アセスメントを選択しない場合、享受しうる減税額とは異なる可能性がある。正確な減税額は、ケース毎に判断される。税務当局は、パーソナル・アセスメントの選択が納税額を減額できるかどうかをケース毎に確認し、最も有利な方法で納税義務者を査定する。

パーソナル・アセスメントの適用を希望する場合、納税義務者は、2021/22年度給与所得税申告書(BIR60)の項目7に記入しなければならない。事業収入もしくは賃料収入がなく、給与所得のみの個人は、パーソナル・アセスメントを選択する必要がない。

当該減税措置は、2021/22年度の税額査定における納税義務者の納税債務を軽減する予定。納税義務者は例年同様、2021/22年度利得税(法人・個人事業)申告書並びに給与所得税申告書を提出しなければならない。関連法案の成立後、香港税務当局は最終査定において当該減税措置を有効とする。当該法案の成立前に発行された2021/22年度の最終税額査定書に関して、香港税務局は当該法案の成立後に再度査定を実施する予定である。これに対し、納税義務者は特段申告や照会を税務当局にする必要はない。

当該減税措置は2021/22年度最終税額に対してのみ適用され、同年の予定納税額に対しては適用されない。従って、当該減税措置とは区分して、納税義務者は依然として予定納税額を期限通りに納付する必要がある。既に納付済みの予定納税額は、2021/22年度最終査定額及び2022/23年度予定納税査定額に対する納付に対して充当される。万が一、超過残額がある場合は還付されることとなる。

課税所得の累進税率の調整及び累進課税幅の増額(※前年度より変更無)

評価年度 以前(2017-18年度まで) 現行(2018-19年度以降)
課税所得純額
(累進幅)香港ドル
税率 課税所得純額
(累進幅)香港ドル
税率
第1段階 45,000 2% 50,000 2%
第2段階 45,000 7% 50,000 6%
第3段階 45,000 12% 50,000 10%
第4段階 50,000 14%
135,000 200,000
残額 17% 17%

人的及び所得控除各項目の増額(※従前の項目は前年度より変更無)

評価年度 以前(2017-18年度)香港ドル 現行(2018-19年度以降)香港ドル
人的控除
基礎控除(独身) 132,000 132,000
基礎控除(既婚者) 264,000 264,000
寡婦(夫)控除 132,000 132,000
子供扶養控除
第1子から第9子まで各一人当たり 100,000 120,000
誕生の年の増額 100,000 120,000
兄弟(姉妹)扶養控除 37,500 37,500
父母祖父母扶養控除
父母祖父母扶養控除(60歳以上及び60歳未満かつ障害者) 46,000 50,000
父母祖父母扶養控除
(55歳~59歳まで)
23,000 25,000
付加父母控除祖父母控除(年間を通じて納税者と同居している)
父母祖父母扶養控除(60歳以上及び60歳未満かつ障害者) 46,000 50,000
父母祖父母扶養控除
(55歳~59歳まで)
23,000 25,000
障害者扶養控除 75,000 75,000
自己障害者控除 75,000
所得控除
自己学習費用税額控除年間上限額 100,000 100,000
老人介護施設費用控除 92,000 100,000
住宅借入金利息控除年間上限額 100,000 100,000
MPF自己負担控除年間上限額 18,000 18,000
適格医療保険制度任意負担控除額(※2019-20年度より追加された項目) 8,000
適格繰延(据置)年金MPF任意負担控除額(※2019-20年度より追加された項目) 60,000
住宅家賃控除額(住宅不動産無所有が条件)(※2022-23年度より追加される予定) 100,000
寄附金控除=下限100~上限(課税所得総額-所得控除-減価償却費)×35%

生計面に関する一時優遇措置(※税制措置以外の予算案より抜粋)

2022/23年度については、①18歳以上の香港永住者に対する10,000ドルの電子消費券の支給、②課税対象となる個々の居住用不動産に課される不動産税額に対し、第1及び第2四半期に最大1,500ドル、残りの四半期に最大1,000ドル免除、③適格対象となる居住用不動産の電力口座所有者に対し、個々の口座当たり1,000ドルの電気料金補助金を交付、④公共交通費用補助計画(Public Transport Fare Subsidy Scheme)により、現在は公共交通機関の月額利用額400ドル以上を対象に月額400ドルを上限として返金補助を実施しているのに対し、2022年5月から10月の半年間、月額利用額200ドル以上を対象に月額500ドルを上限として返金補助、⑤総合社会保障援助(Comprehensive Social Security Assistance: CSSA)や高齢者手当(Old Age Allowance)、高齢者生活手当(Old Age Living Allowance)並びに障害者手当(Disability Allowance)などの各種社会保障給付額を半月分追加給付し、就労家族手当(Working Family Allowance)についても同様の措置が適用、⑥2023年度香港中等教育修了試験(Hong Kong Diploma of Secondary Education Examination: HKDSE)を受験する学生の受験料を政府予算から拠出、⑦借入期間を最長10年、元本返済期限は18ヶ月間で最大平均雇用収入の9倍かつ10万ドルまで、失業者に対する政府保証の低利ローンの実施、⑧優質教育基金(Quality Education Fund)の留保分から拠出する20億ドルで、貧困家庭の学生に対するe-learningを支援、⑨防疫抗疫基金の留保分66億ドルを通じて、30,000の臨時職を提供、などの措置が実施され、これらの他にも市民の生計を支援すべく、逐次政策を策定していく予定である。

経済面に関する一時優遇措置(※税制措置以外の予算案より抜粋)

2022/23年度に関しては、⑩特定業種の中小企業テナントによる賃料未納を理由に、オーナー側から賃貸借契約や関連サービスを打ち切ったり、法的措置をとることから、3ヶ月間から最大6ヶ月間テナントを保護する賃料滞納モラトリアム措置の提案、⑪課税対象となる個々の非居住不動産に課される不動産税額に対し、第1及び第2四半期に最大5,000ドル、残りの四半期に最大2,000ドルを免除、⑫前年度より継続して8ヶ月間、非居住用不動産の月額上下水道料金の75%を免除(一戸当たりの月額上限はそれぞれ20,000ドル及び12,500ドル)、⑬地政総署が管轄する商業及びコミュニティ用途の政府用地の短期借用、食物環境衛生署がリースする公設市場の出店場所、政府産業署によってリースされる飲食店及び小売店、海事処が管轄している公共の貨物積卸区域、並びに魚農自然護理署によって管理されている政府卸売市場における出店場所及び施設などに対し、継続して6ヶ月間75%(政府により閉鎖要求となる場合は100%)の賃料減額、⑭借入期間を最長10年、元本返済期限は再延長申請可能で、18ヶ月間の従業員給与及び家賃の金額まででかつ900万ドルが上限の、中小企業に対する政府100%保証の低利ローンの実施、⑮前々年度の予算案で提案されていた未来基金(Future Fund)の香港成長ポートフォリオ(Hong Kong Growth Portfolio)へ100億ドルを注入し、うち50億ドルは戦略的イノベーション科学技術基金(Strategic Tech Fund)の設立し、香港にとって具体的な戦略価値が見出せる科学技術企業や項目へ投資、残り50億ドルは広東・香港・マカオ・グレーターベイエリアへの投資機会を創出する大湾区投資基金(GBA Investment Fund)に充当、⑯旅行業界を支援及び発展させるため、12.6億ドルを追加拠出し、旅行商品の開発推進や従業員研修を促し、香港旅遊發展局(Hong Kong Tourism Board)へのサポート、⑰文化遺産保護を目的とした歴史建築共存計画(Built Heritage Conservation Fund)への10億ドルの拠出、⑱温暖化による気候変動による大型台風や大雨が降る確率が増加傾向にある現状に対して84億ドルを費やし、洪水耐性の向上を目指した排水システムの改善、⑲未来基金(Future Fund)で累積しているリターンのうち、北部都会区内の土地、住宅及び交通インフラの開発に1,000億ドルを充当、⑳建造業創新及び科技ファンド(Construction Innovation and Technology Fund)へ12億ドル投入、などの措置が実施され、これら以外にもデジタル化や環境関連などと連動した、住みよい都市を目指した幅広い優遇支援措置が取られる予定である。

その他の措置や一部増税(※個別に法改正や既に実施済み)

2022/23年度においては、環境問題に更に積極的に取組み、前年度発表された2035年までにガソリンなどの化石燃料車両による自家用車新規登録を停止する方針や前年度から開始している電気自動車(Electric Vehicles: EV)を含む自家用車の車両初回登録税の各累進課税幅における税率15%、車両免許料30%の引上げに続け、EV自宅充電補助金計画(EV-charging at Home Subsidy Scheme)へ15億ドル拠出し、居住用建物の駐車場へのEV向け充電ステーションの設置を支援する。その他、過年度に引続きインフレ連動型債券であるiBondの150億ドル発行や、元々65歳以上の申請要件が修正され、香港居住者で60歳以上の高齢者を対象とした銀色債券(Silver Bond)も350億ドルが発行される。さらに、前年度において発表された、向こう5年間の間で環境配慮型の事業に使途が限定された緑色債券(Green Bond)1,755億ドルの発行のうち、次年度中に100億ドル発行される。

2022-23年度の商業登記費の免除

財政司長は、2022-23年度の商業登記費を免除することを提案した。

2022-23年度より住宅家賃所得控除を導入

財務司長は、2022/23年度より、税制適格な住宅家賃支出に関して所得控除を可能とする措置を提案している。これにより、居住用不動産を所有していない、給与所得税もしくはパーソナル・アセスメントによる所得税の納付義務がある納税者は、本人もしくはテナントとしての配偶者によって支払われた家賃に対し、所得控除を享受することが可能となる。なお、当該控除額の上限は100,000ドルとなっている(※納税者(及び同居者であるその配偶者)が実際に居住していることと、印紙税納付済みの賃貸借契約書が要件となり、上述している他、会社が提供する社宅であったり、不動産ファイナンスリース契約物件である、または家主が家族や親戚兄弟などの関連当事者である場合は享受不可である)。

原文:IRD : 2022-23 Budget – Tax Measures