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[国際税務入門] 租税条約 (3)

租税条約の主要な項目につき、前回の6.給与所得、7.役員報酬に続き、残りの項目を紹介します。

8.二重課税の排除方法

OECDモデル租税条約では、二重課税の排除の方法につき、国外所得免除方式と外国税額控除方式の2つの方式が定められています。
国外所得免除方式は、国外を源泉とする所得には課税をしないとすることにより二重課税を発生させないようにする方式です。
外国税額控除方式は、国外を源泉とする所得につき、その国(仮に中国)で課された税額を、居住者(仮に日本法人)が全世界所得(国内源泉所得+国外源泉所得)に対して課された自国(日本)の税額から控除することにより二重課税を排除する方式です。
日中租税条約や日港租税協定では外国税額控除方式が採用されています。このうち日中租税条約では、通常の外国税額控除のほかに、みなし外国税額控除の規定も設けられています。詳しくは次回以降に紹介しますが、この規定により、中国側から日本に支払うロイヤルティ(使用料)については20%の源泉税率が課されたものとみなされ、中国の国内法で規定される実際の源泉税率10%の税額のほか、更に10%の税額を日本側で外国税額控除の対象とすることができます。

9.相互協議

相互協議とは、納税者が租税条約の規定に適合しない課税を受け、又は受けると認められる場合において、その条約に適合しない課税を排除するため、条約締結国の税務当局間で解決を図るための協議手続です。相互協議の申立てができる期限は、条約の規定に適合しない課税に係る措置の最初の通知の日から3年以内とされています。なお、申立てがあった場合、税務当局は解決に向けて努力する義務がありますが、合意を100%保証するものではありません。

10.情報交換

脱税及び租税回避への対応として、条約締結国の税務当局間で、銀行機密を含む納税者情報を交換できることが規定されています。
この情報交換の実施状況について、日本の国税庁は、平成23年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要として、平成23年4月~24年3月における情報交換の実施状況を昨年公表しています。
ここでは、情報交換を、「要請に基づく情報交換」、「自発的情報交換」、「自動的情報交換」の3つの類型に分類しています。

「要請に基づく情報交換」とは、個別の納税者に対する調査等において、国内で入手できる情報だけでは事実関係を十分に解明できない場合に、条約等相手国・地域の税務当局(外国税務当局)に必要な情報の収集・提供を要請するもので、実施例として、タックスヘイブン国に設立された海外子会社の実態が不明であったので、タックスヘイブン国に対し当該海外子会社に関する登記情報、財務諸表等に関する情報提供を要請し、回答を受領した例を挙げています。

「自発的情報交換」は、例えば、日本の納税者に対する調査等の際に入手した情報で外国税務当局にとって有益と認められる情報を自発的に提供するものです。
実施例として、国内法人が、海外取引先に対する支払の一部を、日本国内の銀行の海外取引先代表者名義の口座に送金しており、海外取引先における申告漏れが想定されたことから、この事実を取引先の所在地国・地域の外国税務当局に自発的に情報提供した例を挙げています。

また、「自動的情報交換」は、法定調書等から把握した非居住者への利子・配当・使用料等の支払等に関する情報を、利子・配当等の支払国の税務当局から受領国の税務当局へ定期的に送付するものです。

表1は、日本と外国との間における情報交換の実施件数を表したものです。近年、日本の国税庁がアジア方面の国と積極的に情報交換を行なっていることが分かります。

租税条約等に基づく情報交換の実施状況