国際会計税務・相続

国外財産調書制度について (2)

国外財産調書制度について (2)

5. 国外財産の価額(評価方法)

国外財産の価額については、その年の12月31日における時価または時価に準ずる見積り価額によることとされている。時価等には、一般に幅があると考えられるので、実務的にどのような価額を用いるべきか、後日、税務当局から通達等により示さされる予定である。
なお、相続税、贈与税においては、国外財産の評価について法令に定めがない場合には、財産評価基本通達5-2で次のように評価することとされている。

(国外財産の評価)
国外にある財産の価額についても、この通達に定める評価方法により評価することに留する。
なお、この通達の定めによって評価することができない財産については、この通達に定める評価方法に準じて、又は売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価するものとする。(平12課評2-4外追加)
(注)この通達の定めによって評価することができない財産については、課税上弊害がない限り、その財産の取得価額を基にその財産が所在する地域若しくは国におけるその財産と同一種類の財産の一 般的な価格動向に基づき時点修正して求めた価額 又は課税時期後にその財産を譲渡した場合における譲渡価額を基に課税時期現在の価額として算出した価額により評価することができる。

国外財産の価額についての「邦貨換算」については、その年の12月31日における「外国為替の売買相場」により行うこととされた。この場合の「外国為替の売買相場」の基準については、財産評価基本通達(4-3)に規定されている金融機関における対顧客直物電信買相場(TTB)が基本となるものと考えられる。

6. 国外財産調書の記載事項および様式

国外財産調書には、氏名、住所または居所、国外財産の種類・数量・価額および所在地等を記載しなければならず、様式は以下のように定められている。
国外財産調書の様式

7. 国外財産調書の提出先

国外財産調書の提出先(所轄税務署署長)は、所得税の納税義務の有無に応じ、次によることとされた。

  1. その年分の所得税の納税義務がある者
  2. その者の所得税の納税地を所轄する税務署長

  3. 上記1. 以外の者
  4. その者の住所地(国内に住所がないときは、居所地)を所轄する税務署長

8. 虚偽記載や不提出についての罰則

国外財産調書の不提出、虚偽記載については、1年以下の懲役または50万円以下の罰金とし、あわせて情状免除規定が設けられた。
この罰則規定は、2015年1月1日以後提出分からの適用となる。

9. 過少申告加算税または無申告加算税の特例

修正申告等を行った場合には、修正申告等により納付する本税について10%の過少申告加算税、15%の無申告加算税が課されることとなる。

  1. 優遇措置
    国外財産に係る所得税または相続税について、申告漏れが生じた場合であっても、事前に提出期限内に国外財産調書を提出したときには、過少申告加算税・無申告加算税が上記の%からそれぞれ5%軽減されることとなる。
  2. 加罰措置
    国外財産に係る所得税について申告漏れが生じた場合において、提出期限内に国外財産調書が提出されていない場合、または提出された国外財産調書に申告漏れの起因となる国外財産の記載がないときは、過少申告加算税・無申告加算税が上記の%からそれぞれ5%加重されることとなる。

10. 想定される影響

確定申告書の提出義務者で、その年の収入金額が合計2,000万円を超える者については、その年の12月31日現在の財産・債務について明細書を提出する必要がある。
しかしながら、国外財産調書制度については、その年の収入金額の合計額が2,000万円以下であっても、その年の12月31日において国外財産の合計額が5,000万円を有する居住者(個人)については、国外財産調書を翌年の3月15日までに所轄税務署長へ提出する必要があるため、申告漏れが生じないよう注意が必要である。

11. Q & A

  1. 国外財産調書の提出基準額
    Q. 提出基準額が5,000万円超とされた理由
    A. 基準額の設定に当っては、相続税の基礎控除部分等が参考にされている。また、これまでにおける所得税や相続税の国外財産に係る課税漏れが5,000万円前後となっていること等を考慮されたと思われる。
  2. 外国法人の株式社債等
    Q. 外国法人の発行する株式、社債を日本の証券会社の窓口で購入した場合
    A. 国外財産に該当する。株式等については、発行法人の本店または主たる事務所の所在地が財産の所在地とされている。購入地が日本国内であったとしても、財産の所在地は国外になる。
  3. 非上場株式の評価
    Q. 所有する外国法人の株式等が非上場株式等であった場合
    A. 現在、明確な評価方法は明らかにされてない。しかしながら、相続税、贈与税では、原則として財産評価基本通達(5-2)の定めるところにより評価することとされていることから、これに準ずると予想される。
  4. 資産と負債が両建てになっている場合
    Q. 海外に不動産を所有し、その購入に際して多額の借入を行った場合
    A. 純資産(資産-負債)の金額でみれば5,000万円以下であったとしても、資産の総額で5,000万円超である場合には、国外財産調書の提出が必要となる。この制度では、国外にある資産の総額に着目した制度設計がなされているためである。
  5. 未分割の国外財産
    Q. 相続で取得した国外財産のうち、未分割となっている国外財産がある場合
    A. 法定相続分により相続したものとして、その価額を計算する。
    相続または包括遺贈により取得した国外財産の全部または一部が未分割である場合には、民法の規定による相続分または包括遺贈の割合にしたがって当該国外財産を取得したものとして、その価額を計算することとされている。