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マレーシア進出で日本企業が最初に検討すべき5つの論点(5)~論点④ 監査・ガバナンス~

マレーシアで監査が必要になる条件

マレーシアの会社法(Companies Act 2016)では、原則としてすべての会社に監査義務があります。この点は、一定の要件を満たす小規模会社に監査免除が認められるシンガポールとは大きく異なります。

監査免除の例外

監査義務の例外として認められるのは、以下のカテゴリーに該当する会社のみです。

1. 休眠会社(Dormant Company)

会計期間中に会計取引がない会社は「休眠会社」として監査が免除されます。ただし、「会計取引がない」とは非常に厳格な要件であり、銀行口座の利息収入や為替差損益が発生しただけでも休眠会社とは認められません。

実務上、日本企業のマレーシア子会社が休眠会社の要件を満たすことは稀です。

2. 一定の基準を満たす免除非公開会社(Exempt Private Company)

2017年の法改正により、以下の3つの基準のうち2つ以上を満たし、かつ一定の追加要件を満たす非公開会社は監査免除の申請が可能となりました。

ただし、この免除を受けるためには追加の要件があります。

日本企業のマレーシア子会社は原則として監査が必要

上記のとおり、日本本社が出資するマレーシア子会社は、監査免除の要件を満たさないケースがほとんどです。進出計画の段階で、監査費用・監査対応の工数を事業計画に織り込んでおく必要があります。

マレーシアの監査費用は、シンガポールと比較すると若干低い傾向にありますが、会社の規模・取引の複雑さに応じて年間数十万円から数百万円程度を見込んでおくべきでしょう。

会社秘書役(Company Secretary)の役割

マレーシアでは、すべての会社に会社秘書役(Company Secretary)の選任が法律上義務付けられています。会社秘書役は、会社設立から30日以内に選任し、SSM(会社委員会)に届け出る必要があります。

会社秘書役の資格要件

マレーシアでは、会社秘書役の資格要件が厳格に定められています。以下のいずれかに該当する者でなければ、会社秘書役になることができません。

シンガポールにも会社秘書役の制度がありますが、マレーシアの方が資格要件が厳格です。日本人駐在員が会社秘書役を兼務することは通常できないため、外部の専門家(会社秘書役サービス会社、会計事務所など)に委託するのが一般的です。

会社秘書役の主な職務

会社秘書役は、単なる「名義貸し」ではなく、会社のコンプライアンス維持において重要な役割を担います。

会社秘書役に関する注意点

以下の点に注意が必要です。

取締役の要件と責任

マレーシアで会社を設立するには、最低1名の取締役が必要です。取締役には以下の要件があります。

居住要件

マレーシア会社法では、少なくとも1名の取締役がマレーシアに「主たる居所(principal or only place of residence)」を有している必要があります。

これは、日本本社の役員がそのまま取締役に就任することはできない(または困難である)ことを意味します。以下のいずれかの対応が必要です。

名義取締役の利用

名義取締役とは、居住要件を満たすために形式的に就任する取締役です。会計事務所や法律事務所が提供するサービスを利用することで、マレーシア居住の取締役要件を満たすことができます。

ただし、名義取締役はあくまで形式的な就任であり、実質的な経営判断は他の取締役(日本本社から派遣された駐在員など)が行うのが通常です。名義取締役との間で、役割・責任・報酬について明確な契約を締結しておく必要があります。

取締役の責任

マレーシア会社法では、取締役に対して以下のような義務・責任が課されています。

取締役が義務に違反した場合、民事責任(損害賠償)のみならず、刑事責任(罰金、禁錮)を問われる可能性もあります。

日本本社役員が取締役を兼務する場合の注意点

日本本社の役員がマレーシア子会社の取締役を兼務するケースは多いですが、以下の点に注意が必要です。

監査で必ず見られるポイント

マレーシアでの監査は、現地の公認会計士(CA:Chartered Accountant)または監査法人が実施します。監査で重点的に確認されるポイントを整理します。

ポイント1:関連当事者取引(Related Party Transactions)

日本本社との取引は、監査上「関連当事者取引」として必ず検証対象となります。

マレーシアでは移転価格税制が厳格に運用されており、監査人も移転価格リスクを重視します。契約書が存在しない、または取引価格の根拠が不明確な場合、監査報告書の強調事項やマネジメントレターで指摘されることがあります。

ポイント2:収益認識

売上の計上時期・金額が会計基準(MFRS第15号)に準拠しているかが確認されます。

製造業の場合、インコタームズ(貿易条件)に基づく所有権移転時期と売上計上時期の整合性も確認されます。

ポイント3:SST(売上税・サービス税)の処理

SSTの課税対象判断、登録義務の履行、申告・納付の正確性が確認されます。

SSTの処理誤りは、追徴課税・ペナルティにつながるため、監査上も重点的に確認されます。

ポイント4:税制優遇の要件充足

パイオニアステータス、MSCステータスなどの税制優遇を受けている場合、その要件を継続して満たしているかが確認されます。

要件を満たしていない場合、優遇の取消・遡及適用のリスクがあり、財務諸表への影響が大きくなる可能性があります。

ポイント5:会社法コンプライアンス

会社法上の義務が履行されているかも確認されます。

これらの不備は、監査報告書の強調事項として記載される可能性があります。

ポイント6:現預金・債権債務の残高確認

銀行残高証明書との照合、売掛金・買掛金の残高確認(Confirmation)が実施されます。日本本社との債権債務残高については、親子間で残高が一致しているかの確認も行われます。

マレーシアリンギットの為替変動が大きい時期には、期末日の換算レートによる残高差異が生じやすく、その原因説明が求められます。

監査・ガバナンスの論点は、シンガポールと比較してマレーシアの方が要件が厳格な面があります。原則として監査が必要であること、会社秘書役の資格要件が厳しいこと、移転価格文書化が重視されることなど、マレーシア特有の要件を理解した上で、適切な体制を構築することが重要です。

進出前の段階で、監査人・会社秘書役の選定、取締役構成の検討、移転価格文書化の方針などを整理しておくことが、設立後のスムーズな運営につながります。

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(注)本記事は掲載時点の情報に基づき、一般論として執筆しております。法令等は改正される場合がありますので、実務に適用される際は、最新情報のご確認および専門家へのご相談をお勧めいたします。