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マレーシア進出で日本企業が最初に検討すべき5つの論点(6)~論点⑤ 進出前にやるべき実務準備~ 最低限整備すべき契約書

マレーシア子会社を設立する際、会社設立の登記書類や定款は当然準備されますが、日本本社との取引関係を規律する契約書が整備されていないケースが少なくありません。

マレーシアでは移転価格税制が厳格に運用されており、グループ内取引の契約書・価格設定根拠は税務調査で必ず確認されます。進出前、遅くとも設立直後には以下の契約書を整備しておくことを推奨します。

1. インターカンパニー・サービス・アグリーメント(グループ内役務提供契約)

日本本社がマレーシア子会社に対して提供するサービス(経営管理、人事、経理、IT、法務などの本社機能)について、サービス内容・対価・支払条件を定める契約です。

マレーシアでは、移転価格文書化の要件として、グループ内サービスについて「便益テスト(Benefit Test)」を満たすことが求められます。すなわち、マレーシア子会社が当該サービスから実際に便益を受けていることを立証する必要があります。

契約書には以下を明記します。

2. 出向契約書・派遣契約書

日本本社から駐在員を派遣する場合、出向元(日本本社)・出向先(マレーシア子会社)・出向者の三者間の関係を明確にする契約が必要です。

契約書には以下を定めます。

マレーシアの労働許可(Employment Pass)申請時には、雇用契約の内容が確認されます。出向契約書の内容とEP申請内容の整合性を確保しておく必要があります。

3. 売買契約書・取引基本契約書

日本本社とマレーシア子会社の間で商品・製品の売買が発生する場合、取引条件を定める契約が必要です。

契約書には以下を定めます。

マレーシアでは移転価格文書化が義務付けられており(年間売上高RM25百万超の会社)、売買取引の価格設定根拠を文書化しておく必要があります。契約書だけでなく、価格設定の経済的合理性を説明するベンチマーク分析なども準備しておくことが望ましいでしょう。

4. 知的財産ライセンス契約(該当する場合)

日本本社が保有する商標、特許、ノウハウなどをマレーシア子会社が使用する場合、ライセンス契約が必要です。

契約書には以下を定めます。

ロイヤルティの支払いは、マレーシアでの源泉税(10%、租税条約適用後)、日本での収益計上、移転価格税制のすべてに関係します。ロイヤルティ料率の妥当性を説明できる根拠資料(比較対象取引の分析など)も準備しておくことが重要です。

5. 資金貸借契約(該当する場合)

日本本社からマレーシア子会社に貸付を行う場合、金銭消費貸借契約が必要です。

契約書には以下を定めます。

マレーシアでは、過少資本税制(Thin Capitalisation Rules)は廃止されていますが、利子控除制限(Earnings Stripping Rules)が導入されています。関連者からの借入に係る支払利息について、一定の制限が課される場合があり、資金調達の構造を検討する際に考慮が必要です。

契約書整備の実務上のポイント

進出形態の選択(現地法人・支店・駐在員事務所)

マレーシアへの進出形態には、主に「現地法人(子会社)」「支店」「駐在員事務所」の3つがあります。進出目的・事業内容に応じて、適切な形態を選択する必要があります。

現地法人(子会社)

日本本社とは別の法人格を持つ会社をマレーシアに設立する形態です。日本企業のマレーシア進出では、最も一般的な選択肢です。

メリット:

デメリット:

支店(Branch)

日本本社の一部門としてマレーシアで営業活動を行う形態です。

メリット:

デメリット:

支店形態は、建設プロジェクトや期間限定の事業など、特定の目的で選択されることがありますが、長期的な事業展開には現地法人の方が適している場合が多いです。

駐在員事務所(Representative Office)

市場調査、情報収集、連絡業務など、営業活動を伴わない業務のみを行う形態です。

メリット:

デメリット:

駐在員事務所は、マレーシア市場の調査段階や、将来の本格進出に向けた準備段階で選択されることがあります。ただし、実質的に営業活動を行っていると判断された場合、PE認定・課税のリスクがあるため注意が必要です。

進出形態選択のポイント

進出形態の選択にあたっては、以下の点を考慮する必要があります。

多くの日本企業にとって、長期的な事業展開を前提とする場合は「現地法人」が最も適切な選択となります。

進出前に会計事務所と整理すべき事項

マレーシア進出にあたり、現地の会計事務所(または日系会計事務所のマレーシア拠点)に依頼する業務は多岐にわたります。設立代行、記帳代行、税務申告、監査、会社秘書役サービスなど、必要なサービスを選定する前に、以下の事項を整理しておくと、会計事務所との打ち合わせがスムーズに進みます。

1. 事業計画・取引フローの概要

マレーシア子会社がどのような事業を行い、どのような取引が発生するかの概要を整理します。

これらの情報をもとに、会計事務所は必要なサービス、想定される税務リスク、適用可能な税制優遇などを検討できます。

2. 税制優遇の活用可能性

マレーシアには多様な税制優遇制度があります。自社の事業内容がこれらの優遇制度の対象となり得るかを事前に検討しておきます。

税制優遇の申請は、原則として事業開始前に行う必要があります。進出後に「優遇を受けられると思っていた」と気づいても、遡及適用は認められない場合が多いです。

3. グループ内取引の内容と価格設定方針

日本本社との取引がある場合、その内容と価格設定の考え方を整理します。

マレーシアでは移転価格文書化が義務付けられており(年間売上高RM25百万超)、グループ内取引の価格設定根拠を文書化する必要があります。進出前の段階で、移転価格ポリシーの方向性を検討しておくことが重要です。

4. 日本本社の連結決算上の要請

日本本社の経理部門・監査法人から、マレーシア子会社に対してどのような報告が求められるかを確認します。

これらの要請を現地の会計事務所に伝え、対応可能な体制を構築してもらう必要があります。

5. 監査・会社秘書役の選定方針

マレーシアでは原則として監査が必要であり、会社秘書役の選任も義務付けられています。

日本本社が上場企業の場合、グループ監査の観点から、親会社監査人のネットワークファームを選定することが求められる場合があります。

6. 記帳・経理体制の方針

マレーシア子会社の経理業務をどのように運営するかを検討します。

設立初期は会計事務所へのアウトソースが一般的ですが、事業拡大に伴い内製化を検討する企業も多いです。

7. 労働許可・人事関連

駐在員の派遣を予定している場合、労働許可の取得支援を会計事務所に依頼するか、別途専門業者に依頼するかを検討します。

一部の会計事務所では、労働許可取得支援もサービスとして提供しています。

8. 予算・コスト感

会計・税務・監査・会社秘書役サービスにかけられる予算を明確にしておきます。

マレーシアの会計事務所の報酬水準は、シンガポールと比較すると若干低い傾向にありますが、サービス内容・会社の規模に応じて年間数十万円から数百万円の費用が発生します。

「安さ」だけで選定すると、サービス品質の問題や、日本語対応の不備などが生じる可能性があります。必要なサービス品質と予算のバランスを考慮した選定が必要です。

進出前の準備は、「面倒な事務作業」ではなく、「将来のリスクを軽減するための投資」です。契約書の整備、進出形態の検討、会計事務所との事前整理に時間をかけることで、設立後の税務調査・監査で問題が発覚するリスクを大幅に低減できます。

シンガポールと比較して、マレーシアは税制優遇の活用可能性が高い反面、移転価格税制の厳格な運用、監査義務、会社秘書役の要件など、対応すべき事項も多くあります。「シンガポールと同じだろう」という思い込みを捨て、マレーシア特有の要件を理解した上で準備を進めることが重要です。

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「税制優遇は使えるのか」「シンガポール経由と直接進出、どちらが良いか」「移転価格対応は何から始めるべきか」など、個別の状況に応じた論点整理をサポートします。営業目的ではなく、判断に必要な情報を整理することを目的としたミーティングです。マレーシア進出に精通した日本人専門家が対応いたします。

(注)本記事は掲載時点の情報に基づき、一般論として執筆しております。法令等は改正される場合がありますので、実務に適用される際は、最新情報のご確認および専門家へのご相談をお勧めいたします。