シンガポールに駐在される方、現地採用で雇用される日本人の方について、シンガポールで就労する前提条件として、シンガポール政府の人材開発省(The Ministry of Manpower)のEPの承認が必要です。
弊社では、会計税務会社秘書役等で継続的にご支援をさせていただいているお客様を中心に、年間数十件以上、支援開始から累計で数百件の申請サポートをさせていただいております。
その流れについて解説をします。
目次
- 1. 申請前の準備 [1]
- 1.1 公平な採用活動の実施 [2]
- 1.2 求人広告の要件 [3]
- 1.3 MCF広告免除条件 [4]
- 2. 雇用パス(EP)の要件 [5]
- 2.1 給与要件 [6]
- 2.2 COMPASS評価要件 [7]
- 2.3 その他要件 [8]
- 3. EPの申請プロセス [9]
- 4. 入国要件 [12]
- 4.1 基本要件 [13]
- 5. EP発行後のアップデート [14]
- 5.1 変更届出事項 [15]
- 5.2 EPの更新 [16]
- 5.3 EPカードの再発行 [17]
- 5.4 EPの取消し [18]
- 6. 重要な注意事項 [19]
1. 申請前の準備
1.1 公平な採用活動の実施
これは、シンガポール国民等の雇用を確保し、同等の人材が見つからない場合にのみ、外国人の雇用は、許容されるという政府のスタンスに基づいています。
- Fair Consideration Framework (FCF)に基づく公平な採用の実施が必要
- MyCareersFuture(以下、MCF)での求人広告掲載が必須
求人広告を掲載して、応募の機会を与え、応募があれば、面接で確認をする必要があります。 - 年齢、性別、国籍、人種などによる差別を禁止
1.2 求人広告の要件
- 職務要件と給与を明確に記載
- 差別的表現の禁止
- 給与レンジは、最大額が最小額の2倍を超えない
- MCFで最低14日間の連続掲載が必要
- 3ヶ月以上経過した広告は使用不可
1.3 MCF広告免除条件
以下の場合、MCFの広告掲載が免除されます。
- 従業員10人未満の企業
- 月給22,500SGD以上の職位のEP申請の場合
- 1か月以下の短期職位
- シンガポー内の他グループ法人からの異動の場合
2. 雇用パス(EP)の要件
EPを申請する場合には、以下の要件を満たす必要があります。
2.1 給与要件
- 一般業種:最低月給5,600SGD
- 金融業界:最低月給6,200SGD
45歳以上:
- 一般業種:10,700SGD
- 金融業界:11,800SGD
なお、EP更新の場合には、2025年1~12月の期間は、S$5,000(金融セクター5,500)
2.2 COMPASS評価要件
2.1の最低給与要件を満たしたうえで、各申請者について、以下の要件を満たす必要があります。詳細は、別記事「シンガポール就労ビザ認定制度(COMPASS制度)について」をご参照ください。
- 各申請者につき、各評価項目において、それぞれ合計40ポイント以上が必要
基本の評価項目は、 「C1:給与」「C2:学歴」「C3:国籍多様性」「C4:ローカルの採用」の4項目。
追加項目として、「C5:スキルボーナス(人材不足職種リスト)」「C6:戦略的経済優先ボーナス」は、該当すれば、ボーナスポイントとして加算されます。
EP申請時に、上記項目におけるポイントが、合計40ポイントを上回る必要があります。 - 「C1:給与」EP申請者の固定給与・手当額が、申請者の年齢、業種ごとのシンガポールローカルPMET(Professionals, Managers, Executives, and Technicians)の給与ベンチマークと比較されます。上位90%以上で、20ポイント、上位65~90%未満で、10ポイント
- 「C2:学歴」EP申請者の学歴が、トップティアの教育機関の学歴の場合には20ポイント(MOMのサイト上で公表されている、日本の大学では、東京大学、京都大学、東京工業大学(東京科学大学)、大阪大学、東北大学、早慶のMBAコース)、学士の場合には10ポイント
なお、学歴認証は、第三者機関による認証が必要となりました。当該認証機関に、卒業した大学の事務局から卒業証明書を直接郵送してもらい、卒業証明書の認証が必要です。 - 「C3:国籍多様性」EP申請者の国籍が、既存社員の国籍構成において5%未満であれば高得点が付与されます。期待値を上回る場合、20ポイント、期待値に沿う場合、10ポイント
- 「C4:ローカルの採用」スポンサー企業が、同業他社よりもローカル雇用が多い場合、高得点となります。期待値を上回る場合、20ポイント、期待値に沿う場合、10ポイント。
免除対象:
- 月給22,500SGD以上
- 企業グループ内転勤者
- 1か月以下の短期就労
2.3 その他要件
シンガポール居住住所
EP申請者は、シンガポール居住住所が必要です。サービスアパートメントでも申請は可能ですが、EP承認後に、転居された場合、MOMへのアップデートが必要です。
シンガポール携帯電話番号
EP申請者は、シンガポール携帯電話番号が必要です。
3. EPの申請プロセス
MCFでの掲載を終了したあとのEPの申請プロセスは以下の通りです。
3.1 必要書類
- パスポート(氏名相違の場合は説明レター必要)
- 企業(EP申請のスポンサー)のACRA登録情報
- 資格証明の認証証明(該当する場合)
- 英語以外の書類は英訳添付
3.2 申請手順
- 1. オンラインでの申請
- MOMの審査・承認(通常10営業日以内)
- MOMによるIPA(承認書)発行
- シンガポール入国準備
- EPカード発行手続き
- MOMでの指紋・写真登録
- カード受取り(5営業日以内)
4. 入国要件
EPの申請が承認され、IPAが発行されたあと、EPカードの発行を受けるために、シンガポールに入国します。その際の注意点は以下のとおりです。
4.1 基本要件
- パスポート有効期限:最低6ヶ月
日本国のパスポートは、2025年3月24日以降は、パスポートの偽変造対策を強化するため、人定事項ページにプラスチック基材を用いた「2025年旅券」の発給が開始されます。このため、申請から交付まで1か月程度の日数を要することが見込まれますので、ご注意ください。
- 必要な場合は、ビザ申請(日本国籍の場合)
- SG Arrival Card(SGAC)の提出(オンラインにて、ICAの専用Webページ)
- 公衆衛生要件の確認
- 申告要件の確認
5. EP発行後のアップデート
EP発行の前提条件が変わった場合には、MOMへの変更申請が必要です。
5.1 変更届出事項
- 給与・職種の変更
給与の減額で、申請した給与額を下回る給与改定を行う場合、MOMでの事前の承認が必要。 - 企業情報の変更
- 個人情報の変更
- EP保持者の行方不明
5.2 EPの更新
- 有効期限6ヶ月前から申請可能
- 最長3年間の更新
- 費用:225 SGD(+複数回入国ビザ30 SGD)
- MCF広告免除条件の確認と、免除されない場合、求人条件の掲載と対応
- 最低給与要件の確認
- COMPASS要件の確認
ローカル雇用がない、あるいは、非常に少ないという理由で、EP更新ができなくなるわけではなく、あくまで、COMPASSの要件を満たす申請かどうかを分析することが重要です。
なお、学歴認証は、第三者機関による認証が必要となりました。当該認証機関に、卒業した大学の事務局から卒業証明書を直接郵送してもらい、卒業証明書の認証が必要です。 - シンガポール法人(EPスポンサー企業)の財務状況(売上高等)が、EP申請者に今後EPの条件を満たす給与を支給し続けられるかどうか等の確認
5.3 EPカードの再発行
- 紛失・盗難の場合:100SGD(初回)、300SGD(2回目以降)
- 破損の場合:60SGD
- 1週間以内に申請必須
5.4 EPの取消し
- 退職後1週間以内に手続き
- 未払給与の清算
- 個人所得税の清算(Form 21)
- 家族用パスも同時に取消
- 帰国の手配
6. 重要な注意事項
- EPカードは半分に切って廃棄
- オーバーステイは罰金の対象
- STVP(短期滞在パス)申請で最大90日の滞在延長可能
- シンガポール滞在中は有効な滞在資格の維持が必須
(注)上記取扱いは、出稿当時のもので、最新実務と異なる場合がありますので、ご注意ください。
錦戸 傑宜(Nishikido Takanobu) / AVIC NAC PTE LTD
シンガポールにて、シンガポールとマレーシアの日系企業のASEAN進出および事業展開支援に特化したサービスを提供しています。日本の公認会計士として、Big4での監査経験、12年以上のスタートアップのCFO経験を持ち、EC、Fintech、IoT/AI、エネルギー、創薬など、幅広い業界での実務経験を有しています。日本での実務経験とシンガポールでの実務知識を組み合わせ、現地法人設立から、会計・税務対応、内部統制構築、資金調達まで、包括的なビジネスサポートを行っています。特に、日本とシンガポールの商習慣や制度の違いを熟知し、両国の架け橋となることで、クライアントの円滑な海外展開を支援しています。