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ここ香港では、自由貿易港で規制が少なく、税務も簡単で何でもできる、というイメージが先行していますが、実はしばしば香港税務局(IRD, Inland Revenue Department)を相手取った裁判が繰り広げられており、その判例に従って、香港税務条例(IRO, Inland Revenue Ordinances)及び香港税務局解釈実務指針(DIPN, Departmental Interpretation and Practice Notes)は常に進化しています。

香港で税金というと、「源泉主義(Territorial Source Principle of Taxation)」という言葉を耳にされたことがあるかと思います。これは香港税務条例の基本原則で、「香港源泉所得、すなわち香港内で生じた、あるいは香港からもたらされた事業所得のみが香港にて課税対象となる」という概念で、実際どのように判断されるかは、それほど単純ではなく、中々難解なものもあります。2009年12月4日、前回の発行から実に11年半ぶりに更新されたDIPN21号「利益の源泉地(Locality of Profits)」及び最近のトレンドに沿って、「源泉主義」と付随する事象について解説していきたいと思います。


1. 来料加工(Contract Processing)と進料加工(Import Processing)の比較

来料加工とは、加工委託者である外国法人と加工請負者である中国企業(加工廠)の権利と責任を取り決めた委託加工契約のことで、外国法人は、無償で部材や機械設備並びに技術や経営及び生産管理ノウハウを提供(貸与)し、中国加工廠は、工場用地、水道光熱及び労働力を提供することで、加工賃を外国法人より受取る形態を指します。部材や製品の法的所有権は外国法人に帰属し、中国本土側では、部材輸入時の関税及び増値税の納税が留保されたまま加工及び製品輸出できるため、全量輸出することで全て免税となります。

DIPN21号によると、香港側では、来料加工委託当事者である香港法人が、中国加工廠で生産された製品を第三者へ販売したことによって発生する利益については、IRDが規定する一定の条件(中国加工廠との委託加工契約書、登記関連資料、税関関連資料及び中国加工廠における香港側従業員の関与状況の説明他)をクリアすれば、50:50オフショアクレーム(全体の利益の半分だけが香港源泉所得として認定)という特別な取扱いを受けることが可能と解釈されています。

一方進料加工とは、加工委託者である外国法人が、原材料輸入契約及び製品輸出契約に基づき、しばしば関係会社である中国本土側の加工請負者である外国投資企業(中国法人)に部材を輸出販売し、中国法人がその部材をもって生産した製品を、外国法人が買戻す形態を指します。つまり、外国法人は、部材の輸出と製品の輸入、及び製品を第三者へ販売するといった貿易業務に携わり、中国法人は、部材の輸入、製品の生産及び輸出に携わることとなり、売買取引が成立しているので、部材や製品の法的所有権は買い手に帰属します。中国本土側では、部材輸入時の関税の納税が留保されたまま加工及び製品輸出できるため、全量輸出することで関税は免税となりますが、増値税については、輸出製品の還付率が17%未満の場合に課されることとなります。

DIPN21号によると、香港側では、進料加工委託当事者である香港法人が、中国法人で生産された製品を第三者へ販売したことによって発生する利益については、たとえその中国法人が香港法人の関係会社であっても法的には別法人であり、100%香港を源泉地とした貿易取引による利益であると解釈されています。また、来料加工での特別な取扱いとは異なり、機械設備を中国本土側に提供(貸与)する場合、香港税務条例第39E条(1)(b)(i)の下、それに係る減価償却費は税務上否認されるので、中国法人の負担を考慮しつつ、リース料(中国本土側では源泉税発生、香港側ではオフショア所得として非課税処理可能)の回収を検討する必要があります。

上述した内容は、旧DIPN21号で譲歩策として11年半前に明示された、来料加工に対する50:50オフショアクレームに係る実務指針から様々な裁判、特にDatatronic Limitedの案件での判決を経て、確立されてきたものです。蛇足ですが、関係会社である場合、独立企業間価格(Arm’s Length)が保たれないケースがしばしばありますが、それが上述した進料加工の解釈に影響することはなく、この問題は二重課税防止協定(DTA, Double Tax Agreements)や移転価格税制に係るDIPN45号「移転価格もしくは利益再配分調整による二重課税の排除(Relief from Double Taxation due to Transfer Pricing or Profit Reallocation Adjustments)」及びDIPN46号「移転価格ガイドライン – 算定方法及び関連諸問題(Transfer Pricing Guidelines – Methodologies and Related Issues)」によって別途判断されることとなると考えられます。

2. 来料加工廠から独資転換する際の香港側での税務上の影響

昨今の大きなトピックスとして、来料加工廠からの独資転換があります。これについては、2011年6月30日を期限として、中国本土側で、税関監督期間中である無償貸与設備を移管する場合に、保税のまま移管できることが規定された税関総署公告等の優遇措置が随時公布されていますが、香港側ではどのような税務上のインパクトが考えられるでしょうか。

無償貸与設備を新設した独資法人へ現物出資または売却する際、香港法人は、該当する設備の取得時から現物出資までに税務上享受してきた減価償却費の金額を考慮する必要があります。香港では、IROでは明文化されていないものの、キャピタルゲイン/ロスという考え方があり、財務司司長や香港税務局局長も過去にあった税務質問への回答の中で明言していますが、いわゆるキャピタルネイチャー(資本的本質)に係る利益及び損失は、税務上各々益金不算入及び損金不算入という取扱いを受けることとなります。つまり、固定資産として計上し、税務上減価償却費を享受していることにより、独資法人へ現物出資または売却する金額が、その残存価額(減価償却後の金額)を超える場合、キャピタルネイチャーの原則に従い減価償却費の戻入れが発生し、その分課税所得が増加することとなる点に留意する必要があります。一定の条件をクリアすれば、取得原価を超える利益については、キャピタルゲインとして取扱いを受けることが可能ですが、税関総署公告では、保税移管のための減免税申告金額は、元の輸入通関価格を超えてはいけない旨を規定しているので、今回のケースでは考えにくいでしょう。

3. 来料加工廠から独資転換することによる香港法人への負担

2009年8月3日に開催された香港税務局と香港工業総会のセミナーでは、来料加工廠を法人化したため香港で追徴課税を受け、経営難に陥っていることが指摘されましたが、香港税務局側としては来料加工形態が満了した時点から進料加工形態での課税を行うはずであり、独資転換してから過去7年間も遡って進料加工形態とみなして追徴課税を行うことは考えにくく、元々から来料加工の条件を満たしていなかったためにそのような事象が発生しているものと考えられます。部材や機械設備の無償提供か有償提供だけが主な相違点とも考えられる来料加工と進料加工での税務上の取扱いの大きな違いについて、各職能団体や専門家から議論が発せられていますが、2010年1月13日の香港立法会における回答でも、来料加工と進料加工の概念は根本的に異なる旨が強調され、進料加工形態では、50:50オフショアクレームは適用されないことが明言されています。ここに香港特区政府が「源泉主義」を全うする意地を感じずにはいられません。

しかしながら、来料加工でも中国本土側で地方政府へ管理費用を支払う必要や、加工賃の送金時に20~30%の手数料徴収が発生、更には来料加工廠が恒久的施設(PE, Permanent Establishment)とみなされる可能性等、進料加工にはない負担の可能性があるため、来料加工の方が低税率だから絶対有利、というわけではありません。独資転換に係る投資額は大きいものの、長期間グループ連結で考えますと、課税所得の規模によっては、有利不利が変わってきますので、差し迫っている法人化の波にうまく乗れるよう、今こそ熟考されてみては如何でしょうか。

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