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[タックスヘイブン] (1) タックスヘイブン対策税制の概要と最近の状況

最近会計業界では、タックスヘイブン対策税制の話題でもちきりです。というのも、平成21年度税制改正に続いて平成22年度税制改正でも、大きな改正が行われることが確実となったためです。

このタックスヘイブン対策税制は日本の税制ですが、日本人の関係している香港法人はタックスヘイブン対策税制の適用対象となるケースが多いのです。従って、香港でビジネスを展開されている大多数の日本人の方であれば、少なくとも聞き覚えはあるという方が多いのではないでしょうか。

今回は、税制改正の話題に入る前にタックスヘイブン対策税制そのものについて、その仕組みを簡単に説明したいと思います。なお、理解の混乱を避けるために、今回は平成22年度税制改正まで織り込んだ状態で説明させていただきますので、その点はあらかじめご留意ください。


まず、そもそも「タックスヘイブン」とはどういう意味でしょうか?英語表記はTax Havenでして、一般的には「租税回避地」と訳されます。私なんかは、きっとTax heavenという表記で「税金天国」という意味だろうと思っていましたが、ずっと間違っていたようです。ただ意味合いとしては、あながち間違いではありませんよ!税制上のタックスヘイブンは、「日本よりずっと税率の低い国または地域」を意味するからです。

日本の法人税はただでさえ高税率ですから、そんなタックスヘイブンがあると知れば、どの会社もタックスヘイブンにペーパーカンパニーを作って、日本法人からタックスヘイブン法人へ所得を移してしまうに違いありません。

しかし全ての会社にそんなことをされたら、日本は法人税収が激減してしまいます。そこでタックスヘイブン対策税制という税制を作り、租税回避目的のタックスヘイブン法人の所得については、日本法人の所得とみなして日本で課税(このことを合算課税といいます)することとしたのです。

このタックスヘイブン対策税制は1978年に創設されましたが、その後租税回避事件が起きる度にその抜け穴をふさぐべく改正が重ねられてきた経緯があるため、現在ではかなり細かい規定ぶりとなっており、簡単には租税回避できないようになっています。それではその要点だけをQ&A方式でみていきましょう。


Q. 日本の税制上、どの国がタックスヘイブンに該当するのですか?

A. 所得に対する税負担が20%以下の国が、タックスヘイブンに該当します。香港の法人税率は16.5%ですので、タックスヘイブンに該当します。


Q. タックスヘイブン法人は全て日本で合算課税の適用対象となるのですか?

A. 全てではありません。例えば、以下の場合には適用対象にはなりません。

①日本の非居住者が実質的に50%以上支配しているタックスヘイブン法人。これは、日本の居住者によって支配されていない場合にまで日本が課税権を行使するのは適当ではないからです。また、実質保有によって判断されますので、株主の名義だけを非居住者にするような方法では回避できません。

②日本の居住者が実質的に50%超支配しているタックスヘイブン法人でも、各々の株主が10%未満の保有の場合。これは事務的な作業負担を考慮しての規定であると思われます。親族等は一つの株主グループとみなされますので、同族株主グループ内で分散させても回避できません。

③日本の居住者が実質的に50%超支配しているタックスヘイブン法人でも、所定の適用除外要件を満たす場合。具体的には、事業基準、実体基準、管理支配基準、関連者基準又は所在地国基準の4要件を全て満たす場合にのみ、適用除外となります。これは租税回避目的ではなく経済的合理性のある理由により設立・運営されている場合にまで日本が課税権を行使するのは適当ではないからです。


Q. どのタイミングで日本で合算課税されるのですか?

A. タックスヘイブン法人の会計年度終了日の翌日から2ヶ月が経過した日を含む日本法人の会計年度で合算課税されます。


今回は急ぎ足でタックスヘイブン対策税制のアウトラインをつかみましたが、次回からは最近の改正のポイントについて具体的に解説していきたいと思います。