中国 中国会計税務レポ

[中国会計税務レポ] 企業関連者間取引の特別調整 – 特別納税調査調整と相互協議 (8)

中国の租税回避防止管理のガイドラインである『特別納税調整実施弁法(試行)』(国税発[2009]2号。以下「2号弁法」)の移転価格(中国語表記:転譲定価)に関する規定のうち、2017年3月に公布された『特別納税調査調整および相互協議手続管理弁法に関する公告』(国家税務総局公告2017年第6号。以下「6号公告」)について、前回に続き紹介します。 
 

1. 特別納税調整調査(移転価格調査)手続き

6号公告では、移転価格調査を行う場合の調査の執行手順、資料の取扱い、および調査対象企業、その関連者や取引当事者などに対する資料提出の義務などを詳細に示しています。調査は企業に移転価格調整リスクが発見された場合に行われますが、企業自ら調整リスクがあると認識した場合、自主調整のうえ追加納税することもできます(注1)。調査においては、税務機関がその案件の状況に基づき、

  • 取引資産または役務の特性
  • 取引の各当事者が果たす機能、負担するリスク及び使用する資産
  • 契約条項
  • 経済環境
  • 経営戦略

について具体的に選択して比較性分析を行うとされ、その内容も具体的に示されています。

(注1) 自主調整の場合には、6号公告で新たに定められた「特別納税調整自行税款表」の作成が必要。なお、企業が自主調整を行っても、税務機関は依然として調査権限を有するとしている。

2. 移転価格算定方法

税務機関は比較性分析に基づき、合理的な移転価格算定方法を選択して企業の関連者取引を分析、評価します。なお、移転価格算定方法として列挙する

  • 独立価格批准法
  • 再販売価格基準法
  • 原価基準法
  • 取引単位営業利益法
  • 利益分割法
  • その他独立企業間原則

に合致する方法の6つ(注2)は2号弁法と同じですが、その他の方法については、原価法、市場法、収益法などの資産評価方法に加え、利益と経済活動の発生地と価値創造地が互いに整合するという原則が反映されるその他の方法が含まれることが明記されています。また、各算定方法の具体的な内容およびその適用の可否の判断における留意点などについても詳細に説明しています。

(注2) 中国語表記では、それぞれ

  • 可比非受控価格法
  • 再銷售価格法
  • 成本加成法
  • 交易浄利潤法
  • 利潤分割法
  • 其他符合独立交易原則的方法。

3. 納税調整実施の判定

移転価格調査の結果、関連者取引が独立企業間価格に合致していないと判断された場合には、納税調整が行われます。
6号公告では企業の利益水準を重視しており、企業が国外関連者のための来料加工、進料加工といった単一な生産業務、または代理販売や契約による研究開発業務に従事する場合には合理的利益水準を保持しなければならないとし、これらの企業に欠損が生じた場合には、移転価格の同時文書作成基準を満たさない場合でも、欠損年度のローカルファイルを準備させ、監督管理を強化するものとし、本来関連者が負うべき戦略ミス、低稼働率、販売不振、研究開発の失敗等に起因するリスクおよび損失を負担する場合には、納税調整を実施できるとしています。なお、地域性特殊要因による価格設定に対する影響も強く意識しており、経済環境については、ロケーションセービング、マーケットプレミアム(注3)などの地域性特殊要因の利益に対する貢献を考慮すべきであることも示されています。また、企業が獲得した利益が果たす機能と負担するリスクに合致するか否かを確認するものとし、企業とその関連者との間の取引が直接または間接的に国全体の税収の減少を招く場合の例示として、相殺取引に加えて、隠匿取引についても特別調整を実施できるとしています。加えて、機能・リスクを負担せず、実質的な経営活動を行わない国外関連者に支払った費用が独立企業間原則に合致しない場合、税務機関は税所得額を計算する際に控除された全額に対して納税調整を行うことができるとしています。

(注3) 新興国の物価水準(安価な人件費、不動産関係費用等)の差異から得られるコスト削減(中国語表記は成本節約)、その地域特有の活況なマーケットにおける販売量により生じる利益(中国語表記は市場溢価)。