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[M&A] 上海との相互株取引で細則:HKEX、さらなる開放も示唆

香港取引所(HKEX)は4月29日、香港と上海の株式市場の取り引きで、相互乗り入れを確立する「滬港通」について実施細則を発表した。同日記者会見したHKEXの李小加(チャールズ・リー)最高経営責任者(CEO)は、「中国本土と香港の双方向の資本市場開放が目的。まずは始発列車で最終列車ではない。開放は今後さらに拡大する」とその意義を強調した。

李CEOは「今回の細則はあくまで試験的なもので、取引限度額の設定などは株式市場の混乱を避けるための措置」と説明した上で、「今後市場や監督管理の状況を見てさらに拡大するだろう」と明らかにした。

具体的には取引限度額の引き上げや、取り扱う商品の増加、香港株式の人民元価格の決定などを例に挙げたほか、香港と深セン証券取引所との相互乗り入れも拡大の1つだと強調した。また商品先物取引や人民元商品の相互乗り入れも視野に入れるとした。

「滬港通」は、◆香港と海外の投資家が上海証券取引所上場のA株(本土投資家向け株式)を取引する「滬股通」と、◆中国本土の投資家が香港上場の株式を売買する「港股通」――の2通りに分かれており、今年10月の始動を目指している。

8割以上の株式が取引可能

滬港通で取引される株式は、上海のA株を取引する滬股通が568銘柄(4月10日時点)で、時価総額は上海取引所に上場する株式全体の90%に達する。投資リスクの高いST銘柄は取引対象から除外される。

一方、香港株式へ投資する港股通の取引可能銘柄数は266銘柄。HKEXに上場する株式全体の時価総額の82%を占めている。香港ドル以外の通貨で見積もり価格を出している銘柄は除外される。

また上海・香港両取引所ともに新規株式公開(IPO)銘柄は滬港通の取引対象にはならない。

取引は両取引所が相手側の市場にそれぞれ設立する子会社を通じて行う。

手数料などコストも一部明らかに

HKEXの発表によると、香港や海外の投資家が上海の株式に投資する際の手数料は、取引額の0.00696%。そのほか◆証券管理費=取引額の0.002%◆振り替え費用=取引額の0.06%◆取引印紙税=取引額の0.1%――の取引コストがかかり、上海の株式を取引した際に徴収される手数料などの取引コストは合計で取引額の0.16896%となる。

現在HKEXの取引手数料などのコストは、手数料と印紙税などを合計して取引額の0.108%。香港や海外の投資家が滬港通を通じて上海の株式を取得した場合に徴収される取引コストは、HKEXでの現行取引コストに比べて高くなる。

港股通を通じて本土の投資家が香港株式を取引する際にかかる取引コストは手数料や印紙税などを合わせて、現行と同じ取引額の0.108%となる。

また今後、株式の配当に対する課税やキャピタルゲイン課税、新たな中央決済システムの利用費などが設定される予定だ。

李CEO「A株の救済目的ではない」

滬港通の取引総量は、当初の予定通り当面上海株式が3,000億人民元(約4兆9,000億円)、香港株式が2,500億元となった。1日当たりの取引限度額も設けられ、上海が130億元、香港が105億元に決まった。

香港経済日報によると、上海の取引総量が香港を大きく上回っていることから、一部からは取引低迷が指摘されているA株に対する救済措置ではないかとの指摘も出ている。しかしHKEXの李CEOは「滬港通は本土と香港の相互開放が目的。A株の救済が目的ではない」と強調した。

また1日当たりの取引限度額は純買入額によって計算される。株式の売却には制限を設けないとした。

例えばあるA株銘柄に180億元の買い注文と50億元の売り注文が出た場合は、純買入額は130億元となり、1日当たりの取引限度額に達するため、新たな買い注文は受理されない。のちに新たな売り注文が出た場合は、売り注文の額だけ買い注文が開放される。

また取引総量の残額が1日当たりの取引限度額を下回った場合は、翌日の株式購入は一時停止される。売り注文が出て取引総量の残額が1日当たりの取引限度額を超えれば、株式の購入が再開される。

為替リスクは投資家に

滬港通の取引通貨は滬股通が人民元、港股通が香港ドルに決まった。

港股通の場合は香港ドルで取引し、人民元で清算する。本土の投資家が香港株式を購入する場合は人民元を香港ドルに両替して購入する。株式を売却した際は香港ドルを人民元に両替し、証券ブローカーを通じて売却額を受け取る。

株価の変動を考慮しない場合、人民元高の時に香港株式を購入すれば為替差益が発生するが、売却した場合は為替差損が発生する。

また滬股通の場合は人民元高時に株式を購入すると為替差損が発生し、売却時には為替差益が発生する。

HKEXの李CEOは「為替の問題は滬港通が解決する問題ではなく、リスクは投資家が負うことになる」と明言。「為替リスクが大きな問題になると考える投資家は取引に参加しなければいいだけだ」と述べた。

恒生銀行の馮孝忠(アンドリュー・フォン)執行取締役は蘋果日報の取材に対し、「為替リスクは短期売買の投資家にはそれほど影響はないが、長期投資の場合は大きな影響が出る」と指摘した。

休日による不便さも

実施細則では滬港通の取引実施日についても明確にされた。滬港通の取引可能日は、HKEXと上海取引所の双方が取引を行っている日に限られる。

例えば香港の投資家が上海の株式を売買する滬股通の場合は、上海取引所が取引を行っている日であっても、HKEXが休場であれば取引はできない。もし上海取引所が取引を行っている日にHKEXが休場であれば、保有する上海株式の株価が大きく乱高下しても、投資家は滬股通を通して対応することはできなくなる。

また双方の取引所が空いている場合でも、取引の清算は翌日以降になるため、例えば翌日にHKEXが休場の場合は取引はできない。

今年を例にすると、上海取引所がオープンしていながら香港から滬股通が利用できない日は12日間、HKEXがオープンしていながら本土から港股通を利用できない日は20日間あるという。

滬港通は今後、規定やプログラムの変更、市場の準備や投資家への周知などを進め、試験導入を経て6カ月後の10月中にも正式始動する見通しだ。(NNA.ASIA [6]