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[全訳] 中国企業会計凖則とIFRSのコンバージェンス全面的持続に関する問題

中国企業会計凖則と国際財務報告基準のコンバージェンス全面的持続に関する若干の問題(原文
財政部会計司司長 劉玉廷

先日、財政部は《中国企業会計凖則と国際財務報告基準のコンバージェンス全面的持続のためのロードマップ(公開草案)》(以下《ロードマップ》とする)を公表し、国内外に広く意見を求めた。《ロードマップ》は現在の国際情勢の変化に従い、中国企業会計凖則と国際財務報告基準のコンバージェンス全面的持続の背景、主要な内容、スケジュールを提示した。

今回の国際金融危機拡大後、20カ国グループ(G20)首脳会議、及び金融安定理事会(FSB)はグローバルに統一した高品質な会計凖則の制定を提案、国際会計凖則理事会(IASB)は積極的に行動し、会計の国際的コンバージェンスはすでに各国経済の発展と経済グローバル化の必然的な選択となっている。

財政部の公表した《ロードマップ》は、会計理論と実務界が国際財務報告基準の制定への全面的な参与を提唱し、IASBが会計凖則の重大な修正において新興市場経済国家の状況を充分に考慮するよう促し、グローバルに統一した高品質な会計凖則の制定のために貢献することを目的としている。

一、G20首脳会議の提案に応えるため、IASBは関連する会計凖則に対して重大な修正を決定した。

今回の国際金融危機に対応するため、G20首脳会議とFSBの要求に従い、IASBは一部の凖則、主に金融商品・公正価値測定・財務諸表の表示等に対して重大な修正を加える。

(一)金融商品の分類と測定
2009年7月14日、IASBは《金融商品の分類と測定(公開草案)》を公表、新たな計画を発表し、金融資産と金融負債の分類を現行の四分類から償却原価による測定と公正価値による測定の二種類に簡略化した。基本的な貸付金の特徴を備え契約収益を基礎として管理する金融商品を償却原価により測定し、その他金融商品を公正価値により測定する。現行の分類における満期保有目的投資と売却可能金融資産等の種類はもはや存在しない。会計上の整合性を考慮し、この公開草案は公正価値の選択権を保留し、企業は償却原価による測定を適用すべき金融資産または金融負債を公正価値により測定しその変動を当期損益に計上する金融資産または金融負債として指定することができる。公正価値により測定する金融商品は、その公正価値の変動を損益に計上し、もし金融資産が持分商品かつ非取引性のものである場合、その公正価値変動をその他包括利益に計上し、この金融資産から取得した配当及びその累計公正価値変動額を損益に振り替えてはならない(処分時においても)。また新公開草案は金融資産または金融負債における公正価値測定と償却原価測定の間を再分類することを禁止している。

(二)公正価値測定
公正価値会計は二つの問題を抱えている。一つは公正価値測定の範囲の問題、例えば金融商品の分類と測定凖則の主要な規範はどの金融商品に公正価値測定を採用すべきか。二つ目は、いかに公正価値を測定するかの問題。

2009年5月28日、IASBは《公正価値測定(公開草案)》を公表したが、この公開草案が解決するのは二つ目の問題である。公開草案において、公正価値は「測定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われた場合に、資産の売却によって受け取るであろう価格又は負債の移転のために支払うであろう価格」と定義されている。

公開草案は市場参加者・最も有利な市場・最有効使用等の概念を導入し、秩序ある取引における資産と負債の公正価値の測定を規範化した。公開草案は公正価値を測定する評価技法はマーケット・アプローチ、インカム・アプローチまたはコスト・アプローチと整合する必要があることを強調している。マーケット・アプローチは、同一又は比較可能な資産又は負債(事業を含む)に関する市場取引により生み出される、価格その他の情報を用いる。インカム・アプローチは、将来のキャッシュ・フローを単一の(割引後)現在の金額に変換する評価技法を用いる。コスト・アプローチは、資産の用役能力を再調達するために現在必要となる金額(現在再調達原価としばしば呼ばれる)を反映する。

公正価値測定及びそれに関連する開示の首尾一貫性及び比較可能性を向上させるために、公正価値を測定するために用いられる評価技法へのインプットを3 つのレベルに優先順位付けする公正価値ヒエラルキーを定めている。

公開草案は活発でない市場における公正価値測定のためのガイドラインを提供しているが、IASBは新興経済市場国家の環境下での公正価値測定に特殊な問題が存在すると考えていない。このため、新興市場経済国家のために提供される単独の公正価値測定ガイドラインが存在しない。

(三)財務諸表の表示
財務諸表の表示項目はIASBと米国財務会計凖則委員会(FASB)が署名したコンバージェンス備忘録における重要項目である。この項目の第一段階はすでに終了し、財務諸表に包括利益を導入した。2008年10月、IASBはこの項目の第二段階のディスカッションペーパーを公表した。このディスカッションペーパーによると、IASBは営業活動(経営活動と投資活動)と資金調達活動を財務状態計算書、包括利益計算書、キャッシュフロー計算書に分類し、報告書間の関係を強化し、さらに明確な情報を提供し、財務諸表利用者(主に外部投資者)による財務諸表に基づいた投資決定に便宜を図ることを目的としている。

上述の重要な凖則の改訂のほか、IASBはまた合併財務諸表・収益・リース等の凖則の改訂を行っているが、同様に注視していく必要がある。

二、我が国の企業会計凖則はすでに国際的なコンバージェンスを実現しており、国際財務報告基準の最新の変化は我が国の会計凖則に大きな影響をもたらした。

2005年初めから年末まで、中国財政部は集中して国際財務報告基準にコンバージェンスした企業会計凖則体系を制定し、2007年1月1日より上場企業に実施した。2年近くが経過し、中国企業会計凖則は上場企業の新旧転換と平穏で有効な実施を実現し、実施範囲を上場企業からしだいにすべての金融機関と大多数の大中型企業に拡大する。

IASBは中国企業会計凖則の制定と実施から得た成果に対して肯定と賛賞を与え、財政部との協力を強め、関連会社等凖則の改訂において中国の意見を受入れた。

EUは中国企業会計凖則の制定と実施に賛同し、2009年から2011年までの過渡期において、中国企業がEU国内市場に参加する時に中国企業会計凖則により財務報告を作成することを認めた。

この他、中国企業会計凖則と香港財務報告凖則(国際財務報告基準と同等)も同等性を実現した。関係者の協力の下、中国企業会計凖則の制定・実施及び国際的コンバージェンスは有効な成果を上げ、アジアと新興市場国家の前列を走っているといえる。

しかし、我々はすでに得た成果に満足することはできない。今回の国際金融危機拡大後、G20首脳会議とFSBは国際財務報告基準の改善要求を提出した。特にIASBが行っている上述の関連凖則の改訂項目は、各国家の会計凖則体系に対して深刻な影響を及ぼしており、我が国も例外ではない。

(一)金融商品の分類と測定に関する問題
我々はIASBによる金融商品の分類及び測定の簡略化の原則を支持する。但し注目に値するのは、我が国企業の金融資産において、貸付金及び未収入金、満期保有目的の投資が相当の比率を占め、IASBによる《金融商品の分類と測定(公開草案)》において貸付金の基本的な特徴を備え契約収益を基礎として管理する金融商品の範囲と我が国の金融商品の特徴を深く研究する必要があり、もし我が国の現行の《企業会計凖則第22号?金融商品の認識と測定》に定義する貸付金及び未収入金、満期保有目的投資をカバーできない場合、公正価値により測定する金融商品の範囲を拡大することを意味する。そればかりか、公正価値により測定し変動をその他包括利益に計上する金融商品は、処分または売却時、実現する収益は当期損益に振り替えることができず、企業の報告する経営成果に影響する。

(二)公正価値測定に関する問題
米国金融危機の拡大の当初、公正価値会計は経済の景気循環増幅性を備えていると指摘されていた。我々は、これが問題の重要なポイントではなく、公正価値の形成過程(即ち価格決定メカニズムまたは見積システム)こそが公正価値の関連凖則を完全なものにするための核心の問題であると考える。公正価値測定に関わる範囲は広く、金融商品・投資不動産、また企業合併・債務再編等にも関連する。金融商品の公正価値測定だけ見ても、各国の市場の成熟度が異なるために、価格決定メカニズムにも大きな差異が存在する。

我が国の株式・債券・先物・ストックオプションの価格決定メカニズムと国際的に発達した資本市場は異なる。仮に価格決定メカニズムが同じだとしても、実際の価格決定結果が異なるだろう。市場価格の情報によって金融商品の公正価値を測定する時に直面する多くの問題は、実際に以下のようなものである。

  1. 近年我が国は新規公開株式(IPO)の価格決定メカニズムは行政主導から市場化の方向へ移行しつつあるものの、指定機構投資者がブックビルディング方式で新株発行価格を確定する。但しIPOの価格決定と流通市場の価格にも常に大きな差異が発生している。
  2. 同一会社株式のA株とH株市場における価格に差異が存在する。
  3. 市場規模は有限であり、投資者の理性は不十分であるため、流通市場における株式・債券及び先物契約の価格は常に短期間の大幅な変動がある。
  4. ストックオプションを採用する会社は、持分構成の差異により、ストックオプションに対して異なる価格決定メカニズムを採用しているはずである。例えば持分を分散することで管理層が実際に支配する会社は、ストックオプションの価格を低く評価する傾向があり、低い価格でストックオプションを取得し、流通市場で高く売却して利益を得る。

さらに注意が必要なのは、企業合併取引において持分の市場価格で合併原価を確定すると、のれん価値を不当に高く評価してしまうことがあり得る。非同一支配下の企業合併において、被合併子会社は資産・負債の公正価値確定に相当な主観性が存在することが分かるだろう。

債務再編時の参加者により決定される価格と公正価値との間に差異が存在する。

同一または類似の投資不動産市場の取引価格について取引参加者・取引時点・地点が異なることにより存在する差異等は、すべて我が国の公正価値測定において直面する特殊な問題である。

よって我々は深く研究して新興市場経済国家における異なる種類の金融商品と非金融資産・負債の価格決定メカニズムと見積システムの特徴を総括し、IASB公正価値測定凖則の公開草案と比較し、IASBに新興市場経済国家に適用する公正価値を確定する実行可能な方法を提案する必要がある。

(三)財務諸表の表示に関する問題
財務諸表に包括利益を導入することについて、我々は望ましいと考える。《企業会計凖則解釈第3号》はすでに我が国企業の財務諸表に包括利益と関係のある項目を増加させるよう要求している。財務諸表の表示の第二段階ディスカッションペーパーによる財務諸表の表示構成と項目の前提は、成熟市場における理性的な投資者が投資の意思決定を行うことである。

しかし中国市場の実際の状況は、市場成熟度が高くなく、投資者の理性は十分でなく、財務諸表による投資の意思決定はまだ完全に主流となっておらず、財務諸表のもっとも重要な機能は企業の業績評価に用いることである。もし財務諸表の表示の第二段階ディスカッションペーパーが提出した計画により財務諸表の表示構成と項目を変更した場合、企業に情報転換コストの負担を強い、さらに我が国の現行法律法規の改訂問題にも関係する。

三、コンバージェンスの全面的持続のためのロードマップの公表には、国際財務報告基準の重大な修正に参加し、我が国の新興市場経済国家としての状況を充分考慮するようにさせる目的がある。

上述の変化と影響に対応するため、財政部は《ロードマップ》を公表し、中国企業会計凖則と国際財務報告基準のコンバージェンスの全面的持続を打ち出した。重要な目標はIASBによる凖則項目の重大な修正に積極的に参加し、グローバルに統一した高品質な会計凖則が新興市場経済国家の実情を充分に考慮するよう促し、中国企業会計凖則と国際財務報告基準との間に現存する僅かな差異を解消することにある。よって、コンバージェンスの全面的持続はひたすら国際財務報告基準に従い企業会計凖則を修正することではなく、国際財務報告基準が中国の状況をさらに考慮するよう促し、それに応じて我が国会計凖則を調整することにある。

国際財務報告基準の制定に全面的に参加し、グローバルで高品質な統一会計凖則は一つのシステム構築であり、我々は関係者が積極的に参加し、中国の企業会計凖則と国際財務報告基準のコンバージェンス全面的持続のために貢献することを希望している。当前の会計国際コンバージェンスの新たな情勢に直面し、会計理論界・実務界と管理監督部門は積極的に行動し、上述のIASBによる金融商品・公正価値測定・財務諸表の表示等の項目に対する問題に関して、中国の特殊な状況と特有の問題を深く研究して総括し、説得力のある証拠を提示し、財政部または直接IASBまで回答し、IASBが国際財務報告基準の制定過程において中国の状況を充分に考慮するよう働き掛けなければならない。

2006年、我が国の企業会計凖則体系が成立した後、財政部は国際財務報告基準の制定への参加において顕著な業績を上げ、一定の経験を蓄積している。4年間に渡る討論と協議を経て、IASBは2009年8月4日に《国際会計凖則第24号??関連会社開示》(IAS24)の修正を正式に批准した。修正後のIAS24は中国の実情を考慮し、この問題における中国企業会計凖則と国際財務報告基準との間の差異を解消した。企業再編における資産評価の会計処理も中国特有の問題であり、財政部はIASBに解決策を要請している。2009年8月26日、IASBは年内改善項目の《国際財務報告基準第1号??国際財務報告基準の初年度適用》を通じて、この問題に修正を行うことに同意した。我が国が国際財務報告基準制定への参加による成功経験が示すのは、関係者が提出する意見と提案は特殊性を備え、問題の特徴と原因を深く研究し、理論と証拠によって問題を明確に説明できれば、IASBは考慮して対応する国際凖則の修正を行うはずである。

現在、財政部会計司は積極的に公正価値測定等の重大な研究課題を設け、証券会社・ファンド会社・先物取引所・上場企業・会計理論界の専門家を組織し、我が国の各種金融商品の特徴・価格決定メカニズム・見積システムを共同で研究し、中国の新興市場経済国家としての金融商品及びその公正価値測定における特徴と特有の問題を全面的に総括し、研究報告を行いIASBと関係者に回答し、国際財務報告基準の制定への参加に対して大きな影響を与え、大きく貢献し、我が国企業ひいては国家の利益を擁護することができる。