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特別寄稿『遺言状を作っておけば、後は問題ないか?』
~故ニナワンさんの遺産相続訴訟事件から学んだこと~

相続計画(Estate Planning)における最も重要な課題は2つある。一つは、永遠に生き続ける財産である“会社”をどうやって後継者へ引き継ぐか、つまり“事業承継”の問題である。もう一つは、亡くなった時の個人財産を誰にどのように“遺産相続”するかである。特に後者の場合、遺言/遺言状(Will)があるかどうかによって、遺産の分配が大きく変わってくる。また、各国の法律により遺言の定義・要件や取扱いが異なっているので留意が必要だ。



【豆知識】香港の遺言条例(Will Ordinance)によると、
  • 書面で遺産配分の指示を明記し、遺言者がサインする。(手書きもワープロ打ちも可)
  • 2名以上の第三者立会人(Witness)が遺言状の上にサインする。通常そのうち一人は弁護士である。
  • 有効な遺言状が同時に複数存在する場合、時間的に最も新しいものが遺産分配の基準になる。
ここでは、遺言状(Will)をめぐる相続問題として、「アジアで最も裕福な女性」と言われた大富豪、ニナワンさんの二度にわたる遺産争い事件、
  1. 夫の王德輝さんの遺産訴訟事件(1990年~2005年)
  2. ニナワンさん死後の遺産訴訟事件(2007年~現在)
を用いて、遺言状をめぐる遺産相続の問題点を検討してみたいと思う。

I. 王德輝の遺産訴訟事件(Will 1968 vs. Will 1990)

<背景>

1960年、夫の実父の王廷歆さんと夫の王德輝さんが華懋集团(チャイナケム・グループ)を創業。その後、チャイナケム・グループは不動産開発企業へ進み、香港有数の非上場大手企業となった。1970年頃より、ニナワンさんは夫と一緒にチャイナケムの事業を管理するようになる。

1990年4月に、夫の王德輝さんが“2度目”の誘拐をされた。身代金2.6億香港ドルを支払ったにもかかわらず、王德輝さんは依然行方不明のままであり、ニナワンさんが独自でチャイナケムを経営するようになる。その後、1999年に、香港の裁判所は、「王德輝さんが法律上死亡」とした。

ここで、すべての遺産が実父の王廷歆さんに相続されるとした1968年作成の遺言状に対して、ニナワンさんが、1990年作成の遺言状(すべての遺産がニナワンさんへ)を提出して、親族同士で激しくいがみあうことになる。

2002年10月、実父の王廷歆さんの勝訴となり、そこでニナワンさんが遺言状偽造の疑いで逮捕された。しかし、ニナワンさんは控訴して遺産相続訴訟が高等法院へ移る。2004年6月には、ニナワンさんの不服申立てが却下されて敗訴になったが、再抗告して争いが上級裁判所(Court of Final Appeal)まで持ちあがった。 2005年1月、ニナワンさんは、5,500万香港ドルの保釈金(香港史上女性容疑者として最大の金額)を支払った。

2005年9月、最終的に上級裁判所の判決では2006年の遺言状が有効とされ、ニナワンさんが約400億香港ドルの遺産相続人となった。

では、最後の勝利者はだれだったでしょうか、400億香港ドルの相続人でしょうか?

この訴訟対決では、8年間に及び親族間で骨肉の争いが繰り広げられ、肉体的にも精神的にも金銭的にも非常に疲れるものであった。大変残念なことに、2004年にニナワンさんは卵巣腫瘍にかかり、ガンと戦いながら裁判の争いをしなければならなかった。ちなみに、この8年間に使われた法律費用は9億香港ドルに上ったという。

実は、この遺産を巡る争いは、最終上級裁判所の判決でも結果的に終結せず、次の争いへと形を変えて繋がっていく。

II. ニナワンさん死後の遺産訴訟事件(Will 2002 vs. Will 2006)

<背景>

夫の実夫との裁判に勝ったニナワンさんは、その間にわずらったガン治療のためシンガポールや香港の名医を訪れ治療に専念するも、2007年4月3日、ついに香港の病院で亡くなる。2002年に書かれた遺言状に基づき、遺族が運営するチャイナケム慈善財団(Chinachem Charitable Foundation;以下は“財団”)が唯一の相続者となり、推計1,000億香港ドルの遺産が主に慈善事業に使われるはずであったが、、、、

2007年4月18日葬儀の翌日、ニナワンさんの風水師であった陳振聰(英名トニー・チャン)が2006年に書かれた遺言を公開し、彼こそがその遺産の唯一の相続者であると主張した。この日から、財団は陳氏と遺産配分を激しく争い、香港政府機関の律政司(Department of Justice)まで巻き込んでいくことになる。

2009年5月11日に、和解が決裂し高等法廷にて遺産相続訴訟が始まる。裁判時には、ほぼ毎日地元新聞のヘッドラインに報道され、様々な“証拠”が表に出てきた。

例えば、
陳氏がニナワンさんの愛人と自称して1993年以来ニナワンさんとの親密写真を公開、
2005~2006年の間に合計6.88億香港ドルを陳氏へ送金、
2005~2007年にイギリスにある陳氏の会社へ3回分けて5千万ポンドの投資、
ニナワンさんは病気のことで風水師の陳氏に相談するも陳氏は実は風水のことがよく分かっていなかったetc

2010年2月2日、高等法院は、陳氏の主張を退け、全ての遺産は財団に帰属するとの判決を下した。とはいえ、陳氏の上訴が予想される上に、また夫の実父の王廷歆さんが2006年の遺言状に対して疑義を示しており、この争いはまだまだ長引く可能性が非常に高い。

さて、ここまでこの一連の訴訟事件の流れをみてもらえばお分かりのとおり、遺言状の効力(正当性)をめぐる相続問題は非常に厄介である。特に多額の資産の相続においては、決して良い方法とはいえない。遺言/遺言状の検認をめぐって訴訟が起こりやすく、下手すれば親族間の遺産争いの“種”を播いてしまうことになる。

では、もう一度遺言状を用いた相続方法の利点・欠点についておさらいしてみよう。

利点:
  1. 手続きが簡単で、弁護士や公証人がいれば作成できる。
  2. コストが安い。
  3. 遺言の内容を変更したいとき、いつでも簡単に変更できる。
欠点:
  1. 特に厖大な遺産を相続する場合、必ずしもいい方法ではない。
    遺言状の効力をめぐって訴訟になりやすく、長時間の遺言検認プロセスや多額の法律費用を使うことになってしまう。
  2. 遺産の価値変動がある場合(例えば、土地や株式)、長時間の遺言検認プロセスを完了するまで、資産が大幅に減価してしまうリスクがある。
  3. 海外における遺産が遺言検認プロセスに入る時、税金問題などで手続きがより煩雑になる。
    一部の国では遺産・相続税(Inheritance Tax)の対象となり、相続者の財務負担になってしまう。(香港では一切の遺産税が課されない)
なお、遺言状に代わる相続方法としては、信託(Trust)や財団(Foundation)という手法が海外においては広く使われているので、次回以降に解説したい。

財務コンサルタント 陳凱中

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