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[中国組織再編実務] 持分譲渡

組織再編のなかでもこの数年多いのが、中国現地法人の持分譲渡です。

この持分譲渡は、

  1. 中国法人の買収、売却、
  2. 中国現地法人への増資による資本参加、
  3. グループ香港法人を中国現地法人の統括会社として変更

等々を起因としますが、いずれも現地法人の出資会社または出資比率が変更することになるため、これに伴い、中国では当局への持分譲渡手続きが必要となります。

今回は、日本企業が100%出資している中国現地法人の出資持分を香港法人に譲渡する場合の持分譲渡について、注意点等を解説します。

1.政府手続き

中国で持分譲渡手続きを行う際、法人設立時に登記を実施したすべての部門への変更が必要となります。
政府手続

2.準備資料

持分譲渡手続きにおいては、譲渡対象となる中国法人、譲渡企業、譲受企業のそれぞれの法人が資料を準備しなければなりません。

譲渡対象中国現地法人

準備資料

譲渡企業(香港法人へ譲渡する日本法人)

準備資料

譲受企業(新たに親会社となる香港法人)

準備資料

3.基本注意事項

資産評価の必要性

生産型企業の持分譲渡では資産評価師による資産評価を要求されることが多いですが、実務上、地域によりその要求は異なります。持分譲渡手続きは当局の批准を必要とし、譲渡対価の合理性を判断するため、資産評価を要求されることがあります。
また持分譲渡対価により譲渡益にかかる税額は異なるため、譲渡対価が合理的であるかを判断するために、税務当局から資産評価を求められることもあります。
対外経済貿易部門において持分譲渡手続きの内容が批准されたとしても、納税に関しては、譲渡価格を計算基礎とはせず、場合によっては資産評価報告書から判断して、その納税基礎金額を修正される可能性もあります。

登記変更に伴う必要準備資料

新たに出資者となる香港法人は資本信用証明(取引銀行へ手配)が必要となりますが、そこに記載された口座残高金額は、持分譲渡協議書に記載された譲渡対価を上回っていることが望ましいとされています(持分譲渡により新たに出資者となる会社の信用、能力を確認しているといえます)。ちなみに香港法人の資本金が、中国現地法人の資本金や持分譲渡対価を上回っている必要はありません。

持分譲渡協議書

持分譲渡協議書は、本来、当事者間にて作成するものです。ですが持分譲渡協議書は中国において公証を受けなければなりません。公証人は、その内容によっては、その譲渡内容の公証を行わないことができます。そのため公証やその後の政府手続きを考慮して、予め地域の公証処のホームページから協議書のフォーマットをダウンロードのうえ、そこに要求されている記載内容を基礎記載情報として、別途当事者間で記載したい項目を追加のうえ、事前に公証人に内容を確認しながら持分譲渡協議書の作成を進めていくと、手続きが迅速に進めることになるでしょう。
なお持分譲渡は批准を受けて初めて実行可能となるため、対価の支払に関する条項は、批准後(営業許可証変更取得後○日以内など)にするのが望ましいでしょう。

パスポート原本提示?

中国の手続きにおいては、政府の一部部門及び銀行等から、法定代表人のパスポート提示が求められることがあります。提示をしないと手続きがストップすることになりますので、どの部門、いつの時点で必要なのか、確認をしておくとよいでしょう。  

その他の変更を伴う場合

持分譲渡により、社名の変更、増資、経営範囲の変更などを伴う場合は、持分譲渡手続きと合わせて、一度に手続きを実施することが可能です。
ですが、増値税発票の変更などに伴い、経営に影響を及ぼす可能性がある場合には、手続きは別途行うのがよいか、一緒に行うのがよいか、事前にスケジュール確認をしながら決定するとよいでしょう。
なお政府部門認可レベルは、ここ数年、認可権限が下級機関(市から区の窓口へ)に移譲されている地域があり、複雑な手続きに慣れない担当者の対応にストレスを感じることも少なくないため、複雑な手続きほど、時間に余裕をもって対応したり、地域の専門家に相談することをオススメします。

譲渡益に対する課税

組織再編に関する税金問題は別の回で紹介しますが、外国の法人(譲渡した法人)が譲渡益に対する納税を行う場合、どのように納税手続きをするのか、事前に管轄税務局に確認が必要です。持分譲渡対象法人は納税の協力をする必要はありますが、納税義務者ではありません。税務局ヒアリング及び実務ベースでは、地域ごとの対応が異なり、不明点も多いので、納税トラブルを避けるため、予め管轄税務局に対応を相談するとよいでしょう。

デューデリジェンスの必要性

グループ間であれば管理者が実質変わらないので、事前にデューデリジェンスを実施しないことがほとんどですが、グループ会社ではなく、以前から取引関係にあったり、また、オーナー企業同士の信頼感のみに頼って、デューデリジェンスを実施せずに譲渡を実行するのは大きなリスクを伴います。どんな信頼関係であったとしても、この場合はデューデリジェンスを実施して、譲渡対象法人のリスクを理解したうえで、最終契約に対する判断をすべきでしょう。