M&A

[M&A] 食卓上のM&Aドラマ劇?-その1

【ヘッドライン】 クラフトとかなりのシナジー、キャドバリーCEOが認める。
(2009年9月21日 Reutersニュース:Cadbury CEO admits some synergies with Kraft-WSJ)(出所

【ニュース概要】
ウォールストリートジャーナルの報道によると、米食品大手のクラフトのテークオーバーを直面している英国お菓子製造大手のキャドバリー社長は、「確かにお互いの事業ポートフォリオにとって”補完的要因”(Complementary Elements)がある」とコメントしている。

「しかしながら、依然としてキャドバリーの株主らが今月初めのクラフト社の97億ポンド(約1.4兆円)買収提案に対して拒否しているのです」と、キャドバリー社のCEOトッド・スティッツァー氏が新聞インタービューに述べた。

「個人的な考えですが、ほかの誰かにとって弊社が実に魅力的なのには間違いありませんが、(M&Aで巨大化される)コングロマリット型財閥の時代はもう終わりです!ヨーロッパを始め、特にブラジル、ロシア、中国などの新興市場を向けて(ターゲットを絞った合併買収・統合をすれば)、販路獲得のメリットでもあり、お菓子事業ポートフォリオの補完的要因にもなります。」

ニュースの背景を読み解く

日頃大半のM&Aニュースは退屈だが、でもこれは別だ。

なぜこの買収案件が注目されたのか、一つの理由がなじみの食卓のブランドだから。そしてもう一つは、今年金額の最も大きいM&A案件(1兆4000億円)で、しかも敵対的なM&Aに転じる可能性が十分あり、”ニュース・バリュー”の高いM&Aドラマだからだ。

09年9月初めに、クラフトのUS$167億の買収金額が報道された時点では市場反応は様々だった。キャドバリーの株価が2日間で38%急上昇し、クラフトの1株あたり745ペンスのオファーより10%以上値上げた。逆に、クラフトの株価が6%下落した。 後者では、少なくともUS$80億の買収資金を必要とし、主に社債で調達されるだろうと市場は推測しているが、負債比率の悪化から社債の投資グレードが下げられる恐れがあり株価下落の誘因となった。

この買収提案を拒否したキャドバリー側の理由は、「クラフトによる企業評価が安すぎだ」という。このM&Aはクラフトにとって商品ポートフォリオを補完(Complimentary)させるシナジー効果があるにもかかわらず、過去10年の食品産業の買収案件の平均P/E=14倍に比べて、本件のP/Eが12.9倍で実に過小評価だと指摘する。これにより、買収金額を引き上げる余裕のないクラフトが難しい立場にたたされ、非常にタフなM&A交渉のドラマが始まった。

上記の新聞報道を読む限り、キャドバリー経営陣の態度(M&A拒否)が柔らかくなり、ある意味でのラブ・コールではないかと推測されたが・・・

しかし、

  • 9月25日‐スティッツァーCEOのコメントの意味が誤解された!
    クラフトのオファーは全く意味がない(Make No Sense)!とキャドバリー側の反論。
  • 9月28日‐米クラフト、英キャドバリーに敵対的買収案を提示へ=英紙の表題。

同紙は関係筋の話として、クラフトはキャドバリー株1株当たり800ペンスでの買収案を提示し、買収パネルが設定する可能性の高い60日間の期限内に買収額を1株当たり850ペンスまで引き上げる可能性があり、総額約110億ポンド(約1兆5600億円)で敵対的買収に踏み切る見通しであるという。

ここに2009年最も注目された大型案件で本格的なM&A攻防戦がいよいよスタートした!

救済型M&Aや経営不振の会社の敵対買収などのシナリオを除いて、通常M&Aの目的や動機は両方にとってメリットがあり、買収・合併後のシナジー効果が期待されるものである。さて、キャドバリー社にとってM&Aのメリット及びそのシナジー効果があるのか?

キャドバリーは世界最大級のお菓子製造業者を誇る185年の老舗で、その業務は世界的に分散されている。業績パーフォマンスは決して悪くない。金融危機にもかかわらず、2008年の売上成長は約9.7%、EPS成長が約34%を達成。5年平均の営業利益率が11%もあり、会社規模は60カ国をわたって4.5万人以上、2008年の売上が約US$29億で利益がUS$3億でした。

キャドバリーはクラフトのブランド・ネームや販路を使えばもっとお菓子が売れるのか?

たぶん、”あってもなくても同じではないか”、多くのキャドバリー社の株主が考えるだろう。

一方、クラフトは9月初め当時の株価580ペンス台より28%以上のプリミュムで、なぜ1株あたり745ペンスをオファーしたのか?しかも、いまキャドバリーの株価が800ペンス台になっても、なぜM&Aをあきらめないのか?(しかも、噂の850ペンスまで敵対TOB?)

ブランド・ポートフォリオによるシナジー効果がその答えです。ある分析によると、キャドバリーの買収が成功すれば、クラフト社は新興成長市場(特にインド)の売上が伸び、製品ポートフォリオが拡大できること。このM&Aによって、2008年の売上の11%成長という効果があり、長期的にはクラフトの売上成長が4%から5%まで上がり、EPSがUS$7~8からUS$9~11まで向上させるという。

では、クラフトのブランド・ポートフォリオを見てみましょう。

  • 食品:Kraft(チーズ)、Maxwell House(コーヒー)
  • ビスケット系:Nabisco、Jacobs、Ritz、LU
  • チョコレート系:Milka、Oreo

キャドバリーは看板商品がチョコレート・バーで、そのほかが飴(Clorets、Halls)やガム(Maynard)があり、”補完的な”シナジー効果が生まれる可能性が高い。

キャドバリーの買収が成功すれば、クラフトに対して以下のメリットが考えられる。

  1. 販路の拡大(地理的)
    *注:現状のクラフトの売上は約6割がアメリカ+北米で、23%がヨーロッパとなっている。キャドバリーのアジア・アフリカ地域の販売収入益が実に魅力的だ。
  2. ブランド・ポートフォリオの多様化
  3. より高い収益率のお菓子分野
  4. コスト・シナジー(チョコレート系)

そうであるならば、クラフトの競合者もキャドバリーを買収したくなるのではないか?

しかし、業界分析ではNestleやUnileverにとって1~2%の売上成長しか見込めない。それに、近年UnileverはあまりM&Aの動きがなく、Nestleの長期目標の”健康志向”に合わなく、ホワイトナイトになってくれる可能性が低いであろう。

オブザーバー紙によると、英国の買収パネルは近いうちに、クラフトに対してしっかりした買収案を提出するか半年間の買収断念を求めるか期限を設定する予定という。

これから、競合他社からの買収争いになるかキャドバリーの防衛戦開始か、色んな”変数”がこの案件の結果を影響している。

日本においてもキリンとサントリーの経営統合など食品業界ではホットなM&A話題が続くが、次回の”話題のM&A”では、日本の大手食品企業のM&A案件と、クラフトなどグローバル食品大手のそれとを比較検討してみたいと思う。

以上

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