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マレーシア進出で日本企業が最初に検討すべき5つの論点(4)~論点③ 会計・SST・連結~

マレーシア子会社の会計基準(MFRS)

マレーシア子会社の財務諸表は、マレーシア財務報告基準(MFRS:Malaysian Financial Reporting Standards)に準拠して作成するのが一般的です。MFRSは国際財務報告基準(IFRS)と完全に整合しており、実質的にIFRSと同等の内容です。

一方、日本本社は日本基準(J-GAAP)を採用しているケースが多く、ここに会計基準の差異が生じます。この点はシンガポール(FRS)と同様ですが、マレーシア特有の論点も存在します。

主な差異として認識しておくべき点

収益認識

MFRS/IFRSではIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」に基づく5ステップモデルが適用されます。日本基準も収益認識基準が導入されていますが、経過措置や細部の解釈に違いがある場合があります。

リース会計

MFRS/IFRSではIFRS第16号により、原則としてすべてのリースをオンバランス(貸借対照表に資産・負債として計上)する必要があります。マレーシアではオフィス賃貸や車両リースが一般的であり、これらのオンバランス処理が連結決算に影響を与える場合があります。

外貨建取引

マレーシアリンギット(MYR)は、過去に為替管理の対象となった経緯があり、為替レートの変動が比較的大きい通貨です。外貨建取引の換算、期末の外貨建債権債務の評価において、為替差損益が大きく発生する可能性があります。

税効果会計

マレーシアの税制優遇を受けている場合、将来の税率が通常税率に戻ることを前提とした税効果会計の検討が必要になる場合があります。優遇期間中と期間終了後で適用税率が異なるため、繰延税金資産・負債の計算が複雑になります。

マレーシア特有の論点:小規模事業体向け基準(MPERS)

マレーシアでは、一定の要件を満たす小規模事業体(Private Entities)は、MFRSの代わりにMPERS(Malaysian Private Entities Reporting Standard)を適用することができます。MPERSはIFRS for SMEsに基づいており、MFRSより簡素化された基準です。

ただし、日本本社が上場企業の場合、連結決算においてMPERS適用子会社の財務諸表をMFRS/IFRS相当に組み替える必要があります。組替作業の手間を考慮すると、当初からMFRSを適用した方が効率的な場合が多いでしょう。

SST(売上・サービス税)の仕組みと注意点

マレーシアの間接税制度は、シンガポールのGSTとは根本的に異なります。マレーシアでは2018年にGSTが廃止され、SST(Sales and Service Tax)に移行しました。

SSTの基本構造

SSTは「売上税(Sales Tax)」と「サービス税(Service Tax)」の二本立てです。

税目 課税対象 標準税率 課税段階
売上税 製造品・輸入品 10%(一部5%) 製造段階または輸入段階
サービス税 特定のサービス 8% サービス提供段階

GSTとの違い

GSTは「多段階課税・仕入税額控除あり」ですが、SSTは「単段階課税・仕入税額控除なし」です。

具体的には、GSTでは仕入れ時に支払った税額を売上時に受け取った税額から控除できますが、SSTではこの仕入税額控除の仕組みがありません。そのため、製造業では原材料・部品に含まれる売上税が最終製品のコストに累積する「税の累積(カスケード効果)」が生じる可能性があります。

売上税の注意点

売上税は、製造業者または輸入業者が課税対象者となります。年間売上高が一定額(RM500,000)を超える製造業者は、売上税の登録が義務付けられます。

以下の点に注意が必要です。

サービス税の注意点

サービス税は、特定のサービス(ホテル、飲食、専門サービス、通信、駐車場など)を提供する事業者が課税対象者となります。年間売上高が一定額(サービス種類により異なる、一般的にはRM500,000)を超える場合、登録が義務付けられます。

以下の点に注意が必要です。

SSTに関する実務上の誤り

以下のような誤りが実務で見られます。

SSTの制度はGSTより「シンプル」といわれることがありますが、課税対象の判断や登録要件の確認は複雑です。進出前に、自社の事業活動がSSTにどのように影響するかを専門家と整理しておく必要があります。

機能通貨の判断と変更リスク

機能通貨(Functional Currency)とは、企業が営業活動を行う主たる経済環境の通貨を指します。MFRSでは、各企業が自社の機能通貨を判断し、その通貨で帳簿を作成することが求められます。

マレーシア子会社の機能通貨は、必ずしもマレーシアリンギット(MYR)とは限りません。以下の要素を総合的に考慮して判断します。

マレーシア特有の考慮事項

マレーシアでは、法人税申告はMYRで行う必要があります。機能通貨がMYR以外の場合、会計帳簿(機能通貨建て)と税務申告(MYR建て)の間で換算が必要となり、為替差異の取扱いが複雑になります。

また、マレーシアリンギットは、過去に為替管理の対象となった経緯があり、為替レートの変動が比較的大きい通貨です。機能通貨の選択は、為替リスク管理の観点からも重要です。

機能通貨の判断を誤るリスク

設立時に「マレーシア法人だからMYR」と安易に決定し、実態と乖離した機能通貨で帳簿を作成しているケースが見られます。

監査や税務調査で機能通貨の妥当性を問われ、遡及的な変更を求められた場合、過年度の財務諸表を修正再作成する必要が生じる可能性があります。これは単なる事務負担にとどまらず、税務申告の修正、日本本社の連結決算への影響など、広範囲に波及します。

日本親会社の連結で問題になる点

マレーシア子会社の会計処理は、最終的に日本本社の連結財務諸表に取り込まれます。この連結プロセスで問題となりやすい点を整理します。

問題1:会計基準差異の調整漏れ

MFRSと日本基準には差異があります。連結決算において、マレーシア子会社の財務諸表を日本基準に組み替える調整(連結調整仕訳)が必要ですが、この調整が漏れている、または不十分なケースがあります。

特に、リース会計、収益認識、税効果会計の差異は金額的影響が大きくなりやすく、監査法人から指摘を受けて過年度修正に至るケースも見られます。

問題2:決算期のズレ

マレーシアでは、会社設立時に決算期を自由に選択できます。日本本社と異なる決算期を選択した場合、連結上の調整が必要です。

日本の会計基準では、親子間の決算日の差異が3ヶ月を超えない場合は子会社の決算をそのまま使用できますが、重要な取引については調整が求められます。決算期が異なると、期ずれ取引の把握が煩雑になり、連結消去仕訳の漏れ・誤りにつながりやすくなります。

問題3:為替換算の処理

マレーシア子会社の財務諸表を日本円に換算する際、資産・負債は決算日レート、収益・費用は期中平均レート、純資産は取得時レートを使用するのが一般的です。

マレーシアリンギットは為替変動が比較的大きいため、為替換算調整勘定(純資産の部に計上)の金額が大きくなる場合があります。この管理が不十分なケースがあり、特に子会社の増資・減資、配当、のれんの減損などが発生した場合、処理が複雑になります。

問題4:内部取引の消去漏れ

日本本社とマレーシア子会社の間で発生した取引(売上・仕入、債権・債務、配当など)は、連結上消去する必要があります。

しかし、取引の認識時期のズレ、為替レートの差異、取引分類の不一致などにより、親子間の残高が一致しないケースが頻発します。特に、MYRとJPYの為替レート変動が大きい時期には、不一致の金額も大きくなりがちです。

問題5:税制優遇の開示

マレーシア子会社が税制優遇(パイオニアステータス、MSCステータスなど)を受けている場合、連結財務諸表の注記において適切な開示が必要になる場合があります。

優遇税率の適用による税負担の軽減額、優遇期間、優遇終了後の影響などを把握し、必要に応じて開示できる体制を整えておく必要があります。

問題6:子会社の会計データ・証憑の入手遅延

マレーシア子会社から日本本社への会計データ提出が遅れる、または必要な証憑が揃わないケースがあります。

マレーシアでは、月次決算の文化が日本ほど浸透していない場合があり、「年度末にまとめて処理」という運用をしている会社も見られます。日本本社の連結決算スケジュールに間に合わせるためには、マレーシア子会社の月次・四半期決算の早期化、レポーティングパッケージの整備、担当者間のコミュニケーション体制の構築が不可欠です。

会計・SST・連結の論点は、シンガポールと共通する部分もありますが、SSTという独自の間接税制度、為替変動リスク、税制優遇の会計処理など、マレーシア特有の論点も多く存在します。

進出前の段階で、マレーシア子会社の会計基準、機能通貨の判断根拠、SSTの影響、連結決算への取り込み方法を整理し、日本本社の経理部門・監査法人と認識を共有しておくことが重要です。

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(注)本記事は掲載時点の情報に基づき、一般論として執筆しております。法令等は改正される場合がありますので、実務に適用される際は、最新情報のご確認および専門家へのご相談をお勧めいたします。