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[タックスヘイブン] (3) 最近の改正ー持株会社への適用除外要件の緩和と日港租税協定基本合意

前回テーマは平成22年度税制改正のトピックである「統括会社への適用除外要件の緩和」でした。前回執筆時点では、まだ法律案の段階でしたし、政令については案すらも出ていない状況でしたが、さる3月31日付で関連する法律と政令が正式に公布されています。ほぼ事前に予想されていた通りの改正でしたが、せっかくですから最終的に政令でどのように規定されたのかについて、復習も兼ねて再度きっちりみておきましょう。

政令で定義された「統括会社」の要件を要約すると以下のとおりです。

  • 統括会社は日本法人の完全子会社であること
  • 被統括会社は2つ以上あること
  • 統括会社は被統括会社に対して持株比率・議決権比率ともに25%以上を直接保有していること
  • 本店所在地国に事務所等の固定施設、役員以外の事業従事者を有すること
  • 年度末において被統括会社の株式簿価合計が、保有する株式全体の簿価合計の50%超であること
  • 統括業務とは、被統括会社との間における契約に基づき行う業務のうち、当該被統括会社の事業の方針の決定又は調整に係るもの(当該事業の遂行上欠くことのできないものに限る。)であって、一括して行うことにより被統括会社の収益性の向上に資することになると認められるもの

つまり、連結グループとしての収益最大化を目指して、ぶら下がる各関係会社それぞれに対して指示することを想定していますので、当然に統括会社の役員及び社員については高度な経営スキル及び社内的地位を要求されていることになります。この趣旨を十分に理解することが、「統括会社」の適用除外要件の充足のための一番の近道になると思われます。

また、ここでいう「統括会社」の条件を満たせば、主たる事業を株式の保有としても適用除外要件の一つである事業基準を満たすことができるようになったわけですが、今回の平成22年度税制改正ではそれだけではありません。物流会社としての統括会社についても適用除外要件を満たしやすくするための改正が行われているのです。

つまりどういうことかと言うと、統括会社といっても物流会社としての統括会社という形もあるわけです。例えば、上記のような要件を全て満たしたとしても、売上と利益の大半は子会社から仕入れて親会社に販売する、というような会社を想定して下さい。この場合、主たる事業は卸売業と判定される訳ですが、このような会社がタックスヘイブン国にあった場合、適用除外を受けるためには卸売業ですから非関連者基準を満たさなければなりませんが、仕入も売上も関連者ですので、事実上適用除外要件を満たすことは不可能です。

このようなケースにも適用除外要件を満たせるようにするために、非関連者基準の判定上、卸売業を主たる事業として営む統括会社が被統括会社との間で行う取引については、関連者取引に該当しないものとしたのです。

このように、香港法人を統括会社として使いやすくするための改正が平成22年度税制改正で行われた訳ですが、この法律及び政令の公布と同日付でさらに大きなニュースが飛びこんできました。日本と香港との間で租税協定が基本合意されたのです。

この意義についてはいろいろありますが、その解説については別の機会に譲るとして、ここではタックスヘイブン税制との関係で最も重要な点のみ言いますと、香港法人が日本法人を子会社化した場合、投資所得に関して軽減税率が設けられる、という点だと思います。簡単に言えば、香港法人の下に日本法人をぶら下げやすくなった、ということですから、今後は香港法人の統括会社化が加速することが予想されます。

このように従来よりも、香港もしくは中国への統括会社化は現実的な選択肢となってきましたので、この機会に是非検討してみてください。