中国 有備無患(備えあれば憂いなし)

[有備無患] 外貨取引が拒否されてしまった、なぜ‥

中国企業 「有備無患(備えあれば憂いなし)」
外貨取引が拒否されてしまった、なぜ‥

中国での企業運営において、日本と最も異なる点の一つに、独特の外貨管理制度があげられます。資本金投入から始まり、日々の取引での外貨収受や親会社からの借り入れ等の外貨取引は避けて通ることのできない問題の一つです。

但し、税務や税関といった事情と異なり、日本では外貨取引が自由なこともあって、ビジネススキームを決定する際に中国の特殊な外貨管理事情を考慮せず、取引の継続に支障をきたすといった事例も散見されます。

■ 事例1.外貨送金における問題の発生

日本本社が保有する金型を現地法人へ売却した。但し、製品出荷の時間的制限があり、出張者にハンドキャリーで持ち込ませたため、購入対価の送金に支障をきたしており、会計監査においても金型購入に係る証明書がないため、取引の真実性に疑念を抱かれる。

物品の購入等、所有権移転に係る国際貿易取引においては、通関証明書(中国語名:報関単)が当該取引を証明する書類となり、通関証明書のない取引に対しての送金や通関証明書価額と異なる金額での送金は認められません。

対策

物品の輸出入時には正式な通関手続きを経ることを徹底する他ないものと思います。今回のハンドキャリーによる輸入部分に関しては、将来同等の商品を輸入する際に、輸入数量や金額を調整して申告する方法が考えられるかと思いますが、通関手続きや日本本社との債権債務金額一致を注意する必要があります。

◇対外送金

中国からの送金手続きは、経常項目に係る部分は原則「自由」、資本項目に係る部分は「許認可制」を採用しています。対外取引が発生する際には、当該取引が以下のどこに当てはまるかによって、対外送金の必要資料や必須手続きを考慮する必要があります。

取引例 特徴 事前の許認可
貿易取引 貨物の売買 貨物輸出入を証明する通関証明書があれば送金は容易 不要
非貿易取引 技術移転契約
コンサル契約
契約書の存在、及び契約送金金額に対する納税の実施がされていれば送金は比較的容易 不要
資本取引 出資、貸付 事前の許認可制となる。現地法人の急な資金繰り悪化に伴う送金を行っても、銀行等で受け取りを否認される 必要

※貿易取引と非貿易取引を併せて「経常取引」という。

■ 事例2. 内資企業の買収取引における外貨上の問題

現地法人が、中国の内資企業買収にあたり、買収資金の一部を日本本社からの増資によって確保した。但し、当該現地法人は投資性公司ではないため、銀行での両替手続きにおいて当該資金を買収資金に充てることが出来ない旨指摘される。

現地法人を通じた買収を取り止め、外国企業による買収というフローへの修正を余儀なくされることになります。

日本本社が、現地法人の合弁相手から全出資持分を買い取って独資法人とすることを決定。営業許可証の変更等を確認したため買収対価の支払いを実行するが、法で定められた「資産換金専用外貨口座」を経ず、通常の口座を利用したため、翌年の企業年度検査において買収資金の支払いが認められず、外貨登記証の更新に支障が生じる。

通常口座を経た入金の記録を提出しておりますが、政府部門からの回答はまだ得ることができていない。最終的には、中国側合弁相手から一度返金を受けた後に、再度「資産換金専用外貨口座」を通じた入金を考えているものの、返金に係る外貨送金手続きも手続き上は難しい状況にある。

対策

現地企業の買収といった資本取引においては、事例1の表にも示した通り事前の許認可が必要になることが多いため、想定外の事態が起こる場合には、買収手続きの停滞や買収後の企業運営に支障をきたします。企業買収における外貨収受や両替取引の発生可能性を想定した上で、取引の実行可否を逐一確認することが必要です。

◇ 資本取引に係る外貨規制

上記二つの事例は、2008年に公布された「外商投資企業の外貨建て資本金支払為替管理を一層改善することに関する業務手続きについての国家外貨管理局総合司の通知(匯総発[2008]142号)」内の規定によるものです。

(1)外商投資企業の資本金を人民元へ両替するにあたり、以下の用途に用いることは原則として認められない。

  1. 国内持分投資(投資性公司を除く)
  2. 自身が使用することのない不動産購入(不動産公司を除く)
  3. 証券投資

なお、今回の問題は資本金を以て国内企業の買収を行うことが認められないのであり、現地法人が内資企業等を買収することは禁止されておりません。現地法人からの投資と、外国企業による投資では以下のような内容が異なります。

被出資法人形態 法人設立承認機関 投資先分野
現地法人による出資 内資企業 工商行政管理局
※制限類企業を除く
外商投資産業指導目録に従い、禁止されている分野の投資は共に制限される
外国企業による出資 外商投資企業 対外経済貿易部門

(2)外国投資者の内資企業買収と対価払込

中国国内企業や個人が内資企業の持分譲渡を行うに当たっては、買収対価の支払いを「資産換金専用外貨口座」を通じて行う必要があります。当該口座を通じない場合、買収対価の支払が公式に認められず、事例2にもあるように買収後の企業年度検査等で政府部門より指摘を受ける可能性があります。

なお、外国投資者からの買収対価支払は、目的企業の営業許可証が発行された後3ヵ月以内と規定されています。

以 上