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[国際税務入門] 移転価格税制 その1

今回は、海外の関連会社と取引がある場合に、特に留意が必要な税制がテーマです。

海外の関連会社と取引がある場合、その取引価格を操作することにより、所得を税率の低い国に移転し、グループ全体の税金を少なくすることが可能となります。そこで各国では、こうした海外の関連会社との取引を通じた所得の海外への移転を防止するため、移転価格税制という制度を設けています。

移転価格税制とは

移転価格税制とは、海外の関連企業との取引価格(移転価格といいます)が通常の取引価額(独立企業間価格といいます)と異なることにより所得が減少する場合、その取引が独立企業間価格で行われたものとみなして所得を計算し課税する制度です。
適用対象となる取引は、資産の売買、役務の提供などの取引で、出資や配当等の資本取引等を除く海外関連企業との取引全般です。

図1で、移転価格税制の基本的な仕組みを、X国の企業がY国の企業に商品を販売する場合を例に示しました。
ケース1は、第三者間の独立企業間価格150で販売する場合で、ケース2は、
親子会社間で取引価格を調整し120で販売する場合です。ケース2では、表1の計算例に示すように、親子会社間での恣意的な価格設定によりX国の親会社の税金が少なくなるため、X国の税務当局は移転価格税制により120の販売価格を独立企業間価格である150とみなし、親会社に増加した所得30に対する税金の追加納税を求めます。
[1]

二重課税

図1のケース2で、X国の親会社の所得30が増額調整された場合、Y国の子会社の所得30が自動的に減額調整されることはないため、この所得30は二重課税の状態になっています。この二重課税を解消するための手段としては、X国の国内法に基づく救済手段(日本の場合、異議申立て)と、X国とY国の間に租税条約がある場合には、租税条約に基づく相互協議の申立による方法があります。ただし、いずれも二重課税が解消されることを保証するものではありません。これに対し、税務調整を受ける前に、予め自社の移転価格について税務当局と協議し、価格が妥当であるとの保証をとることで二重課税を回避する方法(事前確認協議といいます)も設けられています。