目次
- 税負担軽減 [1]
- マレーシア進出は本当に節税になりますか? [2]
- 税制優遇の要件を満たせるか [3]
- 優遇を受けられない場合の税負担 [4]
- マレーシア子会社に十分な利益が帰属するか [5]
- 日本側での課税を考慮しているか [6]
- 進出・運営コストを考慮しているか [7]
- 結論として [8]
- ラブアン法人 [9]
- ラブアン法人は検討すべきですか? [10]
- ラブアン法人の特徴 [11]
- 実質要件(Substance Requirements)の厳格化 [12]
- マレーシア国内取引の制限 [13]
- 国際的な規制強化 [14]
- 日本の税務当局の視点 [15]
- 結論として [16]
- シンガポール経由とマレーシア直接進出、どちらが良いですか? [17]
- シンガポール経由進出のメリット [18]
- シンガポール経由進出のデメリット [19]
- マレーシア直接進出のメリット [20]
- マレーシア直接進出のデメリット [21]
- 検討のポイント [22]
- 結論として [23]
- まとめ [24]
- 論点①:税務(PE・源泉税・税制優遇) [25]
- 論点②:人件費・駐在員・労働許可 [26]
- 論点③:会計・SST・連結 [27]
- 論点④:監査・ガバナンス [28]
- 論点⑤:進出前にやるべき実務準備 [29]
- 【初回無料】マレーシア進出の論点整理ミーティング [30]
税負担軽減
マレーシア進出は本当に節税になりますか?
「マレーシアは税制優遇が豊富だから節税になる」という認識は、必ずしも正確ではありません。
確かに、マレーシアにはパイオニアステータス、MSCステータス、投資税額控除など、多様な税制優遇制度があります。これらを適切に活用すれば、実効税率をシンガポール(17%)以下に抑えられる可能性もあります。しかし、「節税になるかどうか」は、以下の要素を総合的に検討する必要があります。
税制優遇の要件を満たせるか
各優遇制度には厳格な要件があります。事業内容、投資額、雇用人数、事業開始時期など、複数の条件をすべて満たす必要があり、「申請すれば受けられる」というものではありません。
また、優遇期間中も継続的に要件を満たしていることが求められ、定期報告・監査も必要です。要件を満たさなくなった場合、優遇の取消・遡及適用のリスクがあります。
優遇を受けられない場合の税負担
税制優遇を受けられない場合、マレーシアの標準法人税率は24%であり、シンガポール(17%)より高くなります。「優遇が受けられると思っていたが、要件を満たしていなかった」という場合、想定より税負担が増加することになります。
マレーシア子会社に十分な利益が帰属するか
移転価格税制の観点から、マレーシア子会社に帰属する利益は、その会社が担う機能・リスク・使用する資産に見合ったものでなければなりません。
税制優遇があるからといって、マレーシア子会社に不相応な利益を集中させることは、日本側・マレーシア側双方で移転価格課税のリスクを生じさせます。
日本側での課税を考慮しているか
マレーシア子会社が稼いだ利益を日本本社に還流させる場合、配当として受け取ることになります。日本では外国子会社配当益金不算入制度により、一定の要件を満たせば配当の95%が益金不算入となりますが、5%は課税対象です。
また、タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)の適用を受ける場合、マレーシア子会社の利益が日本本社の所得に合算される可能性があります。マレーシアの標準税率は24%であり、タックスヘイブン対策税制の租税負担割合基準(20%以上)は満たしますが、税制優遇により実効税率が大幅に下がっている場合は、経済活動基準の充足が重要になります。
進出・運営コストを考慮しているか
マレーシア子会社の設立・維持には、設立費用、監査費用、会社秘書役費用、会計・税務費用、オフィス賃料、人件費など、相応のコストがかかります。
税制優遇による節税効果が、これらのコストを上回らなければ、トータルではマイナスになる可能性があります。
結論として
マレーシア進出が節税になるかどうかは、ケースバイケースです。税制優遇の活用可能性が高いことはマレーシアの魅力ですが、要件の充足、移転価格税制、日本側での課税、運営コストを総合的に検討する必要があります。
進出の目的は、節税だけでなく、事業上の合理性(コスト競争力、市場アクセス、サプライチェーンの最適化など)を含めて検討すべきです。税務上のメリット・デメリットについては、進出前に日本・マレーシア双方の税務に詳しい専門家に相談することを推奨します。
ラブアン法人
ラブアン法人は検討すべきですか?
数年前まで、日本人の起業家や富裕層がラブアン法人を設立していたケースはスタンダードだったようですが、今では活用されることが以前ほどではなくなりました。
ラブアン(Labuan)は、マレーシア・ボルネオ島沖に位置する連邦直轄領で、国際ビジネス・金融センターとして特別な税制が設けられています。「ラブアン法人を使えば節税できる」という情報を目にした方もいるかもしれません。
ラブアン法人の特徴
ラブアン法人には、以下のような税制上の特徴があります。
- ラブアン事業活動税法(LBATA)に基づく課税
- 取引活動(Trading Activity):純利益の3%または年間RM20,000の選択
- 非取引活動(Non-Trading Activity):非課税
一見すると非常に魅力的な税制に見えますが、以下の点に注意が必要です。
実質要件(Substance Requirements)の厳格化
2019年以降、ラブアン法人に対する実質要件が大幅に強化されました。
- ラブアン島内でのフルタイム従業員の雇用(最低2名、業種により増加)
- ラブアン島内での年間営業支出(最低RM50,000、業種により増加)
- ラブアン島内での経営管理・意思決定
これらの要件を満たさない場合、通常のマレーシア法人税率(24%)が適用されます。「ペーパーカンパニー」としてラブアン法人を設立しても、税制上のメリットは得られません。
マレーシア国内取引の制限
ラブアン法人は、原則としてマレーシア国内(ラブアン以外)の居住者との取引が制限されています。マレーシア市場向けの事業を行う場合、ラブアン法人は適切な選択肢とはいえません。
国際的な規制強化
OECD/G20のBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトにより、各国の「有害な租税慣行」に対する監視が強化されています。ラブアン税制も見直しの対象となっており、将来的に税制が変更される可能性があります。
また、EUはラブアンを「タックスヘイブンのグレーリスト」に掲載していた時期があり、国際的な評判リスクも考慮する必要があります。
日本の税務当局の視点
日本の税務当局は、海外の軽課税地域を利用した租税回避に対して厳格な姿勢を取っています。ラブアン法人を利用する場合、タックスヘイブン対策税制の適用、移転価格税制の厳格な適用など、日本側での税務リスクが高まる可能性があります。
結論として
ラブアン法人は、特定の事業(持株会社、国際取引、金融サービスなど)において、実質要件を満たせる場合に限り、検討の余地があります。
しかし、日本企業のマレーシア進出において、ラブアン法人が最適な選択となるケースは限定的です。「節税のためにラブアン」という安易な発想は危険であり、事業上の合理性、実質要件の充足可能性、日本側での税務リスクを総合的に検討する必要があります。
ラブアン法人の活用を検討する場合は、マレーシア・日本双方の税務に精通した専門家に相談し、メリット・デメリットを慎重に評価することを強く推奨します。
シンガポール経由とマレーシア直接進出、どちらが良いですか?
日本企業のASEAN進出において、「シンガポールに地域統括会社を設立し、そこからマレーシアに子会社を設立する」パターンと、「日本から直接マレーシアに子会社を設立する」パターンのどちらが良いか、という質問をよく受けます。
結論から言えば、「どちらが良いか」は事業目的・規模・将来計画によって異なり、一概には言えません。それぞれのメリット・デメリットを整理します。
シンガポール経由進出のメリット
- 地域統括機能の集約:ASEAN複数国に展開する場合、シンガポールに地域統括会社を置き、各国子会社を管理する体制が効率的な場合がある
- 資金管理の効率化:シンガポールを資金プーリングの拠点とし、グループ内の資金融通を効率化できる可能性
- 人材確保:シンガポールは英語人材、専門人材の確保がしやすい
- 将来のM&A・組織再編:シンガポールの持株会社を通じた株式売却・買収が、キャピタルゲイン非課税の恩恵を受けられる可能性
シンガポール経由進出のデメリット
- コスト増:シンガポールとマレーシアの2法人を維持するコストがかかる
- 複雑な構造:グループ内取引が複雑化し、移転価格管理の負担が増加
- シンガポールの実質要件:シンガポールの地域統括会社に実態がないと、税制上の優遇が得られない、または各国で問題視される可能性
- 二重の源泉税:日本→シンガポール→マレーシアの資金・取引の流れで、源泉税が二重に発生する可能性
マレーシア直接進出のメリット
- シンプルな構造:日本本社とマレーシア子会社の二者間関係で、管理がシンプル
- コスト効率:1法人の維持コストで済む
- 税制優遇の直接享受:マレーシアの税制優遇をマレーシア子会社が直接受けられる
- 配当の効率的な還流:マレーシアから日本への配当は、租税条約により源泉税が免除される場合がある
マレーシア直接進出のデメリット
- 地域展開の非効率:将来的にASEAN他国へ展開する場合、各国子会社が日本本社の直接子会社となり、管理が煩雑になる可能性
- 資金管理:マレーシアリンギットの為替管理規制により、資金の自由な移動に制約がある場合がある
検討のポイント
以下の点を考慮して判断することを推奨します。
- ASEAN展開の範囲:マレーシアのみか、複数国への展開を予定しているか
- 事業規模:シンガポール法人を維持するコストに見合う規模か
- シンガポールの実質:シンガポールに実態のある機能(人員、意思決定)を置けるか
- 資金の流れ:グループ内の資金フローはどうなるか
- 将来の出口戦略:M&A、事業売却の可能性はあるか
結論として
マレーシア単独での事業展開を予定している場合、日本からの直接進出がシンプルでコスト効率も良い場合が多いでしょう。
一方、ASEAN複数国への展開を予定しており、シンガポールに実態のある地域統括機能を置ける規模・体制がある場合は、シンガポール経由の構造が効率的な場合もあります。
いずれにしても、「とりあえずシンガポール経由」「シンガポールは税率が低いから」という安易な判断ではなく、事業計画・グループ構造・税務影響を総合的に検討した上で決定することが重要です。この判断には、日本・シンガポール・マレーシアの税務・法務に詳しい専門家のアドバイスを受けることを推奨します。
まとめ
本シリーズでは、マレーシア進出時に日本企業が最初に検討すべき5つの論点を整理しました。
論点①:税務(PE・源泉税・税制優遇)
日本本社の関与の仕方によっては、マレーシアでPE認定を受けるリスクがあります。また、マレーシアには多様な税制優遇制度がありますが、要件は厳格であり、「申請すれば受けられる」ものではありません。進出前に、PE リスクの評価、税制優遇の活用可能性、源泉税の影響を検討することが重要です。
論点②:人件費・駐在員・労働許可
駐在員派遣に伴う人件費リチャージは、移転価格税制の観点から計算根拠の明確化が必要です。また、マレーシアの労働許可(Employment Pass)は審査が厳格化しており、取得スケジュールに余裕を持った計画が求められます。社会保険(EPF・SOCSO・EIS)の制度も理解しておく必要があります。
論点③:会計・SST・連結
マレーシアの間接税(SST)は、シンガポールのGSTとは仕組みが根本的に異なります。課税対象の判断、登録義務の確認を進出前に行う必要があります。また、会計基準(MFRS)と日本基準の差異、機能通貨の判断、連結決算への取り込み方法についても、日本本社と事前に整理しておくことが重要です。
論点④:監査・ガバナンス
マレーシアでは原則としてすべての会社に監査義務があり、会社秘書役の選任も法律上必須です。シンガポールより要件が厳格な面があり、設立前に監査人・会社秘書役の選定、取締役構成の検討を行う必要があります。
論点⑤:進出前にやるべき実務準備
グループ内取引に関する契約書の整備、進出形態の選択、会計事務所との事前整理は、将来のリスクを軽減するための投資です。マレーシアでは移転価格文書化が義務付けられており、契約書・価格設定根拠の整備は特に重要です。
マレーシアは、シンガポールと地理的に近く、ともに英語圏という共通点がありますが、税制・会計・労務の仕組みは大きく異なります。「シンガポールと同じだろう」という思い込みは、思わぬ落とし穴につながる可能性があります。
本記事の目的は、読者の皆さまが「自社にはどのようなリスクや検討事項があるか」を把握し、適切なタイミングで専門家に相談できる状態になることでした。
一つでも「自社に該当しそうだ」「詳しく確認したい」と感じた論点があれば、進出前の段階で専門家に相談されることを推奨します。進出後に問題が顕在化してから対応するよりも、進出前に論点を整理しておく方が、時間的にも金銭的にも効率的です。
マレーシア進出が、皆さまの事業成長に寄与することを願っております。
【初回無料】マレーシア進出の論点整理ミーティング
「税制優遇は使えるのか」「シンガポール経由と直接進出、どちらが良いか」「移転価格対応は何から始めるべきか」など、個別の状況に応じた論点整理をサポートします。営業目的ではなく、判断に必要な情報を整理することを目的としたミーティングです。マレーシア進出に精通した日本人専門家が対応いたします。
(注)本記事は掲載時点の情報に基づき、一般論として執筆しております。法令等は改正される場合がありますので、実務に適用される際は、最新情報のご確認および専門家へのご相談 [31]をお勧めいたします。