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[労働契約法] 労働契約法総論

2007年6月29日、中華人民共和国労働契約法(以下、「労働契約法」という)が公布され、2008年1月1日に施行される運びとなりまし た。この労働契約法は中華人民共和国労働法(以下、「労働法」という)の労働契約部分を独立させ、立法化したものになります。従って、労働法は、労働契約 法施行後も労働契約法と同一レベルの法律として存在することになります。
ところで、2006年の全国人民代表大会では、第11次5ヵ年計画として「調和の取れた社会」の実現という目標が掲げられました。調和の取れた 社会とは、簡単にいうと、中国各地域の格差是正のために社会的弱者である農民、労働者を保護するというものです。労働契約法が制定された背景にはこの弱者 である労働者を保護することにより調和の取れた社会を実現するという考えがあります。従って、労働契約法第1条にも「調和のとれた安定した労働関係の構築 と発展のため本法を制定する」と制定目的が規定されているのです。
それでは、この調和の取れた社会の実現のために制定された労働契約法の内容を簡単にみてみましょう。

1.       書面での労働契約の締結

 労働契約は、書面で締結しなければなりません(法第10条第1項[1])。書面での契約雇用締結を怠った場合には次の2段階に分けてペナルティーが課されます。①雇用単位が雇用した日から1ヶ月以上1年未満の間に書面での労働契約を締結しなかった場合には、労働者に対して毎月2倍の賃金を支払わなければなりません(法第82条第1項)。また、②雇用単位が雇用した日から起算して1年以上経過しても書面による契約を締結しない場合には、無固定期限労働契約を締結したものとみなされます。
 
2.       試用期間
 試用期間は労働契約期間に応じて以下のように設定されています。
労働契約期間
試用期間
3ヶ月以上1年未満
1ヶ月を超えてはならない
1以上3年未満
2ヶ月を超えてはならない
3以上若しくは無固定期間労働契約
6ヶ月を超えてはならない
 試用期間中よく問題になるのが、労働者との契約を解除する場合です。契約を解除する場合には、「採用条件に合致していないことを証明」(法第39条)できなければなりません。この証明をするためには、書面で採用条件を明確に定めておかなければなりません。労働仲裁になった場合に主観的な判断ではなく、客観的な条件に基づいて不採用にしたことを会社側が証明しなければならないからです。
 
3.       無固定期間労働契約
 無固定期間労働契約は、日本でいえば終身雇用にあたります。無固定期間労働契約は、下記3つのうちいずれかに該当する場合で、労働者からの申し出があった場合に締結しなければなりません(法第14条第2項)。

    労働者が当該雇用単位で10年以上連続して勤務している場合

    雇用単位が労働契約制度を初めて実行する場合または国有企業の制度改定で労働契約を新たに締結する場合において、労働者が既に当該雇用単位で10年連続して勤務し、かつ、法定定年退職年齢まで10年以内の場合

    固定期間労働契約を2回続けて締結した後、法第39条及び法第40条第1項、第2項に[2]該当する状況がない場合においてさらに労働契約を更新する場合

特に注意を要するのは③の場合です。固定期間労働契約を2回連続して締結した後、さらに契約を更新する場合、即ち、3回目の更新時に労働者が無固定期間労働契約の締結を申し出てきた場合には、会社は拒絶できないことになります。そして、この固定期間の締結回数は、本法施行後に固定期間労働契約を締結したときから起算されます(法第97条)。従って、例えば1年間の固定期間労働契約を連続して締結していった場合には、最も早ければ2010年1月には労働者は雇用単位と無固定期間労働契約を結ぶことが可能になりますので、会社管理者にとっては注意が必要です。
 
4.       服務期間
 服務期間とは、雇用単位が労働者に研修費用を負担し特別専門研修を行わせた場合に、労働者は当該雇用単位へ一定期間の在職義務が生じる期間をいいます。この場合、一定の在職義務期間に違反した場合には、労働者は違約金を支払わなければなりませんが、その前提として、予め雇用単位は労働者と別途服務期間、違約金、条件等を約定しておく必要があります(法第22条第2項)。この場合の違約金の金額は雇用単位が提供した特別研修費用を超えてはなりません。また、この服務期間に関して明文化されたものはありませんが、5年以内に設定するのが一般的です。
 
5.       競業制限
 雇用単位は労働者と雇用単位の商業秘密、知的財産権の秘密保持に関する事項を約定することができます(法第23条)。そして、雇用単位がこの競業制限条項を約定した場合には、労働契約を解除、終了後、競業制限期間内に月ごとに労働者に経済補償金を支払うことを約定することができます。この競業制限を約定するに際しては、①職位による制限と②期間的な制限に注意する必要があります。①職位による制限としては雇用単位の高級管理職、高級技術者及びその他秘密保持義務を負うべき者[3]に限定されます(法第24条第1項)。②期間的な制限は2年間を超えてはならないと法定されています(法第24条第2項)。なお、労働者が競業制限に違反した場合には約定に従い雇用単位に違約金を支払わなければなりません。
 
6.       規則制度の制定・修正・決定
 労働契約法第4条は次のように規定しています。「雇用単位は、労働報酬、労働時間、休憩休暇、労働安全衛生、保険福利、教育訓練、労働紀律及び労働ノルマ管理等の労働者の密接な利益に直接関わる規則制度や重大事項を制定、修正若しくは決定する場合、従業員代表大会または従業員全員の討論を経て、方案と意見をまとめて、工会または従業員代表と平等に協議して決定しなければならない」。この条文を分解してみると、規則制度を制定する場合には2段階のステップを踏んで決定しなければならないことがわかります。即ち、まず、①従業員代表大会または従業員全員の討論を経て、方案と意見をまとめる。その後、②工会または従業員代表と平等に協議して決定する。この条文の存在により労働者の密接な利益に直接関わる規則制度や重大事項を制定、修正若しくは決定する場合には必ず民主的な手続きを経なければならず、民主的手続きを経ないで制定された規則等は無効ということになります。
 次回以降は、労働契約法各論として各規定を詳細にみていくことにします。
 
以   上


[1]特別な断りのない限り条文の文言を示した際の「法」とは「労働契約法」を指すものとします。別の法律の場合にはその旨を記載します。
[2]法第39条は、雇用単位からの懲戒解雇の場合。第40条第1項は、労働者の疾病、業務外の負傷で療養期間満了後も職場復帰できない場合。第40条第2項は、職務遂行能力がなく、雇用単位が別途提供した職種にも従事できない場合です。
[3]何をもって高級管理職、高級技術者、その他秘密保持義務を負うべき者というかは一般的に会社の内部規定によって決定されることになります。

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