以下は、日系企業がJS-SEZ(Johor–Singapore Special Economic Zone)に進出する場合の実務フローを、日本から新規進出するケース、すでにシンガポールに進出済みの日系企業が拡張するケースに分けて、問い合わせ窓口/誰にコンサルを依頼すべきかまで含めて整理したものです。
目次
- 1.日本からJS-SEZに「新規進出」する場合の流れ [1]
- ① 初期検討フェーズ(日本国内) [2]
- ② 制度・立地の具体化フェーズ(SG / Johor) [5]
- ⑤ 法人設立・認可フェーズ(マレーシア) [12]
- 実務作業 [13]
- この段階で必須の専門家 [14]
- ⑥ 人材・稼働開始フェーズ [15]
- 実務作業 [16]
- 2.「シンガポール進出済み日系企業」がJS-SEZへ展開する場合 [17]
- ① シンガポールHQ内での内部検討 [18]
- 検討内容 [19]
- ② シンガポール側の公式窓口 [20]
- ③ Johor側との並行協議 [23]
- ④ 税務・法務ストラクチャリング(最も重要) [26]
- ⑤ 実装・移管フェーズ [29]
- ① シンガポールHQ内での内部検討 [18]
1.日本からJS-SEZに「新規進出」する場合の流れ
① 初期検討フェーズ(日本国内)
この段階では、マレーシア当局に直接行かないのが一般的です。もちろん、具体的な制度や立地の検討段階ではInvest JohorやMIDAへの問い合わせが必要になる場合があります。
主な検討事項
- 事業目的(製造/SSC/IT・DC/物流など)
- なぜ「シンガポール単独ではなくJS-SEZか」
- 投資規模・人員規模・タイムライン
相談先
日本国内
- JETRO(日本貿易振興機構)
- 日系会計事務所・コンサル(ASEAN進出経験必須)
- 取引銀行(MUFG、SMBC、みずほ等)
② 制度・立地の具体化フェーズ(SG / Johor)
ここからマレーシア政府機関の公式窓口への相談が始まります。
主な問い合わせ先(一次窓口)
- Invest Johor(IMFC-J)
→ ジョホール州のワンストップ投資窓口 - MIDA(Malaysia Investment Development Authority)
IMFC-Jは、IRDA、MIDA、Invest Johorの3機関が共同で運営しており、それぞれの強みを活かして以下のように連携しています。
- IRDAが地域開発やインフラ整備を主導し、投資家が必要とする基盤を提供。
- MIDAが連邦レベルでの政策策定やインセンティブ管理を担当し、国際的な投資誘致を推進。
- Invest Johorがジョホール州の現地窓口として、投資家に対する直接的なサポートを提供。
- IMFC-Jがこれらの機関を統括し、投資プロセス全体を一元化して管理。
ここで整理する内容
- JS-SEZの対象ゾーン(どこに立地するか)
- 対象インセンティブ(5%法人税等)の該当可否
- 必要なライセンス・製造認可
(注)IMFC-J、IRDA、MIDAの役割分担
① IMFC-Jの役割
IMFC-Jは、JS-SEZ(Johor-Singapore Special Economic Zone)における投資促進の「司令塔」として機能し、以下の役割を担っています。
- 投資プロセスの一元化:
- 投資申請、承認、投資後のフォローアップ、再投資支援など、投資に関するプロセス全体を一元的に管理。
- 各種行政手続きの簡素化と迅速化を実現し、投資家が複数の機関を個別に訪問する必要を排除。
- 投資家支援の窓口:
- 投資家に対し、ジョホール州の経済、政策、エコシステムに関する戦略的な洞察やカスタマイズされたソリューションを提供。
- 高度なサポートを通じて、投資家のプロジェクトが計画から実行までスムーズに進むよう支援。
- 連携のハブ:
- IRDA、MIDA、Invest Johorなどの関連機関と連携し、投資家に対して包括的なサポートを提供。
② IRDA(Iskandar Regional Development Authority)の役割
IRDAは、ジョホール州のイスカンダル地域における開発を統括する機関であり、以下の役割を果たします。
- 地域開発の計画と実行:
- イスカンダル地域のインフラ整備や都市計画を主導し、JS-SEZの基盤を整備。
- 高付加価値産業(先端製造業、デジタル技術、持続可能な開発など)の誘致を支援。
- 投資プロジェクトの実現支援:
- 投資家が直面する課題を解決し、プロジェクトの実現をサポート。
- 投資家が必要とするインフラやサービスを計画段階から提供。
③ MIDA(Malaysian Investment Development Authority)の役割
MIDAは、マレーシア全体の投資促進を担う連邦政府機関であり、以下の役割を果たします。
- 投資政策の策定と実施:
- マレーシア全体の投資政策を策定し、JS-SEZにおける税制インセンティブ(法人税5%、知識労働者向け個人税15%など)の適用を管理。
- プロジェクトの実行支援:
- IMFC-Jと連携し、プロジェクトの実行を円滑化するためのTRACK(Project Implementation and Facilitation Office)を運営。
- 投資家が必要とするライセンスや認可の取得を支援。
- 国際的な投資誘致:
- マレーシア全体の投資環境を国際的にアピールし、JS-SEZへの投資を促進。
④ Invest Johorの役割
Invest Johorは、ジョホール州政府の投資促進機関として、以下の役割を担います。
- ジョホール州の投資促進:
- ジョホール州の投資環境を国内外にアピールし、投資家を誘致。
- 現地サポートの提供:
- 投資家に対し、ジョホール州の政策やエコシステムに関する詳細な情報を提供。
- 投資家がジョホール州での事業を円滑に開始できるよう、現地でのサポートを提供。
⑤ 法人設立・認可フェーズ(マレーシア)
実務作業
- マレーシア法人設立
- 製造ライセンス/MSC/GSH認定等
- インセンティブ申請
この段階で必須の専門家
- マレーシアの会計・税務・会社秘書役事務所
- 日系またはBig4(日本本社対応経験が重要)
具体的な専門家の選定にあたっては、以下の基準が参考になります。
- ASEAN進出経験が豊富で、現地規制や税制に精通している。
- 税務ストラクチャリングやインセンティブ活用の実績がある。
- 日本本社との連携経験があり、日本の税制や企業文化を理解している。
- 国際税務プロジェクト経験がある。
- 対象業界(製造業、IT、物流など)に特化した知見を持つ。
- プロジェクトマネジメント能力が高く、複雑な案件を統括できる。
- ESG対応の知識を持ち、持続可能な投資計画を支援できる。
⑥ 人材・稼働開始フェーズ
実務作業
- 駐在員・ローカル採用
- EP(就労ビザ)/PVIP(プロジェクトベースの就労・滞在ビザ)/DE Rantau等の検討
- 日本本社・現地との役割分担明確化
2.「シンガポール進出済み日系企業」がJS-SEZへ展開する場合
実務上はこちらのケースが圧倒的に多いものと思われますが、以下の手順で進められることが想定されます。
① シンガポールHQ内での内部検討
検討内容
- SG法人のどの機能をJohorに移すか
- 製造
- SSC/BPO
- DC/IT運用
- SG側に残す機能(HQ・契約・IP等)
※ここで、PE、TP、GSTにかかる論点(前述)が必ず出てきます。
② シンガポール側の公式窓口
問い合わせ・相談先
- EDB(Economic Development Board, Singapore)
- 既存のEDB担当官
EDBの役割
- SG HQとしての位置づけ整理
- Johor展開がSG拠点の「空洞化」ではなく、機能高度化であることを整理
③ Johor側との並行協議
Johor側窓口
- Invest Johor(IMFC-J)
- MIDA Johor Office
ここでの焦点
- SG HQ × Johor Ops の役割分担
- 税制インセンティブ適用可能性
- 越境人材・物流の実務
※SGとMYの当局を“同時に”見る必要がある。
④ 税務・法務ストラクチャリング(最も重要)
必須の専門家
- Big4(SG+MY両方)
- 日系会計事務所(日本本社説明用)
具体論点
- PE(恒久的施設)リスク
- 移転価格(TP)
- GST / SST
- 日本側税制(タックスヘイブン対策等)
※この工程を飛ばすと、後で必ず問題になります。
⑤ 実装・移管フェーズ
- Johor法人設立
- 段階的な機能移管
- 価格・契約・人事の調整